4か月目~第3週~合宿スケジュール
なんだか、楽しそうな合宿になりそうです
真帆の助け舟もあり、岳の家での合宿が認められた。
参加者は、雄太、キキョウ、玲奈、そして岳だ。
その日の玲奈、誰が来るんだろう。
岳は少し心配だ。
「騒動を起こさない奴がいい」
と。
「おい、お前は選別に口出しとかできんの?」
とチャミュに聞く岳。
「え?玲奈の事?」
「そうだよ、合宿の日、変なのが来ると困る」
と岳が言うと、
「決定権はないけど進言くらいはできるよ。試練の遂行、力を守るため、とか言えば
割と聞いてもらえる」
とチャミュが言う。
「じゃあ、雄太の切実なる願いをかなえるため、最適な人材を頼む」
そう懇願するように言う岳。
「え、なんか真剣。わかってるけどさあ」
とチャミュは少し乗り気ではない。
「応援してやろうよ、雄太のひと夏の経験ってやつにさ」
「へえ、そうなんだ。で、0時に玲奈は入れ替わる。
二人の玲奈が岳の家で過ごすわけだ、ぬかりないように依頼するよ」
また、誰かの家で0時を迎えることになる。
少し、気がかりだ。
かつて萌の家にお泊りをした際は、失神騒ぎを起こしている。
何かしら騒ぎを起こされると困る。
「ねえ、ねえ、岳。こんなの作ってみたよ」
岳の部屋に入るなり、そう言いながら一枚の紙を見せる真穂。
「チーム白崎☆合宿スケジュール」
と表題の付いているその紙には、
集合時間、
持ち物、
そして、一日のスケジュールが印字されていた。
「なんだよ、これ」
と岳。
「合宿のしおりよ」
と真穂が嬉しそうに言う
「おい、チーム白崎ってなんだよ、それに引率責任者、緑川真帆って」
文末にあったこの文字を見て、既にあきれ顔の岳。
「え?女神伝説を調べるって課題なんじゃないの?それなら白崎って地名は外せないでしょ。それにせっかくの合宿なんだからさ。これくらい作らないとね。私、来学期は実習があるからその予行演習ってことで」
そう、真穂は教員志望なのだ。
「でもな、女神伝説を調べる課題はもう済んだの。今回は違う課題。それからさ姉ちゃんは小学校の先生になりたいんだろ、俺たちは高校生。一緒にすんなよ」
と岳が言うが、
「あとは、表紙を作って、もう少しイラストを足すわね」
とまるで聞いていない。
まあ、真穂がいなけれがこの家で「合宿」など出来なかったのだから少しくらいは譲歩しよう。
しかし、
「おい、なんで女子はパジャマ持参、なんだよ」
持ち物に女子は普段着ているパジャマを持参の事、って書いたあるのを見つける岳。
「そりゃあ、合宿兼パジャマパーティーだもん。女の子たちは私の部屋でパジャマでおしゃべりするのよ。あんたたち、のぞき見厳禁だからね」
と真穂。
「パ、パ、パジャマだなんて、ジャージでいいじゃねえか」
と岳が言うが、内心、見てみたかった。
女の子のパジャマ姿。
しかし、雄太がそんなものを見たら、どうなる事やら。
岳は姉ではあるが一応若い女性が家にいて、女性のパジャマ姿なら初見ではない。
しかし、一人っ子の雄太はそうではないだろう。
「パジャマは困るぞ」
独り言のように言う岳、それをまったく無視するように、
「そうだ、夜、花火やろうよ」
と真穂。
「今日、浅草に行くから買ってくるね。問屋街があってたくさん売ってるのよ」
と岳の返事も聞かずに、言うと部屋を出て言った。
「何が花火だよ、なんか勝手に盛り上がりやがって。パジャマの一件はスルーか」
と一人残された岳がつぶやく。
その瞬間、額を突き合せるように花火を囲む、キキョウと雄太の姿が脳裏をよぎった。
はかなく燃える、線香花火をキキョウがその手に持っている。
少しでも揺れると、火玉は地べたに落ちてまう。
しかし、手が震えて、花火の火花も小さく揺れる。
そこに添えられる、雄太の手。
キキョウの白い手を雄太の手が包み込む。
庭先にしゃがみ込み、二人で一つの線香花火を静かに見つめる。
雄太がキキョウを見つめる、その視線に気づいたキキョウも雄太に目を向ける、
見つめ合う二人、そして。
いや、いや、いや、いや、
まて、まて、まて、まて、
なんという妄想をしているんだ。
二人、線香花火を囲むのは自分と、本物の玲奈のはずだ。
あの二人じゃない。
でも、もし、こんなことが起こったら、雄太にとっては
「忘れられない思い出」になるはずだ。
来年はもう一緒には過ごせない。
そう思うと、すこしだけ、自分の妄想が叶うといい、そう思う岳だった。
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