2か月目~第2週~伝説のその後の話
女神伝説、って?
岳、キキョウ、そしてその日の玲奈、ブルー・ヴェスタ。
3人一緒の帰り道。
「都留田さんまで一緒に。なんだ3人で仲良しなんだ。私たちの早とちりなの?」
3人で校門を出る姿を見てささやきあうクラスメイト。
「私、キキョウちゃんに酷い事いっちゃった」
萌が心配そうに言う。
「ごめんね、って言えば許してくれるよ」
と朝陽。
「そうかな、キキョウちゃん私の事もう嫌いになったもしれないよ」
と萌は心配でたまらない様子だ。
「そんなに後悔するんだったら、信用できない噂話を信じて勝手に思い込まない事」
朝陽にそう言われて。
「そうだね、その通り。キキョウちゃんが岳君とホテルから出て来たの見た、ってメール信じちゃった。
そんなことする人じゃない、ってわかってたはずなのに」
「え?ホテル?そんなメール回ってたの?」
驚く朝陽。
「さすが、魔性の女」
キキョウに心を寄せる男子がたくさんいるのを朝陽は知っていた。
その中には、佐伯亮もいる。
自分が気になっている男子がキキョウを想っている。
心境は複雑だが、
「キキョウなら仕方ないか」
朝陽自身、キキョウの持つ大人っぽい雰囲気、おだやかで落ち着いていて、それでいて話すとおもしろい。そんな彼女は憧れの存在でもあった。
下校中、寄り道をする三人。
途中下車をして、少し歩いたとことにあるファミリーレストランに入る。
ここなら、同じ学校の生徒は来ないだろう。
夕食時にはまだ早い時間帯で、店内はすいており4人掛けのテーブルに通された。
隣の席との間には背の高い仕切りがある。
そこで、
「じゃ、しかたない。ブルー・ヴェスタ、教えてあげる。女神伝説の続きの話」
とキキョウが話し始めた。
「この前、本田神父の話した女神伝説。あれは少し違うところがあるんだよね。
遥か昔から、ファンタジーワールドとここ、リアルワールドでは交流があっただよ。
ここに神と人類が共存していたわけじゃない」
あっちの世界から来ていた女神が、ここリアルワールドの青年と恋に落ちた。
そして、二人は結ばれる。
それを知った、ファンタジーワールドの女神たちが二人を引き離し女神は泣く泣く、ファンタジーワールドに戻って行った。
それが女神伝説の元になる史実だ。
「それで、その後って言うのは?」
岳も玲奈、ブルー・ヴェスタがその先の話をせがむ。
「その女神、ここではキキョウノウエって言われている人ね、とトウイチロウというここの青年、農民だったっていわれているんだけど、その二人の間には子供ができたの。
あっちの世界の世界の女神たちは、恋愛は黙認していたのよ。
でも、子供の存在は女神も黙っているわけにはいかなくて。
キキョウノウエと生まれた子をファンタジーワールドに連れ戻したの」
「この世界に、女神の血筋を引く者を残しておくわけにはいかないものね」
とブルー・ヴェスタ。
「それがね、二人の子供は双子で、あっちの世界の女神たち、それを知らなかったものだから、
子供のうち一人だけを連れて帰ったの。
キキョウノウエも、一人はトウイチロウのために置いていくっていう苦渋の選択をしたようよ」
とキキョウ。
「そういうことは、女神とのハーフがこの世に残されたってこと?」
岳が聞く。
「そういうことよ。こっちの世界に残された子供は、とある夫妻にかくまわれて育ったわ。
トウイチロウはその後、別の女性と結婚したから」
「ファンタジーワールドに連れかえされた、キキョウノウエともう一人の子はどうなったの?
とブルー・ヴェスタ。
「キキョウノウエはその後、二度とリアルワールドへ行くことは許されず、聖堂に幽閉されたわ。
そして、その子は」
ここまで言うと、キキョウが静かに息をのんだ。
「その子が、私なの」
とキキョウ。
「え?これって大昔の事でしょ?姉さんの話だと千年単位で。」
と岳が驚いて言う。
「そっか、やっぱり」
逆にブルー・ヴェスタは納得したようだ。
「だからあなたは別格だったのね」
と。
「でもさ、そうするとキキョウは女神と人間の子なんだよね、それが別格なの?」
岳が聞くと、
「そのトウイチロウにはね、特別な力があったの。その頃はこっちの世界にも魔力を持つ人間がいた。
だからその両方の血を受け継ぐ私、特別な存在なのよ」
とキキョウ。
「トウイチロウの特別な力って?」
岳の問いに、
「成就の力を持っていたの」
キキョウが答える。
「それって」
「そうよ、岳。あなたの持つ力と同じもの」
「なんで、俺にも」
「それはあなたがトウイチロウの子孫だからよ」
「じゃあ、父さんとか姉の真帆にもその力があるかもしれないってこと?
あと、叔父さんとか爺ちゃんとか」
「あなた、生まれたの何時?
もしかしたら、7時7分じゃない?
7時7分って力が解放される刻って言われていて、その時間に生まれた子に能力が引き継がれるの」
「生まれたのが朝だったってのは聞いたことがあるけど、時間までは」
そこまで言うと、岳は白崎の森に現れる古い教会の事を思い出していた。
条件がそろわないと現れないという教会。
「だから教会が現れたのか。俺一人じゃだめだった。
ということは、玲奈も何か関係があるのか?」
と岳が聞く。
岳と玲奈が二人の時も教会は現れたからだ。
「そうね、本物の玲奈、かくまわれて育った、女神とトウイチロウの子の子孫よ。
それがなんで、像を壊しちゃったんだろう。
あの像は、血を受け継ぐ者たちを守るものだったのに。
玲奈だって本能でそれが分かっていたはず」
岳と玲奈が二人で入った古い教会、そこにあった天使の像。
それは女神アテナが、ここリアルワールドにいる女神の血を引く者たち、を保護するために遣わしたものだという。
あの像が、女神の血筋を持つ、玲奈を守るはずだった。
それなのに、玲奈はそれを壊してしまった。
「だから、俺たちは試練を課せられたの?」
「それもあるけど、毎日玲奈としてここにいるファンタジーワールドの誰かは玲奈の女神の血を制御しているわ。狙われないように。そして本物の玲奈は安全なあっちの世界で守られているのよ」
「でもさ、それなら試練とか言わなくてもいいのに。
守ってやるとかでさ。それに毎日、玲奈に好きだって言うのだって必要あるの?」
「あなたがトウイチロウ子孫で、力の承継者だったからよ。
この力は愛によって強化されていくから。
あなたはこの先も、日々の玲奈に好きと伝えるのが使命よ」
「これから、どうすればいいの?
今までのように、日々の玲奈に好きだと言い続ければいいって」
「この先、妨害が出てくるかもしれない。キキョウノウエの子供をかくまったという夫婦、
実はトウイチロウの力の事を知って、奪おうとしたらしいの。
夫婦はその家の言い伝えとして、子孫にいつか力を奪うようにと家訓を残したそうよ」
「子孫か」
岳は思う、
その子孫、
「本田神父ね、その子孫は」
キキョウが言った。
「だいたいこんな感じよ、女神伝説の真実とその後。
どう?納得してくれたかしら?」
とキキョウがブルー・ヴェスタに言う。
「そうね、あなたが特別ってのが再認識できた、それだけかな。
私みたいな凡人の血筋じゃ太刀打ちできないよね」
ブルー・ヴェスタはため息交じりだ。
「この話は他言無用よ」
そう念を押すキキョウに、
「誰に話すっていうのよ、私たち周囲にそんなお喋りする相手がいない事、知ってるでしょ」
と笑うブルー・ヴェスタ。
「で、キキョウ、あなたがここにいる目的、それは何なの?」
とブルー・ヴェスタ。
「え、俺の護衛じゃないの?天使のチャミュと一緒に」
「まあ、それもあるけど、あなたの能力をすべて集めて女神に届けること、それが任務かな」
とキキョウ。
「だから私、あなたの味方ではなくなる可能性もあるの。ごめんね」
とキキョウは少しだけ寂しそうに言った。
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