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16日目~連休まであと少し

試験勉強は続いています。

あちらの世界、ファンタジーワールド。

岳の中でそのイメージがだんだんと出来上がりつつあった。


多種多様な種族が共存し、魔法など人の英知を超える力が日常に存在する世界。

そして、女神という「神」の実在するまさしく不思議な世界(ファンタジーワールド)だ。

花の咲く草原や、中世の街並みの市街地、どこも鮮やかな色彩でいろどられている。

岳の脳内では、RPGゲームのBGMが勝手に流れていた。

あの、兵士だという「玲奈」に会うまでは。


「戦争か」

岳は玲奈の言葉を思い出していた。


「武器を持っていないのは久しぶり」


そんな世界に今、玲奈は囚われている。

必ず取り戻さないと。

なんとか早く奪還する方法はないものか。


この試練が始まってから、毎日その日の終わりにカレンダーにバツ印を付けている。

やっと15個のバツが付いた。


「あ、あと5日か」

次に担当天使だというチャミュが来るのが20日目。


「聞きたいことはやまのようだけど」

と岳は一人つぶやく。


「答えてくれるのか」

とチャミュの顔を思い出しながら。


翌日から、放課後は1時間ほど自習室に行くことにした岳と玲奈。

それから朝陽も付いてくるという。

その日の玲奈がエルベの作ったノートを丸暗記する。


エルベのノートは試験が始まる前日分まで、きちんとまとめられていた。

それを横から覗き込む朝陽。


「すごいね。先生の授業よりわかりやすいかも」

と感心しながら。


「先生に見せてあげようよ、これ」

とまで言い出す朝陽。


「あまり目立つのはまずい」

岳は思う。

エルベ、優秀すぎるよ。

朝陽には、あのノートは岳の姉、真帆が手伝ったと伝えた。

真帆は一応、難関と言われる大学に通っている。


「そっか、真帆さんね、さすがだわ。

今度真帆さんに家庭教師頼みたいな。一緒に勉強教えてもらおうよ、連休中どうだろう?」

と朝陽。


「いや、連休は忙しいみたいだよ、バイトとか、あと大学は祝日関係なく授業があるんだって」

慌てて岳が言う。

連休まで朝陽に付きまとわれるのは避けたい。

それに、姉に家庭教師してもらうなんて、絶対に無理だ。


「そっか、じゃ仕方ないか。でも暇なとき、お願いしておいてね」

と朝陽に言われ仕方なくうなずく岳。


その日の夜、久しぶりに夕食の席に真帆がいた。

真帆と母と岳。

父がいないのはかえって幸運だ。


「ねえ、姉ちゃん。連休ってどうしてんの?」

と岳。


「え、バイトと学校だよ」

と岳の予想通りの返事が返ってきた。


「だよな」

と安堵する岳。


夕食を済ませ、部屋の引き揚げようとしたとき

「ねえ、何か用でもあるの?」

と真帆がこっそりと岳に聞いた。


「あ、いや、なんとなく」

と曖昧に答える岳。


「なによ、暇な時もあるから、ね」

と真帆が岳の背後からそう言った。


部屋に戻ると玲奈からのメールが来ていた。

「私、暗記苦手だから明日の玲奈に確認してもらいたいの、申し送りしたけど岳も気を付けてね」

と。


「え?あんなに熱心に勉強してたのに」

と岳。

その日の玲奈はいつもの暗記が得意な種族ではなかったようだ。


「ほんとに色んな玲奈がいるな」

そう言いながらなぜか今日の玲奈を愛おしく思った。


翌日、いつものように早朝からセバスチャンの散歩に出かける岳。

玲奈の家の前、ちょうど庭の横を通ると、

ガサガサという音とともに、玲奈が現れた。


「もう、昨日の子、全くダメね、早起きして昨日の分までやったわよ」

と玲奈が少し怒り気味で言う。


「申し送りに?」

と岳が言うと、


「そうよ、明日ヨロピクって。ヨロピクよ、ヨロピク。

ああ、まったくフォイの一族ってやだわ」


「フォイ?」


「そうよ、フォイの一族。狩猟民族よ」


「狩猟民族だと暗記が苦手なの?」

岳の問いに、


「当り前じゃないそんなの。なんで知らないの?」

と不思議そうに言い返された。


「狩猟民族か」

新しく知るファンタジーワールドの一面だ。

そう言えば、昨日の玲奈、あっさりと試練はクリアできたので本来の姿も見ないままだった。


「どんな格好だったんだろう」

岳が思いを巡らせる。

狩猟するんだから、なんか、編み上げみたいな靴はいて、ミニスカートくらいの長さのシャツをウエストで紐結んでるような服着てるって感じかな、背中には弓矢とかしょってたりして。


登校する電車では今日の玲奈が文句を連発した。

昨日の玲奈の勉学に対する熱意がなさすぎる、と。


「私はねベッピーノ大学校院の学生なの。毎日ただひたすら勉強しているのよ。

だから学問をないがしろにするってことが許せないの」

とその日の玲奈が熱く語る。


「そうなんだ、優秀なんだね。大学では何を学んでいるの?」

と岳が聞くと、


「大学校院ね、私は魔界学専攻よ。

魔界の歴史、地理、そして政治経済、そんなことを研究しているの」


「魔界?そんなところがあるんだ」


「そう、魔界はねファンタジーワールドの暗黒の世界って言われている地域でまだその全貌は解明されていないの」


そう言う玲奈の姿が鏡に映った。

黒いローブを着て分厚い眼鏡をかけた女の子だった。


「すごいね、それが解明されたら?」


「そう、魔界のすべてが解明されたら、ファンタジーワールドも無事では済まないわ」


「じゃ、何故研究しているの?そっとしておけばいいのに」


「それができないのが私たちの種族なのよ

私たちは、魔族。魔界からはじき出された元魔界の住人なの」


なに、なんかヤバい奴?今日の玲奈。


「魔法族、とは違うんだ」

岳が恐る恐る聞いてみた、今まで来たうちの何人かは「魔法族」だったから。


「そうね、ちがうわ。魔法族は魔法の探求をする種族。魔族は生活のすべてが魔力で補われている種族ってとこかな」

と玲奈。


複雑な表情で玲奈を見る岳、その様子に、

「深く考えなくていいよ岳は、あっちの世界のことは。行く機会ないでしょ」

と玲奈がとりなすように言った。


その玲奈の言葉に違和感を持つ岳。

岳と玲奈は女神の元にいた、あのすべてが始まった日に。

あれはあっちの世界(ファンタジーワールド)だったのではないのか。

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