2か月目突入~試験の結果
試験の結果が分かったようです。成績は?
「みゃあ」
庭先でそんな声が聞こえた。
すぐに、リビングの大きな窓が開かれた。
すると白い猫がするっと家の中に入ってきた。
チャミュだ。
いや白猫のチャミだ。
あの迷子事件から数日。
もうすっかり元通りの元気な様子で、母や真帆にすり寄りながら、ごろごろとのどを鳴らしている。
母に呼ばれれば駆け寄り、真帆の言葉には相槌をうつように、ニャと返事をする。
「チャミは賢いわね」
母がそう言う。
「言葉がわかるのかしら」
と。
「あたりまえだよ、なあ、チャミュ」
と岳は内心思う。
「もう迷子になってりしないよね。呼んだらすぐに帰ってくること。あと庭の外に行っちゃだめよ」
母と真帆がそう言いながら、チャミを再び庭に出してやった。
ちょうどチャミュが庭でくつろいでいた時、が外出していた岳が帰って来た。
庭先の植え込みで寝そべるチャミュに、
「お、謹慎が解除か。よかったな、チャミュ」
と声をかける岳。
帰宅した岳と共に家に入るチャミュ。
そしてそのまま岳の部屋へ。
「さ、今日は?」
そう言いながら天使の姿に戻ったチャミュが岳の胸に手を当てる。
そして取り出された成就の力。
それを丁寧に宝石箱にしまうチャミュ。
「だいぶ貯まったね。これ、どうする?」
と岳に聞くチャミュ。
「俺に聞かれたってね。俺はそれ使えないわけだし」
岳は少々不満げだ。
「じゃあ、ある程度貯まったら女神の元に持っていくね。そこで保管しておいてもらおう。
ここにあるより安全だから」
とチャミュ。
「やっぱりこれは狙われるのか」
と岳が宝石箱の中の成就の力が結晶となっている球体を見つめた。
「なあ、修行ってなにすればいいの?」
岳は、その「成就の力」を使いこなせる術をもたない。
チャミュとキキョウが修行をする、ということにはなっているが、
今のところ何もしていない。
「まあ、そのうちに、ね」
と今回もチャミュにはぐらかされた。
大型連休明けに実施された定期試験の結果が発表された。
各科目の成績上位者は廊下に張り出される。
これが学校の慣例だ。
「ふう、一安心だ」
個人成績を確認した岳がほっと胸をなでおろす。
成績は前回よりもわずかながら上昇。
もともと、いつも成績は上位だが、これなら父から「予備校へ行け」とはいわれないだろう。
そして、注目されたのは玲奈だ。
今まで、一度も上位者として名前が載ったことなどなかった玲奈。
それが、大躍進だ。
「湯浅さん、すごいじゃない。がんばったわね」
玲奈の担任からもお褒めの言葉をもらい、戸惑いを見せる玲奈。
「そりゃそうだ」
試験を受けたのは、あの魔法学校首位のエルベが太鼓判を押した人材だった。
「ほどほどにしろよ、って言ったのに」
と岳がぼやく。
本来の玲奈はそこまで成績優秀ではない。
毎度毎度、エルベが手ほどきをしてくれるわけじゃないのに。
今後が大変だぞ。
岳の通う高校、「自称進学校」と在校生たちは陰で言っていた。
大学進学のための進路指導は熱心だ。
高校1年生の時には、いろいろな大学で開催されるオープンキャンパスへの参加が宿題となるほどだ。
玲奈の成績急上昇で、担任が玲奈を職員室に呼び出した。
「ねえ、湯浅さん。あなたの進路希望なんだけど。
専門学校ってなるわよね。
大学進学でもいいんじゃない?」
と担任の女性教諭が言う。
2年生になってすぐ、自身の進路希望を提出していたのだ。
玲奈は専門学校へ進むことを希望していたようだ。
しかし、そこまでの情報共有が、その日の玲奈にはされていなかった。
「なによ、進路って。これ重要なもんだよね。私が答えていいのかしら」
と玲奈が内心焦りながら思う。
「えっとー、今回の試験の結果ですが、これはまぐれというか。
試験勉強を緑川君のお姉さんが手伝ってくださって、そのおかげです」
と玲奈。
「そう、緑川君のお姉さま、W大の学生さんよね。それはよかった。
でも、それでもあの成績がとれるんだから頑張ってみてもいいと思うわよ。
ご両親ともよく相談して。親御さん交えて面談してもいいから」
と教諭。
その日はそれで解放された玲奈。
帰り道、待っていてくれた岳と一緒に帰宅の途につく二人。
「ねえ、進路のこと、日替わりじゃあどうしたらいいのかわからなくて。
そっちには担当さんが付いてるんでしょ、相談してみてよ」
と玲奈。
「あっちの世界って進路とかってどうなってるの?」
と岳が聞く。
前に来た玲奈にも聞いてみたがどうも種族により違うらしい。
「私たちは血筋がすべてなの。パン屋の血筋ならそのままパン屋、先生なら先生。
王族なら王族ってとこね」
と玲奈。
「ほかの道に進みたいって思ったら?」
「それは、異端者ってことで白い目で見られるわね。
まあ、とびぬけた才能があれば別だけど。
私は本当は絵描きになりたいんだけどね」
そういう玲奈は少し寂しそうだった。
「異端者って言われても、やってみればいいのに」
岳の言葉に、
「だめよ、私の血筋」
と言いかけたがそれ以上は何も語らなかった。
最寄り駅に着くと、
「じゃ、進路の事は申し送りもしておくけど、相談よろしくね」
とう言い、玲奈が自宅へ向かい走って行った。
その日の夜、チャミュに玲奈の進路の話をした。
チャミュも「進路」と言われてもピンとこないようだが、今日の玲奈よりも知識はあるようだ。
「とにかく、本物の玲奈の意向が知りたいんだ。これは将来にかかわる重要なことだから、
なんとかして玲奈の希望を確認してほしい」
そう言い張る岳。
「でもさ、きみたちは、罰を受けている身なんだよ」
とチャミュ。
「でも、俺たちの将来を変えてしまう権利はないはずだ」
岳は譲らない。
「仕方ないな。実のところ、試練のクリアも順調だし、女神に掛け合ってみるよ」
とチャミュが少し困り顔でそう答えた
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