3か月目~第4週~誕生日会~BBQ
お誕生日、当日。
よく晴れた初夏のその日、岳の誕生日がやって来た。
自由登校となった今でも、朝一番でもセバスチャンの散歩があるから、
起きる時間は変わらない。
散歩から戻り、食卓につくと家族全員が揃った。
これもいつも通りだ。
「岳、お誕生日おめでとう」
と姉の真帆が率先して祝いの言葉をかけてくれる。
続けて、父と母からも。
「もう岳は生まれてたんだよね?」
と時計を見ながら真帆が言う。
「そうよ、7時7分。ラッキーボーイだわ」
と母。
そうだ、そういえばこの7時7分、なんか成就の力に関係があるとか。
食卓の下にいた白猫の姿をしているチャミュを見たが、目をそらされた。
「今日は夕食にケーキがあるわよ」
と母。
なんだか張り切っている。
「そうか、出来るだけ早めに帰る」
と父がポツリと言う。
最近は、遅くなることが多い。
「まあ、17歳になるんだし、そろそろ真剣に将来を」
と父が言いかけたところで、
「昼間は白崎緑地公園でBBQしてくる」
とさえぎる岳。
「まあ、遊ぶのもいいが」
と父が続ける。
この流れはまずい。
「夏休みは学校の夏期講座、けっこうあるから忙しいかな」
と続けた。
さすがは自称進学校。
そういうところは、カリキュラムが充実している。
この日は、真帆も朝から出かけてしまい、岳が最後に家を出ることになった。
「岳はてぶらでいいよ」
って言われたけど、一応人数分の飲み物を持参して、白崎駅に向かうことにした。
玄関を出ようとしたとき、2階からバタバタと足音が聞こえて来た。
チャミュだ。
「ねえ、連れて行ってくれるんでしょ」
そう言いながら走って来たチャミュ、顔が怖い。
「おっと、そうだった。玲奈とキキョウからのお達しだ」
と岳がキャリーを用意しながら言った。
「ねえ、ごめんねは?」
そチャミュ。まだ猫の姿ではなく天使のままだ。
「はいはい、ごめんね、さ、ここに」
そう言われて不貞腐れながらも白猫に姿を変えキャリーに収まるチャミュ。
白崎駅で4人が集合した。
雄太は大きなキャスター付きケースを引きずっている。
玲奈とキキョウも大きなバッグをかかえて、中にはいろいろな道具や食材が入っていた。
歩いて白崎緑地公園に向かう。
駅から10分くらいの場所だ。
あの森の出現する白崎の森の跡地の西側にあるのが緑地公園だ。
そこを流れる小川の川岸に、BBQコーナーがあった。
平日のためか、利用者は岳たちだけだ。
岳が手慣れた様子で、持参した肉や野菜を焼く。
玲奈と雄太が手際よく、皿に取りわていた。
キキョウはどうしていいかわからない。
「予習」はしてきたが、実践となると勝手が違う。
「はい、どうぞ」
と玲奈がキキョウに紙皿に入った、焼きたての肉を渡した。
「キキョウさんは、あまりやったことがないの?」
と雄太が聞いた。
あまりどころか、今回が初めてだ。
「そうね、ほとんどないかな。ごめんね何もできなくて」
とキキョウ。
雄太が何か言おうとしたが、それより早く、
「気にしなくていいよ」
と玲奈が笑いながら言った。
白猫チャミもキャリーから出してもらい、周囲をうろうろしている。
今日は雄太にまつわりつくことが多い。
雄太は足元のチャミに、食べ物を分けてやったりしていた。
色々と焼きながら、おしゃべりに花が咲く4人。
次から次へと話題が出てき話が尽きない。
こんなに、仲が良かったっけ、この4人って。
と岳が思う。
自分と玲奈はまあ、付き合っている関係だが、それも日替わりの玲奈だ。
雄太とは学校ではあまり話をしたことがなかった。
陰気で大人しくて、面白みのない奴だ、と思っていた。
それが、この前のパインストアでのゲームのデモンストレーションを見てから、
印象が変わっていた。
「またパインストアのゲーム大会には出るの?」
と岳田雄太に聞く。
が、しかし、
「まあ、機会があれば」
とあっさりこたえる雄太。
そして、キキョウを見る。
そうか、キキョウがゲームの事は話したがらないのか。
と岳は察した。
あっという間に時間が過ぎ、持参した食材もほぼなくなっていた。
空が赤く染まり、夕暮れも近い。
食材を焼くために使っていた炭は、まだ赤く燃えており薄暗くなってきた周囲を照らしている。
「日没だよ」
と玲奈が言う。
「そうね」
とキキョウ。
「で、わかったの?チャミュ」
とキキョウが白猫チャミに話しかける。
すると、チャミュがするりと天使の姿に戻った。
焦った様子の岳。
思わず雄太の顔を見る。
その雄太はなぜか落ち着いた表情だ。
こんな、特撮映画のような場面を目の当たりにしているというのに。
「やはり自覚はあるんだね」
とチャミュが雄太に言う。
黙ってうなずく雄太。
すると目の前には、あの「教会」が姿を現せていた。
応援していただけるとうれしいです。




