22日目~離れなれない間柄
新しい力、覚醒?
岳の自宅での勉強会。
予定時間をかなりオーバーして終了となった。
「これでもうバッチリだわ」
と朝陽が自信ありげに言う。
「ありがとうございました。とてもわかりやすかったです」
亮も真帆にそういいながら頭を下げていた。
朝陽と亮はそのまま帰ることになり、真帆が買い物がてら送っていくといい、
真帆も出かけて行った。
残された玲奈が岳の部屋に向かおうとする。
その姿を、リビングからそっと見つめているのは岳の母だ。
「母さんが見ている、玲奈が俺の部屋に行くのはマズい」
と岳が焦りながら思う。
しかし、玲奈とチャミュとはもう少し話がしたい。
そんなタイミングでリビングの電話が鳴った。
固定電話だ。
「まあまあ、お義母さん」
母が電話口で話し始めた。
どうやら父の母、岳にとっては祖母からの電話のようだ。
この祖母は、スマホなどを持っておらず、通信手段は固定電話か手紙、そんな人だ。
しかも、無駄話が好きでいつも電話はかなり長い。
その話し相手はほぼ母だ。
まあ、言い方を変えれば義母とうまくやっている嫁、というわけだ。
リビングのソファに座り込んで電話中の母を確認すると、玲奈に2階へ行くように目で合図をした。
そして岳も自分の部屋に。
岳の部屋に、玲奈とチャミュ、そして岳。
「あんまり時間がない、だから要点だけ聞きたい、
俺のなんだって?成就のちから?なんなんだよ、それ」
と岳がいささか早口で言った。
「だからね、毎日好きって伝えると、それが力になるの。それは成就の力って呼ばれているもので、
とても強い力をもっている魔力なんだ。
そして、それを岳の中から取り出せるのは僕は岳とは離れられない間柄ってことだよ」
とチャミュ。
「成就の力を生み出せる人って、めったにいないのよ。岳、すばらしい才能よ」
玲奈も感心したように言う。
「さっき、俺の胸から出てった光の玉、それが成就の力ってこと?」
「そうだよ、それを取り出して、はらここに」
チャミュは先ほど岳から取り出した光を手に乗せて見せた。
「これを僕が持っている天使の箱にいれておくんだ」
そう言って、チャミュが小さな宝箱のようなものを見せた。
その中にさっきの光を入れる。
「さ、これでできあがり。これは貴重だよ。特殊魔法宝物っていわれてるやつだ。」
とチャミュが自慢気に言った。
「俺、魔法使いじゃないじゃん」
岳がいぶかしげに言う。
「ま、今のところはだね」
と玲奈。
「そもそも、その成就の力っての、どんな力なのよ?」
と岳。
「そうだね、それを説明しないよピンとこないよね。
成就の力、名前の通り、希望が叶うって力だ。
今ここにさっき取り出した成就の力があるでしょ」
そう言うとチャミュが、宝石箱のなかから小さな光の玉を取り出した。
ちょうどゴルフボールくらいの大きさのその玉を手に乗せるチャミュ。
その時、
「岳、ちょっと出かけてくるから」
階下から母の声がした。
何処かに行くようだ。
すぐに玄関のドアを開ける音がした。
「ね、僕はね、成就の力にママが外出しますように、って願ったんだよ。
で、それが叶った」
チャミュが手に乗せた玉を見ながら言う。
その玉は、先ほどまでの輝きが失せてゆき、やがて火が消えたようにくすんだ色に変わった。
「ほら」
そう言って、チャミュがその玉を握りしめると、ぱらぱらと粉になって消えて行った。
「力を使い切ったんだ」
とチャミュ。
「誰でもこの力を使える訳じゃないのよ、ある程度の魔力が必要。でもあっちの世界にはそんな人はごろごろいるわ。でも、その力を作り出せるって人はめったにいないのよ」
玲奈が補足のように言った。
「ま、この能力が岳にあるってことは、私たちも最初は信じられなかった、それくらいすごい事なんだけどね、でもすごい力を持ってるって、それがリスクにもなるの。わかる?」
と玲奈が続ける。
「ねたまれる、とか?」
岳は思わず「出る杭は打たれる」ってなことわざを思い出していた。
「ねたまれる、程度で済めばいいけどね」
チャミュと玲奈が顔を見合わせて、
「狙われる、ってことだよ」
とチャミュが言った。
「だから僕がこっちに常駐することになったんだよ。
ま、安心して、僕、天使、それも優秀な天使、だから」
と胸をたたいて言うチャミュ。
「なんだよ、今度は狙われるのか。しかもあっちの世界の輩から。
勘弁してくれよ」
と岳。
それに対して、
「狙ってくるのは、あっちの世界の奴ばかりとは限らないんだ。
あっちの世界の奴なら、女神の力である程度は制御できる。でもここリアルワールドで岳の力に気か付くような連中だとそうはいかない。この世界にも潜在的に魔力を持つ者はいるから。そんな奴らは君の力を取り出し使えてしまうんだ」
チャミュの説明が続く。
「だから、僕は君を全力で守るってわけ。だから安心してね」
そう言うチャミュは自信満々だ。
「まあ、チャミュが有能な天使だっていうのは間違いないわ。私が保証する。
でも、気を付けるに越したことはないわね」
と玲奈。
「じゃあ、頼んだよ、チャミュ。
でも気を付けるったって、どうすれば」
それでも岳は不安げだ。
「だよね、岳、きみは自分の力を自分では使えないようだね。
せめて使えるのなら武器になるんだけど」
玲奈が心配そうに言った。
「なんで俺、自分で作れる力を使えないの?」
岳もそのことはわかっていなかったようだ。
「そう、残念ながら今の君には使えないんだよ、せっかくの成就の力も」
とチャミュ。
「今の?今のってことは、そのうち使えるようになる、とか?修行とか鍛錬とかすれば」
岳がすかさず言った。
「ま、そんなとこ、なんだけどさ」
そう言いながらチャミュが少し困った顔をした。玲奈ときたら、明らかに怪訝な表情だ。
「じゃ、修行してくれよ、俺に」
岳が叫ぶ。
「ほらね、そう言うにきまってるじゃん」
と先ほどのチャミュの言葉を責める玲奈。
「頼むよ、俺、少しでも強くなって、あっちの世界の玲奈を取り戻さなきゃいけないんだ。
そのためにも力を使えるようになりたいんだよ」
と力説する岳。
「ここで、修行だなんて、許されるわけないでしょう」
玲奈が言うが、
「そこをなんとか、玲奈の口からアテナに頼んでみてよ」
と頼み込むチャミュ。
「おお、それじゃあもう決まりだ。頼むよ玲奈、いやキキョウ。
チャミュ、明日からでも修行、よろしく」
意気揚々という岳。
「じゃ、頼むだけ、頼んでみるか」
と玲奈が言った。
その夜、
「ねえ、チャミちゃんどこにいるか知らない?」
と真帆が家族に聞いて回っていた。
「さっき、うろうろしていたからおトイレかと思って庭に出してあげたんだけど、
戻ってこないの」
と真帆。
慌てて庭を探す岳。
しかしチャミの姿はない。
その夜、チャミュは戻ってこなかった。
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