2か月目~第2週~キキョウ
キキョウの素顔
森の奥に現れた「教会」
かつて岳と玲奈が入り込んだ、あの教会だ。
本田がいささか興奮した様子で、
「中へ入ろう」
と教会の入り口に向かう。
扉をガチャガチャ鳴らしながら開こうとする本田。
しかし扉は閉まったままだ。
「鍵がかかってる」
そう言いながら、何度も扉を揺さぶる。
「鍵なんかあったっけ」
と岳が言うと、すかさずキキョウが「黙れ」とアイコンタクトを送って来た。
「なぜ開かないんだ」
本田が業を煮やし近くにあった、太い木の枝を持ってきた。
それで扉を押す。
押すというよりも、扉に叩きつけ破壊しようとしていた。
それでも頑丈な扉はびくともしない。
その様子を見る岳。
玲奈と来た時、扉はボロボロで鍵などはなく、壊さないように開けるのに気を付けとほどだ。
それなのに、今は叩いても、揺さぶっても、木の枝で叩いてもびくともしない。
扉から入るのを諦めたのか、本田は建物の窓の方に行く。
窓を破って中に入るつもりだ。
しかしその窓はかなり高い位置にあり、よじ登るのは不可能だった。
「どうすれば入れるのだ」
そういう本田の目が血走っていた。
鼻息も荒く、今までの温厚な彼ではない。
「行こう」
その様子を見ていたキキョウが岳にささやいた。
「逃げた方がいい」
と。
そう言うが早いが、キキョウが岳の手を引っ張り走りだした。
今来た道を後ろも振り返らず走るが岳とききょう。
しばらく走ると、やっと森の出口が見えて来た。
森を抜けてもそのまま早足で歩いだ。
ショッピングモールが見えて来た。
その時、やっと後ろを見る岳。
そこには住宅地が広がり、木が生えているのは街路樹と公園くらいだ。
あの「森」はどこにもなかった。
「どうゆうことだ」
そう言う岳に、キキョウが
「条件を満たさなくなったから消えたのよ」
と言った。
「条件?」
岳が聞く。
「そう条件。しりたいでしょ。それは」
そう言った時、向こう側から大きな声が聞こえた。
その時、岳とキキョウはショッピングモールの中を歩いていた。
ちょうど1階、フードコートの近くだ。
「あれ?岳じゃん」
そんな声を上げたのは、岳キキョウのクラスメイト、森口朝陽だった。
数人のクライメイトの女子も一緒だ。
「あれ、キキョウちゃんも。今日は岳と二人なの?」
と朝陽。
朝陽とクラスメイト達がヒソヒソと何かを話す。
チラチラと岳とキキョウを交互に見る朝陽たち。
「どうしたの?朝陽ちゃん」
とキキョウ。
「ねえ、キキョウちゃん、岳と二人だけでお出かけなの?」
と朝陽が聞く。
するとキキョウは
「そうだよ、今日は二人だけ。岳に玲奈ちゃんも誘う?って聞いたら今日はいいやって」
と悪びれもせずに言う。
「おい、しゃべりすぎだ」
岳が慌てて言うが、
「なんで、ホントの事でしょ?」
とキキョウ。
「あのね、都留田さん。緑川君は彼女がいるんだし」
と女子の一人が言うと、ほかのみんなも頷いた。
「あ、その。今日は」
やっと状況を察したキキョウがしどろもどろしながら言い訳をした。
岳も、
「今日は仕方ない用事があって、一緒に出掛けたんだ。玲奈は風邪気味だった留守番なだけだよ」
と言い訳をし、
足早にその場を離れた。
朝陽と女子たちがその後姿をみながら、しばらく何やら話していた。
それを背中に感じていた岳だった。
「まったく、あいつらなんでこんなところに」
と岳。
「二人だけで出かけてるの見られたってことだよね、それってまずいんだよね
とキキョウが聞く。
「ってことかな」
岳が答える。
「でもさ、女子は噂好きだから。広まっちゃうね」
そういうキキョウは少し楽しそうだ。
「いろいろとわかってるんなら、ベラベラしゃべるなよ」
と岳。
「仕方ないでしょ、この世界の女子の心理を学習するのに時間がかかったんだもん、学校行ったら楽しみだなあ」
キキョウがおどけて見せた。
「学習?」
と聞く岳に、
「そう、この世界のこと、いわゆる常識ってはある程度知識に入れてあるけど、まだ不足していることも多くて。ここで生活するんだから浮かないように気を付けないとね。
最近は常識の流れも速くて大変ね」
キキョウによると、この世界の女子高生「津留田キキョウ」として過ごすための基礎知識や
高校生の心得などはある程度把握しているが、わからない事例の直面した時はそのつど学習しながら過ごしているのだそうだ。
「ここの女子高生生活、キキョウの本当の生活とはだいぶ違うんでしょ?」
という岳の問いに、
「そうね、全く違うわね。どっちがいいってわけじゃないけど。
友達、って存在、不思議なのね。出会って間もないのに悩みとか秘密とか打ち明けてくる」
キキョウはそのお姉さんのような風貌のためか、頼りになる相談相手、と言った感じで彼女に相談を持ち掛ける女子生徒も多くいた。
既にクラスの女子の信頼を得た存在なのだ。
「好きな男子に告白したい、とかさ、親と喧嘩しちゃった、とか
些細なことだけど、そんなことを他人の私に話してくる。
本当に不思議だわ」
キキョウの話しぶりからもあちらの世界での生活と、ここでの都留田キキョウとしての生活は
大きく違いがあるようだ。
「キキョウはしばらくここにいることになるけど、寂しくないの。
家族とか友達とかに会えないって」
岳が気になっていたことを聞いてみた。
キキョウはあっちの世界の生活を中断し、ここにいる。
しかも、かなり急だったらしい、
あっちの世界のキキョウの生活を心配していた。
「まあ、大丈夫よ。家族はね、女神の修行を始めたときから会ってないわ。それが掟。そういうものなの。それから、友達って概念はないかな。私の他にも女神見習いは大勢いるけど、友達じゃない。
いつも蹴落としたり、蹴落とされたりする存在よ」
とキキョウ。
「友達、っていいね」
とぽつりと言った。
その時、岳のスマホが「ポロン」と音を立てた。
グループメールの着信音だ。
スマホを覗くと、
「おい、岳、なにやってんだ。玲奈ちゃんと言うものがありながら、キキョウさんと二人でおでかけなんて。キキョウさん、女子のメールグループで吊るしあげられてるらしいぞ」
という文面が飛び込んできた。
あわてて、仲の良い佐伯亮に個別にメールを送る岳。
亮からの返信も、内容は同じだった。
先ほど会ったばかりだというのに、すでに噂が広まっていた。
そして、岳をそそのかしたのはキキョウだということにされていた。
「キキョウ、そんな」
と岳が慌てて言うが、
「まあ、これって誹謗中傷てやつ?、
いいじゃない、受けて立つわよ」
とキキョウは動じない。
翌日、登校のため岳がいつもの駅の改札で玲奈を待った。
いつもの時間より、少し遅れて来た玲奈。
そして
「ねえ、岳。今日は一緒には行かないわよ。
浮気したんだってね」
そう言い残すと、ひとり先に改札口をくぐって行ったその日の玲奈。
朝の教室では、岳が
「おはよう」
と言いながら教室に入ると、皆こわばった様子で「おはよう」と返した。
そして、キキョウがはいってくると、
「おはよー」
の言葉を、そこにいたすべての女子が無視した。
そして、あからさまにキキョウを避ける態度をとった。
「あれ、どうしたの?」
と話しかけるキキョウだが、そこにいた女子はすぐにその場を離れてしまった。
「これがイジメってやつか」
キキョウは何故がほくそ笑んでいた。
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