3か月目~第2週~帰り道
デートに割り込んでくる二人?
どうやら、キキョウはこのゲームの話題を避けている。
「レインボーファンダジー」だけなのか、こういうたぐいのゲーム全般なのかは、雄太も測りかねていたが。
先ほどまでバトルが繰り広げられていた、この会場は既に人もまばらで、電源の切られスクリーンは
ただの薄暗い壁と化していた。
雄太とキキョウも会場を出てロビーに戻る。そこはいつもの活気だ。
あちらこちらで聞こえる、音楽や効果音。
所々に設置されている画面の前には人だかりがし、熱気にあふれている。
雄太の姿を見つけると、周囲がざわめき、そして彼の周りを取り囲んだ。
先ほどのゲーム、ロビーでもリアルタイムで実況されていたのだ。
優勝者、ウルフVo.1は有名だ。そして人気者だった。
「ねえ、ウルフ、サインしてよ」
と小さな子が、自分のノートを差し出す。
「写メ、どう?」
そういわれて、一緒にポーズをとる雄太。
学校にいるときとは全く違う。
生き生きとし、なんだかスターのようだ。
そんな姿を傍らで、微笑みながらキキヨウが見ていた。
「人気者だね」
とキキョウ。
「少し待っててね、あいつらに新技教えてやるって約束してて」
照れるように笑いながら、雄太が言った。
見れば、数人の男の子がゲーム機を抱えて雄太の周りにいた。
「じゃ、私はあってにいるから。ゆっくりでいいよ」
そういうとキキョウはロビー片隅の休息コーナーへと向かった。
「なによ、あんたたち。付いてきてるんでしょ、隠れなくてもいいわよ」
独り言のようにつぶやくキキョウ。
すると、姿を現した人影が二つ。
岳と玲奈だった。
「気付いてたの?」
と岳。
「当り前じゃない。気配がプンプン。」
とキキョウが言う。
「バレちゃあ、仕方ないわね。偶然会ったってことで」
と玲奈も姿を見せた。
三人でベンチに座り、岳のおごりの缶ジュースを飲む。
「見てたよ、ゲーム。強いじゃん」
と岳。
「そりゃあね。古巣でしょ?」
玲奈が意味有り気に言った。
「まったく、こっちに来て、ゲーム作りに協力してるやつ、誰よ。
あんな悪趣味な宮殿まねるなんて、物好きとしか思えない。」
キキョウは不満げだ。
「まあ、キミがいたころ、世話係をやってた誰かの仕業だろうね。
あそこに詳しい奴なんかそんなにいないからね」
と玲奈が言う。
「ねえ、よくわかんないんだけど」
と岳が口を挟んだ。
「そうだね、岳はわからないよね」
そう言いう玲奈。
続けて話そうとするが、キキョウが遮った。
「あのね、あのゲームに出て来た宮殿っていうのは」
と静かに語り始めた。
自分は、物心ついた時にはあの宮殿内にいた。
部屋から出ることは、めったに許されず、一人ぼっちで過ごしていたこと。
それが、こちらで換算すると数百年は続いていたこと、などを語った。
「でもさ」
岳が不思議そうに言う。
「ゲームではあの宮殿に詳しそうだったでしょ、なんで?」
と岳。
確かに、誰も見つけられていない隠し部屋を見つけたり、
動きがとてもスムーズだった、キキョウのアバター。
あの場所をよく知っているかのようだった。
「それはね、この子に探検してもらってたからよ」
と自分のバッグの中を見せるキキョウ。
そこには、黒い球体のキキョウの使い魔、イレジウムがいた。
「この子が、部屋を抜け出してみて来てくれたのよ。この子が見ること聞くもの、すべて私が同じように見聞き出来るの。
だから、いつもイレジウムを使って宮殿内を歩き回っていたわ」
とキキョウ。
「へえ、こんな子分がいたのか」
と岳が、バッグに手を伸ばそうとした。
「だめよ、触らないで」
とキキョウがその手をはねのける。
「ごめん。勝手に触ろうとして。キキョウにとって大切なんだよね?こいつ」
と慌てて手を引っ込めながら岳が言うが、
「あ、違うのよ。この子、狂暴だから、下手に手を出したら指を食いちぎられちゃうよ」
とさらりと言うキキョウ。
「使い魔はその持ち主と同じ性格を持つ、からね」
と玲奈。
しかし、キキョウがバッグのイレジウムを愛おしそうに撫でているのを岳は見ていた。
黒い球体も丸くなった仔猫のようにおとなしく撫でられている。
岳にはお互いの強い絆を感じることができた。
「ごめん、待たせたね」
そう言いながらキキョウの元に雄太がやって来た。
岳と玲奈をみるやいなや、怪訝な表情に変わる雄太。
なんで、おまえらが、ここに。
と言いたげだ。
「あのね、私たち、パインストアの新型でスマホが欲しくて見に来たの。
そうしたら、ゲームイベントやってて、覗いてみたら雄太君がいるじゃない。
あと都留田さんも。
思わず見ちゃったわよ。すごいわね、ぶっちぎりで優勝だなんて」
と玲奈テンション高めに雄太に言う。
「驚いたよ、イケてるじゃん、雄太」
と岳も付け加える。
「そうでもないよ」
と照れる雄太。
雄太は普段は褒められることに慣れていないのだ。
「じゃあ、これから一緒にランチしない?」
と玲奈。
そう言えば時間は昼時を少し過ぎていた。
「私、サタデイズのクーポンもってるの」
玲奈が、この近くにある、ファストフード店の割引クーポンを見せながら言った。
「私たちは、お昼食べたら行くところがあるから」
と玲奈が続けた。
「そっか、じゃあ」
と雄太。
玲奈の言葉に、この先ずっと一緒に行動するわけではなさそうだ、と察し少し安心したのだ。
せっかくのキキョウとの二人だけの時間。
これ以上、邪魔されたくはない。
それでも、雄太にとって学校の友達と出かける、そんなことはめったにない事だ。
パインストアからほど近くの、ファストフード店「サタデイズ」都心らしく店内はスタイリッシュだ。
クーポンをフル活用して、お得にランチセットを頼んだ4人。
テーブルを囲んで、いつのまにやら和やかに話し込んでいた。
先ほどのゲームの事、パインストアの情報、そして学校のこと。
「そう言えば、岳って来週誕生日よね?」
と玲奈。
「じゃあ、この4人で誕生日会やろうよ」
と玲奈が言う。
「4人で?君たち、二人だけで祝いたいんじゃないの?」
と雄太。
この二人は「付き合って」いるんだから、二人きりがいいのでは、と思ったのだ。
「せっかくだから、たくさんでお祝いしようよ。
この4人の誕生日はいつもこの4人でお祝いしよう」
と玲奈が続けた。
それなら、キキョウに告白できなかったとしても、一緒に誕生日が祝える。
と雄太が心で思う。
「そうだね、いい考えかも」
と雄太。
「じゃあ、私たちはこっちだから」
ファストフード店を出ると、玲奈と岳は、パインストアとは逆方向へと歩いて行った。
「私たちも行こうか」
とキキョウ。
キキョウと雄太はパインストアに行くこと、が今日の予定のすべてだ。
あとは家路に着くしか思いつかない。
パインストアの前を通り過ぎるとすぐに駅の入り口だ。
ちょうど、二人がパインストアの前を通った時、中から店員が駆け寄って来た。
「おい、君たち」
と声をかけて来た店員。
「この二人と知り合いだよね?」
と手に持っていた、
「手荷物預かり、控え」と書かれた伝票を見せた。
そこには、
お預け物。
「猫入り、キャリーバッグ」
お預け主
「緑川岳」
と書かれていた。
「君たちが緑川様と出て行くのを見ていたんだ。彼らは?」
そう問いかける店員に、
「あの二人なら行くところがあるからって。もうここには戻らないのでは?」
と雄太が答えた。
「あの、猫の入ったキャリーがそのままなのですが」
と店員。
「忘れたんだ」
とキキョウ。
「それなら、私たちが引き取ります。ほら、緑川さんからのメール」
とキキヨウがスマホを見てた。
そこには、この二人に引取りを頼みます。と言ったことが書かれてあった。
もちろん、これはキキョウの力ででっち上げたものだったが。
「ああ、それならよかった。猫が騒いで困っていたんですよ」
と店員が、店の奥から、キャリーをもって出て来た。
そこには、丸いドーム型のケースの中から、涙をためながらこちらをにらみつけている
白猫の姿があった。
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