4か月目~第1週~現れない教会
玲奈の事に気が付く本田
岳とその日の玲奈、あの醜い姿の玲奈。
二人で白崎の森のあたりを歩いていた。
しかし、この二人では森は姿を現さない、
もちろん教会もだ。
そんな二人を遠くから見つめているのは、神父の本田だ。
「教会」の出現を確信しながら二人を静観していた。
しかし
何も起こらない。
当然だ。
今日の玲奈は「女神伝説」とは無関係だから。
玲奈は玲奈で、そのことを改めて確信してすこし落ち込んだ様子だ。
「それでもいいじゃん。
また、来てよ」
と岳が言う。
なんだか、今日の玲奈とは話しやすい。
最初からそう思っていた。
「また会いたいから」
と付け加えた。
そう言われて、
「岳は呑気だね」
とポツリ言う。
小さな声だったが、岳には聞こえていた。
ー例の力の事を思っているんだー
そう思う岳。
しかし、岳の中では、「成就の力」に関しては、キキョウとチャミュの任せて、
自分は玲奈に毎日想いを伝える、これだけに専念すればいい、そう言う思っていた。
「じゃ、帰ろ」
と岳に言われ、駅に向かい歩き出す二人。
「なぜ、何も起こらない」
遠くで見ていた本田がイラついた様子でつぶやいた。
「あの二人でも出現するはずだ」
と。
意を決して歩き出した本田。
二人を追いかけた。
「やあ、こんなところで」
と岳に声をかける本田。
岳とは喫茶店でまた教会へ行こう、と声をかけて以来の再会だ。
あの時の本田は、その前に岳とキキョウ共に、白崎の森へ行き出現した教会を見た。
しかし、中に入ることはできなかった。
そのうえ本田は教会が出現したことを、覚えてはいなかったのだ。
「あ、すみません。試験が終わって夏休みの学習計画をたてなければならなくて、いろいろと忙しくて。なかなかお声をかけられずにいました」
と岳。
こういう時に、自称進学校は言い訳がたくさんある。
「今日は、ここまでいらしたんですね。
玲奈さんと一緒に」
と本田。
少し気まずい。
今日は白崎の森さえ出現しないのだから、本田が納得するだろうか。
「では、夏休みになったら、改めて、ということでどうでしょうか」
と本田が言う。
頷く岳。
そして、
「それでは、また後ほどということで。
玲奈さん、またお会いしましょう」
本田はそう言うと、玲奈の顔を見た。
「今日の玲奈さんは穏やかな方ですね」
そう言うと二人の元を去って行った。
「あいつ、どこまで知っているんだろう」
と岳が言うと、
「あの人は女神の血統はないわ。だけど深くかかわった形跡を感じるの」
と玲奈。
「そんなことがわかるんだ。魔法使いみたいだね」
岳が言うと、
「そう言う種族なのよ」
と笑う玲奈。
「色んな種族がいるんだね、君たちの世界には」
岳もほほ笑んで言う。
白崎駅から電車に乗り、最寄りの駅で玲奈と別れた。
電車内で、窓ガラスに映った玲奈の姿、おどろどろしいバケモノだ。
それでも、岳は、
「また会いたい」
別れ際にそう言った。
家に戻ると、もう夕方になっていた。
部屋では昼寝から起きたばかりのチャミュがボケっとしていた。
「よく寝たのかな」
そう言いながらチャミュを見る岳。
「うん」
とあくびをしながら答えるチャミュ。
そして、いつものように、岳から「成就の力」を抜き取った。
「今日はいつもより威力があるんだけど」
とチャミュ。
その日の玲奈に対する感情により、多少のエネルギーの違いがあるのだ。
「今日の玲奈は」
とチャミュ。
「あいつか」
そう言いながら、
「根はいいやつなんだけどね」
チャミュが言う。
「見た目で判断しないの」
岳が言うが、
「見た目もだけど、あいつらの種族は」
とチャミュが何か言いたげにした。
しかし、岳はそれ以上を聞こうとしなかった。
もう、会うこともないなら、これ以上のウンチクは無用だ。
岳は今日、本田に会ったこともチャミュに話した。
岳と玲奈が揃っていたのに、白崎の森が出現しなかったことに、疑問を持っている様子だったこと、
玲奈が日替わりであることに、気付いているかもしれないこと、
などを話した。
「本田さんねえ、厄介な存在にならなきゃいいけどね」
とチャミュがため息交じりに言った。
「いい予感はしないんだけどね」
と岳が言う。
その日の夜、日付が変わる直前、玲奈からのメールがあった。
「岳、気を付けて」
とひとこと。
「どういうこと?」
と返信をする間もなく、日が変わった。
見るとチャミュも姿を消していた。
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