4か月目~第2週~翌朝
いつのまにやら、それぞれ寝落ちしていた。
バッドの上に玲奈と朝陽、ソファに萌。
床に敷かれたふかふかのラグにキキョウが寝転がっている。
外はもうお日様が照り付けており、そろそろ昼になろうとしている時間だ。
しかし、まだ皆起きる様子はない。
そんな中、ただ一人部屋を出て行く者がいた。
萌だ。
自分の部屋を出て階段を降りてキッチンへと向かう萌。
そして、冷蔵庫をあけ、食材を取り出し何かを作り始めた。
しばらくして、香ばしい匂いが漂い始めていた。
「いい匂いだね」
そう言いながらキッチンに現れたのは玲奈だった。
「おはよう。昨日夜更かししたからまだ眠たいね。でも朝ごはんはきちんとたべないと。
今作ってるから、ちょっとまっててね」
と萌が言う。
玲奈が食器を出したり、出来上がった料理をテーブルに運んだり手伝いを始めた。
しかし。
「あ、玲奈ちゃん、スプーンだけじゃなくてナイフとフォークも出してね。
あと、お皿はあっちの平らなの、出してもらえるかな」
と萌がやんわりと玲奈に指示をした。
「玲奈ちゃんはおうちのこと、やったりするの?」
と萌が聞く。
このわずかな手伝いをみても、玲奈がこういうことに慣れていないことは明らかだ。
「え、どうして?」
と玲奈。
玲奈にはその意図がわからないようだ。
「だってさ、あんまりやったことがないようだから」
と笑う萌。
「そうかも」
と玲奈が言う。
その日の玲奈、戦闘民族のヘラ。
もちろんこんなことはやったことがない。
そのうち、朝陽とキキョウも起きだしてキッチンへとやって来た。
二人とも、寝ぼけた顔をしている。
「さあ、座って。朝ごはんたべよ」
と萌が声をかける。
ダイニングテーブルには、こんがり焼いたトーストやベーコンが添えられたスクランブルエッグ、
サラダにヨーグルト、そしてオレンジジュースと温かい紅茶が並んでいる。
「すごーい、萌。
いいお嫁さんになれそうだねえ」
感心しながら朝陽が言う。
「お嫁さんって、ていつの時代よ」
と萌は笑う。
「いつも、萌ちゃんが作ってるの?」
キキョウが聞くと、
「いつもはママだよ。お手伝いはするけど。でも私もお料理大好きで、
ママに頼んで作らせてもらうときもあるんだよ」
と萌。
昨夜、遅くまでおやつを食べていたにもかかわらず、皆の食欲は良好でお皿の料理は
からっぽになっていった。
朝食を終えると、もうお昼に近い時間だ。
キッチンの後片付けを申し出たキキョウだったが、萌がやんわりと断った。
「もうすぐパパとママが帰ってくるから」
と。
どうやら、それより前に帰った方がよさそうだ。
身支度を整え、萌の家を後にする3人。
萌が玄関先まで見送ってくれた。
最寄り駅で、違う路線の電車に乗る朝陽と別れ、キキョウと玲奈が二人で同じ方向に電車を待つことに。
「駅まで、岳が来ているそうよ」
とキキョウ。
「え、それをなんでキキョウに伝えるの?
私に言うのが先でしょ」
と玲奈。
「まあ、そうなんだろうけど。あんたには重要な役目がまだ残ってるしね」
その日の試練をまだクリアしていない。
駅に着き、改札口を出ると宣言通り、岳が待っていた。
背中には猫用キャリーバッグ。
「あらら、あいつまで来てるわよ」
そのキャリーのなかから、白猫になっているチャミュの姿をみて玲奈が言う。
「ああ、おかえり。楽しかったの?」
と岳。
いつもと様子は変わらない。
3人で歩きながら、駅近くの公園に行った。
雑草が生い茂り、遊具はさび付いている誰も遊んでいる子供はいない。
キャリーから出してもらった白猫チャミが、するりと妖精のチャミュになる。
そして、
「ねえ、説明して」
と語気を強めて、キキョウと玲奈に言った。




