7日目、日曜日
日曜日に講演会に行く二人。
「ねえ、明日、まあ正確にはもう今日だけど、なんか講演会ってのに行くんだって?」
深夜0時を回ってすぐ、玲奈からこんなメールが来た。
「申し送りってのをしてくれたのか」
と岳は思う。
数分前までの「玲奈」であったアルベギーナが翌日の玲奈に伝えてくれていたのだ。
「この地域に伝わる、女神伝説の講演会があるんだけど、一緒に行きたいと思っていて」
と岳がメールに返信をする。
「うん、行く行く、私女神なんだよ、まだ見習いだけど。女神伝説、興味ある」
すぐに玲奈からも返信が来た。
「また女神系か」
と岳は一人つぶやいた。
「ま、それならそこそこの美人だ、よかった、かも」
と一人思う岳。
脳裏にはアルテミスの顔が浮かんでいた。
翌日お昼過に玲奈と駅で待ち合わせた。
「おはよー」
そう言いながら走ってくる玲奈、いつもの玲奈だ。
「もう昼だ、芸能人かよ」
と岳が突っ込む。
電車にのり白崎駅まで行く。
ちょうど、地下にもぐったところだ。
今日は休日ということもあり、座れたが正面の窓に玲奈の姿が映っていた。
それはあのアルテミスのような、美しさの、はず
「あれ?」
と岳。
窓ガラスに映っていたのはアルテミスのような西洋の女性ではなく、
玲奈や朝陽のような、女の子の姿だった。
「私ね、エキゾチックな顔だねって言われてるんだよ」
その玲奈が言う。
「そうか、こういうタイプがエキゾチック、ってなるのか、こんな和風なのに」
と岳はつぶやいていた。
「女神なの?」
と岳が聞くと、
「メールでも伝えたけど、見習い、ね。まだまだ女神には程遠いって」
とその日の玲奈が言う。
「女神ってどうすればなれるの?」
続けて聞く岳。
「そりゃ、血筋よ。そして鍛錬を重ねてやっと一人前の女神ってわけ」
と玲奈。
そんな会話をしているうちに、電車は白崎駅に着きショッピングモールを抜けて住宅地へと向かう二人。
あの集会室まであと少しだ。
岳たちが到着すると、数人の人がちょうど玄関を入るところだった。
前来た時には気づかなかったが、
「白崎町、町内会集会室」
という看板が出ていた。
岳と玲奈も中に入る。
そこはいたって普通の民家、奥のリビングで講演会があるようだ。
リビング前方に、小さな机が置かれその隣にはスクリーン。
椅子がいくつか並べられており、既に数人が座っていた。
一番後ろの席に座る岳と玲奈。
二人が席に着くと、前方に本日の講師らしき人物が現れた。
「あ、」
と岳が声を上げる。
あの時の、黒いマントの老人だ。
「私は本日の講師を務めさせていただきます、本田洋二郎と申します。」
そんな自己紹介のあと、白崎町の歴史、女神伝説に関する話が始まった。
大昔、神話の時代。
ここ白崎町には神々と人々が共に暮らしていた。
しかし、お互いの間には見えない壁で遮られており、神と人間がお互いの交流を持つことは決してなかった。
しかし、そんなある日、神々の国の女神、「キキョウノウエ」と人間である「トウイチロウ」が掟を破り恋に落ちた。
神々は怒り、二人を引き裂こうとするが、強い絆で結ばれた二人は揺るがない。
ついに神々の追及を逃れて白崎の森でその姿をくらました、
その日、森の周りを飛びまわる2体の白い竜を多くの者が見た、という。
それ以来、白崎の森は国が飢饉に瀕しても、豊富に作物が取れ、疫病が流行っても、
森の住人に害が及ばなかった。
それ以来、白崎の森は奇跡の森、と呼ばれるようになっていた。
そして住人たちは森の一番奥に聖堂を造り、キキョウノウエとトウイチロウの魂を弔った。
それが白崎町の女神伝説、なのだそうだ。
「なんか胡散臭い作り話」
と岳は思ったが、公演をした本田老人の語り口が上手く話には引き込まれていた。
講演会に参加した人々が帰り支度を始めていた。
岳と玲奈も玄関に向かう。
そこに本田が現れた。
「やあ、来てくれたんだね」
と岳に声をかけるは本田。
「あ、興味深い話をありがとうございました」
と頭を下げてみる岳。
「そちらは?」
とホンダが玲奈を見て言う。
「友達です、同じ高校の」
と答える岳。
玲奈は笑顔で本田に会釈する。
「君、また来てくれないか、廃墟の教会の話、聞かせてほしいんだが」
と本田は岳に小さな声で言う。
「僕から、連絡しますよ」
と岳が言う。
その言葉に、本田は少し笑い
「まあ、君は真帆ちゃんの弟さんだろう?真帆ちゃんは元気かい?」
と言った。
そうか、真帆がかつて歴史を調べた時、白崎町の神父さんに話を聞いたって言っていた。
それが、この本田氏だったのだ。
「必ず連絡しますから」
と岳は言い、その日は集会室を後にした。
「身バレしてるんじゃん」
帰り道、岳は思った。
「あの教会、伝説に関係あるのか」
そう思いながら、ため息をつく岳。
それでも今起きているこの現象の手掛かりが分かるかもしれない、
そうとも思い始めていた。
「あのね」
と玲奈が声をかけた。
「あの、私の名前、アトロ・キキョウっていうの」
と玲奈。
「キキョウって」
岳も驚く。
この日の玲奈はあちらの世界で、この伝説と何か関係があるのだろうか。
だから、今日の玲奈に選ばれたのか。
そんな思いが岳の頭をよぎる。
そして、二人は自宅のある最寄り駅に着き、そのままそれぞれの家に帰った。
自宅に着いた岳はそのまま部屋のベッドに倒れこんだ。
「疲れた」
そう言いながら。
講演会はたいして長時間ではなかったのだが、なぜか疲労感がすごい。
そのまま眠り込む岳。
スマホの着信音がけたたましく鳴るまで、爆睡してしまっていた。
あわてて、画面をみると玲奈からの着信だ。
「もしもし、何?」
と岳。
「ねえ、何か忘れてない?」
と玲奈。
「しまった、今日、まだクリアできてないんじゃん」
と岳。
その日の玲奈への「好き」まだ言っていない。
すっかり忘れていたのだ。
「やばい」
慌てて岳はベッドから飛び起きた。
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