2か月目~第1週~玲奈の本心
玲奈の将来の夢を知らされる岳
その夜はチャミュがいない。
しかしそれを知っているのは岳だけだ。
他の家族は、白猫チャミはいつものように岳の部屋にいるもの、とばかり思っている。
その夜は、チャミュが急遽あっちの世界に戻っているのだ。
玲奈の進路をどうするか、それを確認するために。
あと、今までに貯まった岳の成就の力を女神に預けるために。
夕食後、早めに部屋にこもった岳。
その後をついてくるチャミュ。
いつもなら団欒の場であるリビングにいる時間だ。
「あらら、チャミちゃん、もう行っちゃうの?」
と母が言う。
夕食後、母はチャミと戯れるのをたのしみにしているのだ。
真帆がいれば一緒に。
「母さんや真帆がのぞきに来なけりゃいいけど」
と部屋に戻った岳が言う。
「まあ、その時は何とかごまかして。朝には戻るから」
チャミュはそう言うと、すーっと消えて行った。
翌朝、ベッドの隅にチャミュが眠っていた。
その姿に安心する岳。
チャミュを起こさないように静かにベッドから出て、セバスチャンの散歩のため玄関をでる。
そこには、チャミュが待ち構えていた。
「おはよー 一緒に行くよ」
とチャミュ。
「お前、寝てたんじゃないの?」
そう言う岳に、
「あっちの世界のこと話すね」
とチャミュ。
「そのために早起きしたんだよ」
セバスチャンの背中に乗ったチャミュ。
そして、
「玲奈の希望は聞いてきたよ」
というチャミュ。
「玲奈に会ったの?」
岳が聞くと、
「ま、まあね」
「玲奈は、玲奈は元気にしてるの?」
岳が語気を強めて言う。
「うん、まあね」
とチャミュ。
なんだか歯切れが悪い。
「玲奈のとは、気にしないで。あっちの世界で平穏に過ごしているから」
とポツリと言うチャミュ。
そんな話をして言う間に、玲奈の家の前まできた。
庭には、玲奈の姿が。
「岳、おはよう、チャミュも一緒なのね。
今日さ、担任と面談するのよ。進路について。下手に試験の結果が良かったからね」
と玲奈。
今日の玲奈はチャミュの事も知っている。
それに、
「まあ、玲奈にとって大切な進路。しっかり面談するから」
と、もうすでに進路の件も把握しているようだ。
「まかせたよ」
と岳。
散歩を終えて家に帰ると、チャミュはいつの間にか岳より早くリビングに戻っていた。
母にすり寄りながらゴロゴロとのどを鳴らして朝ごはんを準備してもらっていた。
「はいはい、チャミちゃん。どうぞ」
と猫なで声の母。
岳がリビングをのぞくと既にチャミ用ソファで丸くなって眠っているチャミュの姿があった。
「ファンタジーワールド、日帰りだもんな」
疲れているのだろう、と岳。そして登校するために家を出た。
放課後、玲奈の姿を待つ岳。
待つこと小一時間、校門に玲奈がやってきた。
「おまたせ」
そう言いながら。
「面談、どうだった?」
と岳。
玲奈は担任と進路について話をしていたのだ。
「玲奈の本心を話したよ。
玲奈、ま、今は私なんだけど。はね、美容師になりたいの。
だから大学進学はしないで、美容専門学校に進むつもり」
そういう玲奈に、
「そうなんだ」
という岳だが、驚きを隠せなかった。
確かに玲奈はそこまで勉強は好きではないようだ。
それでも大学に進学するものだと思っていた、玲奈もそんなことを話していた。
美容師になりたい、初めて聞いた。
そうだったんだ。
知らなかった。
進路の話、何度も玲奈とした。
なんでその時は言ってくれなかったんだろう。
そういえば、普段から髪型にはリキ入れてたような。
美容師か、玲奈にぴったりだ。
でも、
なんで教えてくれなかったんだろう。
直接聞きたかった、玲奈の口から。
「私から聞いたんじゃ不満みたいね」
とその日の玲奈が言う。
「そんなことは」
と岳。
「そんな顔されちゃね」
玲奈が苦笑いしながら言う。
知らず知らずのうちに不満が顔にでていたらしい。
「玲奈を取り戻したら、改めて聞くといいよ。その時は本心を言ってくれると思う」
ちょうど電車の窓ガラスに玲奈の姿が映る、本来の姿だ。
「え、」
思わず絶句する岳。
映っていたのは、ミイラのような姿の女性だった。
思わず、隣の玲奈を見る岳。
もちろん隣にいる玲奈はいつもの姿に見えている。
「おどろいた?」
と玲奈。
「私たちはね永久の時を生きる種族なの。だけどある程度の年月をすぎると身体はこんな風になって、
この姿のまま、これからも生き続けるのよ。いつかあなたの子孫に会いに来られるかしらね」
玲奈が少し寂しそうに言った。
「いや、見た目は関係ないよ」
そう言う岳だが、ミイラをこんなに近くで見るのは初めてだ。
もちろん、動いているミイラを見るのも初めてだ。
「そうか、僕には会うことができないひひひひ孫にだって会えるんだね、君は。
じゃ伝言頼もうかな、しってりやれよって」
と岳。
「わかった、言付かったよ。でもね寿命があるのってうらやましいな」
そう言って玲奈は笑った。
窓ガラスに映る、ミイラの姿も笑顔になっていた。
「子孫か」
岳は、自分の子供や孫、そんな存在の事を今の今まで考えたこともなかった。
しかし、自分にも親がいる、いつかは自分も誰かと結婚して親になるかもしれない。
結婚、そんなことも考えたこともなかった。
誰とだ、玲奈?
今まで、玲奈とは「付き合っている」とはいえ将来のことまで考えてはいなかった。
その日の岳は自分の未来を少しだけ想像してみた。
「お帰り、岳。どうしたの?顔が赤いみたいだけど」
帰宅すると、母に言われてしまった。
「俺の結婚相手か」
そんなことを考えている間に、顔がなんだかほてっていることに
気付きもしない、岳だった。
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