3か月目~第4週~誕生日会~自宅編
お誕生日会、開催です。
初夏の匂いが漂い始めていた。
毎日、太陽がジリジリト照り付け、気温が上昇。
「暑い」
誰もがそう思う季節がもうそこまできていた。
学校はあと少しで夏休みに突入だ。
そして、岳の誕生日が目前に迫っていた。
「17歳になるんだよね」
とその日の玲奈が聞く。
「そうだよ」
と岳。
当たり前のことを聞かれている感覚だ。
「私たちの世界、まあ、あっちの世界ではね、17歳は特別なのよ」
と玲奈が言う。
「その、特別ってのはあっちの世界全般のこと?それとも君たちの種族ではってこと?」
と岳が聞く。
この頃には、日々やってくる玲奈のいる世界では、多数の「種族」なる者が存在し、
その種族によって習性も常識も、持ち合わせている能力も、外見すら全く違う事を岳は認識していた。
「そうね、私たちの種族、女神族ではねってこと」
と玲奈。
「最近、女神さん絡み、多くない?」
と岳が言う。
この前の玲奈も女神見習いだと言っていた。
この「試練」に参加すると、加点があるのだとか。
そもそも、毎日の玲奈を選抜するのは女神の仕事らしいから、身近にいる見習いから選ぶのは
手っ取り早いはずだ。
「ま、成り行きでね」
と玲奈は言っていたが。
「岳の誕生日会、どっか行こうよ。自然が満喫できるところ」
玲奈が唐突に言いだした。
「でも、俺の誕生日、例の4人で祝ってくれるんじゃ」
と岳。
あのパインストアのイベントの日、そう決めたはずだ。
「そうよ、でもね、どうしてもシチュエーションが必要なのよ」
そう言うと、玲奈は一人で何か考え込んでいた。
「ま、祝っていただく立場だし、任せるよ」
岳はそう言い、その話はそこで終わりになった。
しばらくして、岳、キキョウ、雄太の元に1通のメールが届いた。
差出人は玲奈だ。
「BBQのお知らせ」
という題のそのメールには、岳の誕生日にBBQで祝おう、という内容だった。
場所は白崎緑道公園、となっている。
そこは白崎町にある、自然公園。
あの、「教会」が出現するあたりにほど近い。
そこには小川が流れ、ピクニックやBBQができる施設があるのだ。
あとは晴天を願うだけだ、
そんな時、キキョウの元に萌から連絡があった。
「ねえ、もうすぐ緑川君のお誕生日でしょ?みんなでお祝いってのはどうかな」
と言う内容だった。
試験が終わり自由登校となっていたこの頃、部活もやっていないキキョウはクラスメイトと会う機会が激減していた。
「キキョウちゃん、最近会えないけど元気ですか?
夏休みとか一緒に遊べたらいいな」
と萌からのメールにはそんな一文も添えられていた。
そして最後には
「お友達の萌より」
とあった。
キキョウには本来、友達とか友情とかの感覚がない。
この世界の、この世代の常識を探り、習得した知識でしかわからない。
しばらく会うことがない今、
キキョウは萌の存在自体、忘れていたに近かった。
「お友達の萌」か。
その言葉が少しむず痒い。
こんな気持ちになったことはなかった。
「じゃあ、岳んちでパーティもしようよ。私たちが4人でお祝いするってのは秘密にしておいて」
そう言いだしたのは玲奈だ。
キキョウから、萌の件で相談を受け思いついた案だ。
「なんで、玲奈はこっちのことそんなによくわかってるの?」
とキキョウ。
あっちの世界から来ている、という点では自分と変わらないはずの
毎日の玲奈。
「そりゃあ、仕込まれてるもの。私たちは。
ここに来てるのは、ただ岳の試練のためじゃない。それはあんたも知ってるでしょ。
だからここで平穏にすごすための最大限の準備はしてるのよ、その方が効率的でしょ」
そんなことがあり、岳の家での「お誕生日会」が開催されることとなった。
BBQが予定されている誕生日当日ではなく、その少し前だ。
玲奈の提案で、誕生日当日のBBQのことは、内密でと言うことで口裏を合わせることにした。
「だって、仲間外れにしたみたいだから」
と玲奈。
なんでそうなるのか、キキョウにはわからない。
男子二人も同じような感覚だった。
集まったのは、例の4人と、萌、朝陽、亮だ。
準備のため、集合時間より早く岳の家に着いたキキョウと玲奈。
家には岳と姉の真帆がいた。
ずんずんと入り込んでいくと、リビングに丸くなっている白いものが。
白猫だ。
キキョウが
「チャミ」
と声をかけるが、不愛想に返事もしない。
「なんか様子が変で」
と岳が言うが、
「置き去りにしたからでしょ」
とキキョウ。
あのパインストアでの一件を未だに根に持っているらしく、
ずっと不機嫌で特に岳には冷たい態度を取り続けているそうだ。
「でもいい加減に機嫌直して。
BBQには連れて行ってあげるから。今度は置いてけぼりになんかにさせない。
大役控えてるってわかってんの?」
とキキョウが耳元でそっとささやく。
ピクリと耳を動かすチャミ。
ミャア、と言うと岳の元へ行き、足にすり寄った。
「仲直りかな」
そうつぶやいたキキョウに、
「そんな言葉、知ってたの?」
と玲奈が言う。
「そりゃ、猛勉強してるもん」
と言い返すキキョウ。
その日の岳の家での誕生日パーティー、
食べ物やお菓子などは皆で持ちよりにした。
そして、萌と朝陽が二人でケーキを焼いてきてくれて、
そこに17本のローソクをともす。
それを思い切り吹き消す岳。
他愛もない話をして、それだけでみんな笑う。
ただそれだけだけれど、キキョウにとっては新鮮だ。
その日の帰り際、
「友達っていいね」
と玲奈につぶやいた。
「その思想、すごい危険」
と言い返されたキキョウ。
その横顔は少しさびしそうだった。
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