4か月目~第1週~キキョウとの距離感
「狙う者?俺の力をか?」
イレジウムとチャミュの言葉に思わず岳が言う。
「そういうこと」
とチャミュ。
「まあ、狙われるんだろうな、とは思ってた」
と岳が言うと、
「こちらの想定より早い」
「そうだな、キキョウ殿の予測でも早くても夏休みとやらが終わるころかと」
チャミュとイレジウムが言う。
すると、イレジウムが急に動きを止めた。
しばらく静止した後、
「キキョウ殿からの通信だ。敵のデータが入手できているとのことだ。
雄太殿のご助力に感謝だ」
とイレジウムが言った。
「データ?雄太?」
岳はますますよくわからない。
「では、我はキキョウ殿の元に帰還いたす。後ほど作戦会議が催されるであろう」
そういうと、イレジウムはそのまま姿を消した。
「あいつ、やっぱり変な言葉使い」
岳が笑いながら言う。
しかし、チャミュに向き直すと、
「さあ、説明してくれ」
と強い口調で言った。
「雄太も絡んでるのか?」
「知りたいのはそこなの?
雄太が女神伝説に関わる家系、これはわかってるよね」
とチャミュが説明を始める。
キキョウは雄太に、「岳の力を守る」という潜在意識があることを察していた。
しかし、できるだけ違和感なくその力を使ってもらいたい。
そう考え、雄太のスマホに少しだけ細工をしたのだ。
「そういうの、アプリって言うんだっけ。それを入れたんだよ。
雄太のスマホに。
岳の力に脅威になる勢力、これが現れたらその相手を察知するって機能。
GPSも付いてるんだよ、悪い奴センサーってやつかな。
さっきは、それで雄太がスマホから相手のデータを集めることができたんだ。
ゲームみたいにね」
とチャミュ。
「そんなことできんのか。やるじゃん。
で、データ集めて、何がわかるの?撃退方法とか?」
岳が言うと、
「岳を狙ったのが、あっちの世界から来ているのか、この世界の者なのか、
そこから調べないと。
あっちの世界の奴なら、簡単に撃退できるけどこっちだったら厄介だ。
今、キキョウが分析しているよ」
と言うチャミュの言葉に、
「キキョウって、有能なの?」
と岳。
この前、校外学習に行った先でほんの少しの「力」を使っただけで、
倒れこんでいたキキョウだ。
「キキョウはね、とても優秀だよ。
本当だったら、もっと早く正規の女神になっていたところだ。
でも、キキョウはこの世の血も引いているから、浄化するのに時間がかかっているんだ」
とチャミュが言う。
そういえば、あの校外学習の後、あっちの世界へ行って何かやって来たんだっけ。
なら心配ないってことか。
岳は、キキョウを思った。
自分の知らない世界で生きるキキョウ。
この試練が終われば、もう会うことも出来ないであろう存在だ。
それなのに、とても気になる。
でもそれは、玲奈に対するような想いではない。
何か、そても自然な気持ちだ。
そして、どこか懐かしい気がする。
「なんだか、ずっと離れていた従姉?って感じがするんだ。キキョウって」
そうチャミュに話すと、
「だって、親戚でしょ、きみたちは」
とチャミュが笑いながら言った。
そうか、そうだよな。
岳が思う。
お互いの住む世界での時間の流れは大きく異なるが、
自分とキキョウは同じ血族だ。
なんだか、納得できた。
だから、キキョウの事を、「好き」にはならないんだ。
キキョウは魅力的だ。
雄太や亮がぞっこんなのもわかる。
しかし、自分はそこまでの気持ちにはならない。
かといって、嫌っているわけではないし、むしろ好意は持っている。
でも、明らかに、玲奈に対するものとは違う。
それでいて、雄太や亮よりも親密な関係でいる自信がある。
それは、この距離感は、
そうだ、親戚のお姉さんに対する気持ちだ。
そう思うと、岳は一人笑ってしまっていた。
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