2か月目~第3週~本田神父
本田神父と再会。
本田が岳とキキョウと共に、森の奥に出現した教会で見せた、常軌を逸した行動。
思わずその場から逃げるように立ち去った岳とキキョウ。
その本田が岳を訪ねて、自宅最寄り駅までやってきたのだ。
駅の乗降客はかなり多く、行き交う人々が本田と岳の間を通り抜けてゆく。
岳が、本田の側に行くことをためらっていると、
「やあ、岳君、この前は急にいなくなってしまって、心配したよ」
そう言いながら、本田の方から岳に近寄って来た。
「急に?」
と岳が言うと。
「そうだよ、森の奥に進んで、それからどうしようか?と振り返った時には
君たちが走って去って行くのが見えた。
声をかけたけど聞こえなかったのか、そのままいなくなってしまったんだよ」
本田は言う
「あの、教会には」
と岳はいいかける。
あの時、出現した教会になんとか入ろうとしていたが、
扉が開かなかった。
「ちょっとお茶でも飲んでいきませんか」
本田にそう言われて、頷く岳。
断る選択肢はなさそうだ。
駅前の喫茶店。
岳が友達同士では入りそうにない店だ。
「ここ、昔からあるんですよ」
と本田。
本田が珈琲を岳がクリームソーダを注文した。
テーブルには既に、お水とおしぼりが乗っている。
「岳君、改めて、女神伝説の事を君と話たい」
そう切り出した本田。
本田は既に岳が女神伝説関係していると気付いている。
キキョウとチャミュから成就の力のことは悟られないように、と念を押されていた。
「何とかしてごまかすか」
と岳は思う。
「教会は、現れなかったねえ」
と本田。
「また、一緒に行ってもらえないかな、森の奥に。
今度は岳君と玲奈さんで。
どうやら、キキョウさんではダメなようだから」
本田が続けた。
内心ほっとして、
「そうですか、では今度は玲奈を誘ってみますよ」
と答える岳。
「この店はね、随分と昔からここで営業しているんですよ」
そう言うと、本田が店内の本棚から一冊の画集を持ってきた。
古びた店内には大きな本棚があり、たくさんの書物が並んでいる。
店の客はそれらを自由に読むことができるのだ。
「だからね、古い文献がたくさんあって」
そう言いながら画集を広げた。
そこには、白崎の森が描かれている絵があった。
その中央にあの教会が。
「ここ、この教会、キキョウノウエとトウイチロウが隠れ住んだと言われている。
伝説では、二人を弔うために建てられた教会ってことになっていますけどね。
これ、今でも存在しているといわれているんですよ。
あ、前にも言いましたっけ。
行ってみたいんです、私、ここに」
「なんで、ですか?」
と岳。
何も知らないふりをして聞く。
「ここに行けば何かわかるかもしれない。
私の家には不思議な家訓があって、力を取り戻せ、と言うのですが、なんのことやら。
それに、よく夢を見るんです。一人聖堂にいる夢なんですが、それはあの教会の中だ。
だから、ぜひ行って確かめてみたいのです」
と本田が言った。
「それには、岳君、君が不可欠だ」
とつぶやく本田。
「逃さない」
と小さく呟くのを岳は聞き逃さなかった。
「これが危険な接触か」
と岳が心で思う。
しかし、避けることはできないだろう。
「それから、あのキキョウさん、前に女神伝説の講演会をやった時に来ていた
玲奈さんと同じ波長を感じるのですが、赤の他人ですよね」
と本田。
そう言えば、あの時の玲奈はキキョウだった。
同じ波長、本田にはそんなことを感じる力があるようだ。
「気を付けないと」
その後はしばらく画集をみながら、本田が伝説の事を話してくれた。
キキョウノウエとトウイチロウに子供がいたことまで。
しかし、トウイチロウに成就の力があったことには触れなかった。
「それじゃ、今でもその子孫がいるかもしれないですね」
と岳が言った。
「そうだね、その血筋を引く者、だけがあの教会を見ることができるんではないだろうか」
本田は岳をしっかりと見て言った。
その目は岳が、その子孫であると言っているようなものだ。
「わかちりました、じゃあ、学校の事もあるので玲奈の予定を聞いて、日にちを決めますね」
と岳が話を切り上げるように言った。
「ああ、急に悪かったね。
また連絡を待っているよ。
私はもう少しここでゆっくりとしていくから、きみは先に家に帰りなさい」
と本田。
岳は残っていたクリームソーダを一気に飲み干し、
そのまま店を出た。
「ごちそうさまでした」
と言い残して。
すっかり遅くなった、急いで家に向かう岳。
すると、道の向こうに見慣れた顔がある、佐伯亮だ。
亮の家はこのあたりではないはずなのに。
「おっ」
そう言って岳に駆け寄ってくる亮。
「偶然だな」
亮のその言葉がわざとらしく聞こえてくる。
「なんだ、用でもあるのか」
と思わず聞く岳。
「ま、そんなとこかな」
そう言いながら岳と並んで歩き始める亮。
「お前さ」
と亮。
「お前」
「なんだよ」
「あの」
「だから、なんだよ」
亮は歯切れ悪く話す。
「玲奈ちゃんとは順調なんだよな?」
やっと亮がポツリと漏らした。
「え?あたりまえじゃん」
と岳が言うが、
「あの、本当に?」
と亮は食い下がる。
「なんだよ、俺と玲奈が何だって言うんだよ」
岳が言うと、
「なんかさ、最近のお前、玲奈ちゃんのこと、なんというか雑じゃない?」
そして、亮はしばらく黙った後、
「キキョウさんのこと、どう思ってるんだ?」
と聞いた。
「キキョウ?」
それだけ言う岳。
「お前とキキョウさん、なんかいい雰囲気っていうか。
キキョウさん、転校してきてまだ間もないのに、お前にだけはすごく打ち解けてる感じがする」
と亮が言った。
「それが、腹立つ」
そう言うと黙り込む亮。
そういえば、朝陽は亮がキキョウに思いを寄せていると言ってた。
「キキョウってさ、なんか姉ちゃんに雰囲気とか似てて、話しやすいんだ。
でもそれだけだよ。
俺は玲奈一筋、誓ってもいい!」
「だよな、そうだよな。お前と玲奈ちゃん、お似合いだもんな。
キキョウさん、そう言えば真帆さんに似てるかも。
そっか、そっか」
いきなり明るく話し出す亮。
うん、うん、とうなずきながら。
「おれはいつかキキョウさんに告白するぞ。
岳、応援頼む!」
と言い切る亮。
「わかったよ」
そう言って、亮の背中をポンと叩く岳。
しかし、亮に好意を持っている朝陽の事、
そして、亮の想いは叶うことがないだろう。
それを考えると、憂鬱で、切ない気持ちになっていた。
帰宅後、亮の事をチャミュに話す岳。
チャミュは大笑いだ。
「なんでキキョウなんかに、告白するって?物好きもいるもんだ」
そう言いながら。
「だよな、キキョウならあっちの世界で引く手あまただろう?亮なんかお話にならないって。まともに相手にもしないよな」
と岳が言うと、
「うーん、それはどうなかな、
キキョウはね、いままで誰かに愛されたことが一度もないんだ」
とチャミュがポツリと言った。
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