4日~6日目、先は長い
まだ1週間もたっていません、この先どうなる?
「10日目か。まだ先だな」
と一人部屋にいる岳がつぶやく
「10日目にはいいことがある」
と本日の玲奈に言われ入り混じる期待と不安。
「あいつらの言う、いいことってのがね」
そう、あちらの世界、ファンタジーワールドとかいうところ。
信じられないが、信じるしかない、そんな心境だ。
「焼肉、うまかったか?」
と玲奈にメールを送った。
すぐに返信が。
「すごく美味しかった。おなかパンパン (笑)」
と。
玲奈は、両親と弟の4人家族。
中学3年生で受験を控えた弟が、最近反抗的でとよくぼやいている。
それでも、家族みんなで仲がいい。
「親とか、気付いてないの?」
ともメールした。
「大丈夫、その辺はうまくやってるから、女神に抜かりはないわ」
と返信。
異世界から来た「玲奈」であることがわかるのは、岳だけらしい。
ま、そうじゃないと大混乱だもんな。
と岳がつぶやいた。
「じゃ、そろそろお別れだね。楽しかったよ」
午前0時直前、こんなメールが来た。
あわてて、
「俺もだ、ありがとう」
と返信をしたところでちょうど0時になっていた。
「今日の玲奈、話しやすかったな」
と岳。
今日だけではない、その前の二人もどことなく玲奈との共通点があった。
というより、玲奈と一緒にいる、そんな感じだ。
そこに、時折、本来の姿が混ざる。
「それだったら、あと363人、なんとかなるかも」
岳は、根拠もない自信を胸に、眠りについた。
4日目、この日の玲奈は随分と幼い感じだった。
電車の窓に映っているのは、10歳くらい?と言った少女だ。背も、本物の玲奈よりだいぶ低い。
窓ガラスには、岳より頭2つ分くらい背の低い子が映っている。
「私ね、早くこんなお姉さんになってみたかったんだ」
とその玲奈が言う。
「あと5,6年たてばなれるでしょ」
と岳。
「私たちの種族はね、すごく長寿で私だっでもう100歳越えてるの。あと200年くらいで
こんな風になれるかな」
と玲奈が遠い目をしながら言う。
「時間の経過感覚は、岳たちと同じなのよ。だからもう長くてね」
と玲奈。
「いや、大変なんだね。君たちも」
そう言う岳に、
「でもね、みんなの人生を見届けるのが私たち種族の役目。寂しい事だけど、世代、世代に受け継がれていくいろいろなことを目の当たりにできるのは素晴らしい事よ」
と玲奈が言う。
「そんなんだね、じゃあ僕の人生も見届けてほしいよ」
岳がそう言うと、玲奈は寂しそうに笑った。
「今日だけしか会えないのにね」
と。
その愁いを帯びた顔がなんだか愛おしく、
「好きだよ、そう言う玲奈」
と声をかけた。
「あ、クリアした、かも」
と思わず声が漏れる岳。
5日目、
気付かない間に、クリア、相手もよく見ていない。
6日目、
土曜日だ。
学校が休みなのは初めてだ。
「どうすればいい?」
しばし思案した結果、玲奈をメールで呼び出した岳。
駅前で待ち合わせをして、ファストフード店へ。
ポテトを美味しそうにほおばる玲奈。
「あの、明日の君に伝言とかってできるのかな?」
と岳が聞く。
「一応、申し送りメモってのがあるよ。学校の友達とかの約束とか宿題とかあるでしょ」
と玲奈。
「そっか、じゃ明日の玲奈に、明日、女神の伝説聞きに行こう、って伝えてくれるかな」
岳は明日の日曜日、白崎町の集会室で開催されるという歴史の後援会に玲奈と共に参加しようと考えていた。
女神、その言葉を聞いて玲奈の顔に一瞬の緊張が走る。
「女神?」
そう言いながら岳を見る目が鋭い。
「そう、あのあたりに伝わる伝説らしいよ」
と岳はあえて平静を保ちながら答える。
「そうか、そんなのがあるんだ、ここには」
先ほどまでのこわばった顔から、なんだかおもしろい物でも見つけたような表情に変わる玲奈。
「まかせて、明日の玲奈には伝えておくから」
そう自信ありげに言った。
「ねえ岳、私の本当の名前、知りたい?」
と玲奈が言う。
「言っていいの?禁止されてるんじゃ」
「私たちは大丈夫よ。伝えたいな、と思えば言っていいの。
私の名前はアルべギーナ、女神の家系よ」
そう玲奈がそう言いながら岳をファストフード店の鏡張りの壁の前に連れて行った。
そこには、あのファンタジーワールドでみた3人の女神によく似た姿をした女性が立っていた。
「でもね、家系っていうだけで私自信は女神じゃないんだけどね」
そう言う玲奈ーアルベギーナは笑顔で岳を見る。
その顔はあの3人の女神たちに負けず劣らず美しい。
特に岳が気に入っている、アルテミスに面差しがよく似ている。
要は、岳の好みの顔、のようだ。
「あの、アルベギーナ、好きだ」
そう言う岳、心の中で、「今日もクリアだ」と叫ぶが、
「ダメよ岳それじゃ。玲奈に対して言わないと」
とアルベギーナ。
目を閉じて、鏡に映るアルベギーナを見ないように再度、
「好きだ」
と告げる岳。
「まあ、いっか、クリアだよ」
とアルベギーナ。
「私の名前は覚えておいてね、せっかく教えたんだから」
とその日の玲奈は、いつもより少し違っている、岳はそう思った。
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