2か月目~第4週~そろそろ試験前
キキョウの首飾りは?
「同じよ、女神の首飾りと」
体育の授業のため、着替えていたキキョウ。
その時、首にかかっていたネックレスを見た萌が言った。
「同じ?」
とキキョウ。
「そう、雄太君の家で見せてもらった女神の首飾りにもその花模様がついていたの」
と萌が言う。
キキョウのネックレスには、大きな花をあしらったヘッドが付いていた。
これは、キキョウがあっちの世界に戻ってから身に着けているネックレスだ。
「そう?女神由来の品かな、これはね、両親からのプレゼントなの。
いつだったかの女神祭りの露店で買ったんだって」
キキョウは、適当な作り話をした。
「へえ、そうなの?露店で買ったものにしては高級そうだよ。
輝きが違うもん」
と萌はネックレスを見ながら言った。
雄太の家の首飾り、だいたい想像がつく。
あれは、きっと本物の「女神の忘れ物」だ。
キキョウは急遽戻ったあっちの世界から、このネックレスを持ってきた。
これは自分を守るために必要だから。
そして、それは「キキョウ」の名を持つ者の証、でもあるのだ。
「ねえ、萌ちゃん。このネックレスの事は内緒にしておいて。
学校に、こういうの着けてきちゃダメでしょ」
とキキョウは萌に言う。
「そうだね、それがわかってるのになんで?」
萌の問いに、
「うっかりよ、ついうっかり」
萌の目をみてそう言うキキョウ。
「わかった、じゃ内緒で。それ、ご両親からもらった大切なものだもんね。いつも身に着けておきたいでしょ。
黙ってるから、そのままにしておけば?」
両親と離れて過ごしているキキョウを、不憫に思いながらも、萌は少し嬉しそうだ。
なんだか、自分とキキョウだけの秘密が出来た気分だ。
「ねえ、また試験があるのよね?」
と玲奈が言う。
その日は、授業で先生が何度も、
「ここは試験に出るぞ」
と言った。
「期末試験だよ。対策しないとな」
と岳。
いつもの帰り道だ。
「ねえ、試験って私も受けるの?」
とキキョウ。
この頃はいつも3人で一緒に帰っていた。
「あたりまえでしょ、あんた、生徒としてここにいるんでしょ」
と玲奈。
「気楽でいいわよね、あんたは」
とキキョウは玲奈に言う。
この日の玲奈は試験の時には、ここに来ることはないのだろう。
「前回の試験、思わぬ好成績だったから期待されてるんじゃね?」
と岳が言う。
前回の試験では、しっかりと対策をしたおかげで、最高得点を取ることができた玲奈。
お陰で、先生からも一目置かれることになったのだ。
「今回はぼちぼちとしてもらわないと」
玲奈はため息交じりだ。
その日の夜、岳の部屋で。
「試験対策?」
とチャミュ
「もうそんな時期か、早いねえ」
と。
前回の試験の頃、チャミュはここに常駐となった。
白猫のチャミとして、勉強のために集まったみんなの前に現れたのが、ついこの前のようだ。
「そうだね、お前がここに居座るようになった頃だ。
もうすっかりヌシでーすみたいだなあ」
そう言いながら、岳はチャミュのほっぺを引っ張った。
「やめろよ」
そう言いながら逃げようとするチャミュ。
いつの間にか岳にとって、チャミュはなくてはならない存在になっていた。
チャミュもここにいるのが当然、とても自然にそう感じていた。
「試験対策、そうだな、またエルベにきてもらおうか」
とチャミュ。
エルベ、魔法学校の首席。
前回の試験では彼女の作った勉強ノートのお陰ですごく助かった。
「エルベか、頼りにはなるけど玲奈はボチボチでいいんだよ」
と岳。
翌日、学校ではホームルームの時間に期末試験の日程が発表されていた。
試験が終わるまで、部活動も自粛だ。
「ねえ、都留田さん」
そう呼びかけたのは雄太。
「部活、休みになったから、今日から一緒に帰りませんか」
とうつむきながら言う雄太。
キキョウは内心、岳と玲奈と自分の3人の方がいい、そう思った。
他の誰かが一緒だと、話せないことが多い。
それでも、雄太のひたむきな言葉に、思わず
「うん。いいよ、一緒に帰ろうよ」
と答えていた。
下校の時間になった。
一足先に教室を出て下駄箱付近まで行き、そわそわしながらキキョウを待つ雄太。
「お待たせ」
そう言いながらキキョウがやってきた。
二人で並んで校門を出る。
すぐ後ろに岳と玲奈がいるのが分かったが、そのまま歩くキキョウ。
歩きながら他愛もない話をする。
これもあわてて補充した知識だ。
「交際しているわけではない高校生の男女が一緒に帰る場合、明るく前向きな話をする。
ネガティブなことは言わない、悩みの相談はしない」
キキョウが得た知識だ。
雄太は自分の所属している、科学部の話をした。
実験が好きで、そう言うことが学べる大学に行きたい、と。
そして、自分の好きなゲームの話。
「都留田さんもやろうよゲーム、チームになろうよ。もちろん試験が終わってから」
と雄太。
なんでも、オンライン形式で交流しながらのゲームらしい。
キキョウは知識の習得で必死だ。
雄太の話はキキョウのしらないことばかりだ。
「そうだね、でも私ゲームはあまりやったことがなくて」
とキキョウ。
あまり、どころか一度もゲームなんぞやったことがない。
「じゃあ、」
と雄太。
「え?」
その先を言わない雄太に、キキョウが首をかしげるが、
「じゃあ」
またここで止まる。
「あの、あの、あの、もしよかったら試験が終わったら、パインストアに行かない?」
と震えるような声で言った。
パインストア。
最新のゲーム機が揃っている、有名なショップでゲームを実践することもできる。
「え?私と?」
とキキョウ。
パインストア、これがいまいちイメージできないのだ。
「パインストアでゲームイベントやる予定で、行きたいと思ってたから一緒に」
と雄太はすっかり下を向いていた。
「いいよ、試験終わったら、行こうよ、パインストア」
とキキョウが言うと、雄太の顔がぱっと明るくなった。
「パインストア、楽しみにしてるよ、じゃ、試験頑張ろうね」
別れ際に雄太がそう言った。
少し顔を赤らめ、声を震わせながら。
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