4か月目~第1週~久しぶりの学校
夏休みは目前
岳の誕生日に行ったBBQの後、
あの教会で、なんだか「4人の仲間たち」みたいになった。
それに少しの寂しさを感じたのは、岳だけのようだった。
「俺は、今までの俺で」
と岳は思った。
その日は、久しぶりの登校だ。
いつものように、朝からセバスチャンの散歩に行き、
そして朝食を摂り、それから支度をして家を出る岳。
「おはよう」
駅で玲奈と落ち合う。
これもいつも通りだ。
電車に乗り、その車体が地下に潜るとガラス窓に映し出されるその日の玲奈。
映ったのは。
最初にあっちの世界から来た玲奈、としてやってきたあの恐ろしい姿だった。
「久しぶり」
とその日の玲奈が言う。
「やあ、きみが来たんだね」
と岳。
意外そうな言い方だ。
これから、玲奈としてこっちに来るのは女神関連の誰か、だと思っていた。
「まあ、俺も今まで通り、なんだから」
と一人納得する岳。
「ねえ、せっかくこっちに来たんだから、何かやりたいこととか行きたいとことかないの?」
と岳。
「え?」
玲奈が驚いたように言う。
「どうしたの?」
と続けた。
前に来た時、岳はただいつも通りの日常を過ごしている、そんな感じだった。
あっちの世界から来てるからって、何か気に掛けるようなことはなかった。
「じゃあ、24アイスの期間限定パフェが食べたいな」
と玲奈。
24アイスはアイスクリーム専門のファストフード店だ。
時々、限定品を出すのだが、今販売している、
「夏待ちのパフェ」
と言うのが人気なのだ。
「情報通だね」
と岳。
「そんなパフェ、あるんだ」
24アイスの限定品パフェ、岳は知らなかったようだ。
「じゃ、今日の帰りに。
白崎駅前のショッピングモールの中にあるから」
学校に着くと玲奈と別れ、自分の教室へと向かう岳。
今日は授業があるわけではなく、夏休みの課題や補講の説明が主なカリキュラムだ。
教室に入ると、すでに半数以上の生徒が登校していた。
亮や萌ももう来ている。
「こないだは、どうも」
と亮。
亮と会うのは、岳の家での誕生日会依頼だ。
いや、亮だけでなくキキョウと雄太、そして玲奈意外とは、久しぶりの再会だ。
とりあえず席に着くと、傍に座っていた雄太が手を上げて合図を送って来た。
教室内では今まで通り、大人しめの雄太だ。
しばらくして、キキョウが駆け込んできた。
走って来たらしく、息を切らし顔は汗ばんでいる。
「もう、遅刻するかと思ったよ」
そう言いながら、席に座るがまだ息が上がったままだ。
「あと1本、前の電車に乗ればいいのに」
そう言いながらキキョウの席に近づく雄太。
手に持っていたペットボトルの水をキキョウに渡す雄太。
当たり前のように、それを受け取り口に含むキキョウ。
そのやり取りはすごく自然だ。
「わかってるけどさ、間に合わないんだもん」
水を飲み、やっと落ち着いてきたキキョウが言う。
「ありがと」
とペットボトルを雄太に返すキキョウ。
そんな姿を、じっと見ていたのは萌だ。
その目が鋭い。
「私のキキョウちゃんなのに」
と小さく呟く萌。
岳も雄太とキキョウの姿を目の端にいれていた。
「仲がよさそうだ」
と。
しかし、雄太がキキョウと一緒に登校しているわけではない、
そう思うと、すこしだけ安心している自分に気付いていた。
その日は、午前中で下校となった。
校門で玲奈と待ち合わせ、そのまま白崎駅のショッピングモールへと行くつもりだ。
「楽しみだな、夏待ちのパフェ」
と玲奈がはしゃぐように言う。
ショッピングモールのフードコートに24アイスの店舗がある。
ちょうど昼時ということもあり、フードコートはそこそこの人だったが、
席も確保し、24アイスで買ってきた「夏待ちのパフェ」を食べる玲奈、そして岳も。
食べ始める前にパフェを前にして写メを撮る岳。
「記念にね」
と言いながら。
パフェを口に運ぶ玲奈、すごく幸せそうな顔をしている。
その姿に、
「玲奈のそう言う顔、好きなんだ」
と岳。
「あれ、試練達成じゃん」
玲奈が言う。
「あんまり嬉しそうに食べてるから」
と岳が言うと、
「私たちの種族はね、錠剤でしか食事が出来ないの。あっちの世界じゃ。
だからこれは一生の想い出よ」
と言う玲奈。
「そういう種族もいるんだ」
と岳が聞くが、玲奈は答えなかった。
ただ、目の前のアイスクリームを嬉しそうに頬張っていた。
「甘い物って食べると幸せに気分になるんだね」
空っぽになったパフェの容器を見ながら言う玲奈。
「前来た時も、いろいろ食べればよかったね。
また次、何か食べに行こう」
と岳が言うと、
「また、ってあるかな」
と玲奈が小さく言った。
それから、二人は会話もなく席を立ちショッピングモールを出た。
玲奈は、白崎駅とは反対側へと歩いていく。
この先には、
「白崎の森」がある。
玲奈と岳が、教会が現れる、かつての「白崎の森」を進むが、なんの変化も起こらない。
教会どころか、森も姿を見せず、周囲は今まで通りの住宅街だ。
「じゃ、帰ろっか」
しばらく歩いたところで立ち止まり、玲奈が言う。
「私じゃダメみたい」
と続けた。
「私じゃ、女神の呪縛には立ち向かえないのね、やっぱり。森も教会も姿を見せない」
と言う玲奈。
「そのこと、知ってるんだ」
と岳。
「でも、私は何の役にも立てない。もうこっちに来ることはないわ」
と玲奈が少し寂しそうにいった。
やはり、これから玲奈としてこちらの世界に来るのは、力を持った女神関連の誰かになるのだろう。
岳は今日の玲奈の素性が気になり始めていた。
「もう会えないかもしれないけど、きみの事を知りたい」
と玲奈に言う岳。
立ち止まり、ふたり話す、岳と玲奈。
その姿を遠くから見ている人影があった。
神父の本田だった。
「これは、岳君と玲奈さん、お二人揃っているじゃないですか」
と二人をみながらそうつぶやいていた。
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