4か月目~第1週~仲間意識
玲奈とキキョウと雄太、そして俺。
特別な4人になった。
と、岳は思った。
あの17歳の誕生日に「教会」で明らかになったこと。
自分がなんだか、えらい力の承継者で、その力をしかるべき場所に返す、それが使命だ。
そのために、この4人が選ばれた。
なんだか冒険ファンタジーのようだ。
と、同時に、
これは4人の秘密だ。他言無用。
それは少し寂しい気がする。
亮や朝陽、萌にはこの冒険を語ることができない。
あいつらだって、大切な友達なのに。
「だってさあ、女神伝説とはかかわりがないんだもん。血筋的に」
とチャミュが言う。
「そっか」
と岳。
「でも、なんで玲奈は天使の像を壊したんだろう」
と岳が疑問をぶつける。
事の起こりとなった、玲奈が天使の像を壊した一件、
あれがなければ、あの場で岳の力は吸収され、そしてそれでおしまい、となったはずなのに。
「ああ、そうだよね、疑問だよね。
まあ、憶測なんだけどね、女神の血筋に異物が混ざりこんでいたようなんだよ、
あの玲奈の家系には、きみの力を持ち去られたくない、という思想があったようだ」
とチャミュ。
なんでも、キキョウノウエが双子の一人、アトロ・キキョウを連れて、あっちの世界に連れ戻された後、
一人残された女神の血を引く子供は、こちらの世界で、「かくまわれて」育った。
かくまった者たちのなかには、あわよくば力を手に入れたい、という腹黒い物もいたようだ。
「力の取り合いってことか」
と岳。
「この世界にこんな力は必要ない。さっさと女神の元に返す、これは変わらない意思だよ」
と続けた。
「まあ、もうこの力の事を覚えている奴がこの世ににいるんだかどうだか。
あまり深く考えることはないと思うよ:
チャミュが慰めるように言った。
長い時が流れ、人々はこのあたりの女神伝説を、体のいい愛情物語に変え、そして、
「成就の力」そんなものの存在は風化し忘れ去られている。
「岳が、気楽に力を出し切ってくれるといいんだけどね」
とチャミュが話す。
相手はキキョウだ。
チャミュとキキョウ、二人だけで「白崎の森」にいた。
示し合わせて、二人だけでここにきたのだ。
「あっちの世界では一瞬だけど、こっちでは一日、一日は長いんだね」
とキキョウ。
「やっと4か月がたったね。長いでしょ?
でも日々を大切にしてよ。
この試練が終わったら、力は取り戻せるけど、岳は」
とチャミュ。
その言葉にキキョウが顔をゆがめた。
「深入りしないでね」
そう言うチャミュに、
「大丈夫だよ。特別な感情なんかないから。
この世の誰に対しても」
とキキョウが静かに言った。
「そうだよ、私の役目は、あの子の力をあの子から取り戻す、それだけだから。
そのためには、あの子がどうなろうと」
「どうなろうと?」
と言葉に詰まったキキョウにチャミュが言う。
「私には関係がない」
そう言おうとしたキキョウ。
しかし、その言葉を口にすることができない。
「そんはずない」
と心で思うキキョウ。
「私が、誰かのために心を痛めるなんて」
今までもこれからも、決してない事だ。
ないはずだ、しかし、なぜか胸が苦しくなった。
岳の姿が脳裏をよぎる。
両親と姉と一緒にくつろぐ岳、
玲奈と一緒に笑いながら話す岳、
学校で、クラスメイトに囲まれる岳。
岳の周りには大勢の仲間がいる。
いつしか自分もそんなうちの一人になってしまっている。
「岳を失うのは、いやだ」
キキョウの心に初めてわいた感情だった。
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