15日目~また新しい一週間
試験勉強は続く
「ペナルティか」
14日目の夜、部屋で一人思う岳。
それにしてもファンタジーワールドとよばれている「あちら」の世界。
どんなところなんだろう。
今までに来た「玲奈」の話によると複数の種族がいて、魔法を使えるのもいて妖精や天使もいる。
「あとは勇者とか魔族とかいるのか」
と岳。
ゲームの世界にはよくある設定だ。
「最初にゲーム作った奴らってあっちの世界を知っていたのかな」
ゲームでは勇者なんが主人公で、魔王や悪魔を倒して姫を救う、そんなストーリーが多い。
そしてその勇者は最初は弱いが、経験を積むうちにどんどんと強くって行く。
HPというやつだ。
「俺にもあるのか?HP]
岳は自分のこの状況をゲームの主人公に置き換えてみた。
姫=玲奈を救う。
そのために、
「いや、俺は戦ったりしない」
そう、岳に課されたことは毎日玲奈に「好きだ」と告げることだ。
だからこれはゲームではない。
ペナルティがあるかもしれない、その言葉はひっかかったままだが、次にチャミュが来るまで真相を知ることはできないようだ。
翌日、月曜日。
朝からセバスチャンの散歩に出る岳。
玲奈の家の前を通るが、庭に玲奈の姿はない。
その日も魔法学校首席のエルベが残してくれた、学習計画に従い放課後、玲奈と二人で自習をする。
学校のある日は、校内の自習室を使うことにした。
参考書もそろっているし、何かあれば先生もすぐそばにいる。
そんな岳と玲奈の姿を、森口朝陽が見つめていた。
「なによ、連休明けからって言ったのに、二人だけで」
と朝陽。
自習室には既に数人の生徒がいた。
空いていた机に岳と玲奈が座り、さっそくエルベの作ったノートを取り出す玲奈。
その時、自習室のドアが開き、朝陽が入ってきた。
「ねえ、なんで二人だけで来てるのよ、連休明けって言ったのに、抜け駆けしてずるいわ」
と言いながら。
「いやそんなつもりじゃ」
と岳が言う。
その時には既に自分も机に座っている朝陽。
そんなやり取りの間も玲奈はノートから目を離さない。
岳と朝陽の会話も聞こえていないようだ。
そんな玲奈に話しかけようとする朝陽を岳が止める。
「玲奈、集中してるから、そっとしててあげて」
と。
校内の自習室は、図書館に比べると会話には寛大だが、それでも話し声が大きいと周囲からにらまれる。
この時も、周りの生徒がチラチラと岳たちを見ていた。
その気配を感じ、岳も朝陽もノートと参考書に目を落とした。
小一時間経った頃、
「さ、出来た。今日の分終わった」
と玲奈がのびをしながら言った。
「ああ、疲れた。 あれ、森口さん?いたの?」
と玲奈。
玲奈は朝陽が合流していたことにまったく気付いていなかったのだ。
「もう、湯浅さん冷たいなあ」
と朝陽。
そう言いながら、ふと玲奈のノートに目をやる朝陽。
その内容に驚いた素振りを見せた。
「ねえ、これ湯浅さんのノート?」
と言いながら、そのノートを覗き込む朝陽。
玲奈と朝陽は高校一年生の時は同じクラスだった。
そこそこ仲良くしていた。
その頃の玲奈は、そこまで勉強熱心ではなく、成績優秀な朝陽がよく宿題を写させてやったものだった。
そんな朝陽が見ても、よくまとめられているノート。
そして、今しがた見せた玲奈の集中力。
「この子、そんなに熱中して勉強したっけ」
そんな疑問がわく。
「なんか湯浅さん、変わったわね」
と朝陽。
「そうかなあ、高2になったことだし、少しはお姉さんになったってことかな」
と玲奈がかわす。
「じゃ、今日はこれで。俺たちもう帰るから」
と岳が二人の会話に割って入る。
「そっか、また明日もここでね」
と朝陽が言う。
そのまま玲奈を連れて自習室を出る岳。
これ以上、朝陽と玲奈を関わらせるのはまずい気がした。
「明日もか」
と岳。
「ホントの玲奈って勉強嫌いなの?」
その問いにただ頷く岳。
「だから、違和感感じたらしいよ」
と言いながら。
「でもさ、私は集中しないと覚えられないから仕方ないじゃん」
と玲奈が言う。
「今日の分はもう大丈夫。ま、明日からは何とかしてね、私は知らないけど」
とその日の玲奈。
「ま、異世界なんか朝陽が信じるわけないか」
と岳ため息交じりだ。
まさか、毎日日替わりで異世界の誰かが玲奈になりきっている、なんて思うわけがない。
だから身バレの心配はない。
「私にとって、こんなこと覚えたって何の役にも立たないけど、玲奈には必要なんでしょ。
じゃあんたがなんか言い訳考えてよ。明日からの玲奈も意味もない勉強ってやつしなきゃいけないんだから」
と玲奈。
「玲奈たちってあっちでは勉強とかしないの?」
と岳が聞くと、
「私たちの勉強っていうのはすべてが実地訓練かな。
私は兵士よ、今はゲリラ戦の訓練中なの」
とその日の玲奈が言う。
「兵士?戦争とかあるんだ」
「そうね、たくさんの種族がいるからいつもどこかでいさかいが起きているわ。
女神たちも静観しているだけ。民族の問題だからって」
そう言う玲奈はとても辛そうだ。
「武器を持たずにいるっていつ以来だろう。あっちでは常に携帯しているから。
それはそれでいいものね」
と玲奈が笑顔を見せた。
帰りの電車で、窓ガラスに映った玲奈は迷彩服姿の少女だった。
「ここでは争いがないのね、いいな」
そうポツリと言った。
その日の夜、
「キミたちの世界にも平和が訪れますように」
とメールをした岳。
すぐに返信が来た
「無理」
と一言。
岳は自分がよく知りもしないのに口を挟んでしまったように感じた。
余計な一言だったかもしれない。
何か伝えたい、そう思ったが何もできないまま、時刻は0時を過ぎていた。
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