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1日目~始まり

岳と玲奈は17歳。

付き合い始めて半年になる同じ高校の2年生。

どこにでもいる高校生カップルのはずだった二人だが。

「あなた方は罰をうけなくてはなりません」

ロウソクの灯りが揺らめく、薄暗い、けれどどこか厳かな空間。

そこに響き渡る声。


「お前が達成できなければ、この娘は生涯ここに囚われる」

その声は、美しくそして冷たい。


「すべては、お前次第だ」


そこで、岳は飛び起きた。


「ああ、夢か」

自分の部屋のベッドで、そうつぶやいた。


緑川 岳 みどりかわ がく 17歳 高校2年生。


「なんだ、もう朝か」

そう言いながら、服を着替えて自室からリビングに向かう。


キッチンでは母が朝食の支度をしていた。

ダイニングテーブルで、父がただ黙って座っており、廊下の向こうの洗面所では

姉の真帆がドライヤーの爆音を響かせていた。


「岳、ほら、ごはん、運んで」


母に言われて、父の分の朝食を運ぶ。

「それくらい自分でやればいいのに」

座ったままの父に心で思ったが声には出さなかった。


食卓には父と岳、そして姉の真帆、キッチンの母。

これが岳の家族だ。


住んでいるのはこの建売住宅。

庭付き一戸建て、築20年だ。


駅からは徒歩10分と少し、駅近ではないが歩けなくもない。

最寄駅は都心へのアクセスもよく人気のエリアだ。


そんな自宅を父は20年前、ローンを組んで購入した。

「子供たちは、ゆったりと庭のある家で育てたい」

そう言う希望があったからだ。


「おい、岳 学校はどうだ?」

と父がこの日はじめて岳に話しかけた。


「どうって、普通だよ」

と岳。


「楽しいのか?」

珍しく父がしつこく尋ねる。


「だから普通に楽しいって」


「おまえ、楽しむのもいいが、勉強もおろそかにするなよ。来年はもう受験だ」

父が言う。


「わかってるよ」

岳が吐き捨てるように言った。

だったら、楽しいか?なんて聞かないで勉強頑張ってるか?って聞けばいいんだよ、と心の中でつぶやいた。


「岳、早く食べないと。月曜日から遅刻するわよ」

姉の真帆が言う。

父との会話から救い出してくれる救世主だ。

岳は無言で朝食を平らげ、食卓を離れた。


部屋で制服を着て、それから髪を熱心に整える。

2度寝でもをしているのでは?と心配されるほど時間が経った頃、部屋を出る岳。

玄関で靴を履くと、

「行ってきます」

と小さく声をかけて出かけて行った。


「行ってらっしゃい、帰りは何時?」

と言う母の声には答えずに。


朝、7半時過ぎに家をでて学校に向かう。

駅の改札の前ですこし待つ。

すると。


「おはよー」

そう言いながら駆け寄る人影。

髪をなびかせ、制服のチェックのプリーツスカートから伸びるすらりとした足。

なかなかの美少女だ。


岳が振り返り、軽く手を振るその相手は、

「今日も眠いねえ」

と言いながら岳の隣に並び、一緒に改札口に向かった。


岳の隣を歩くのは、湯浅玲奈 ゆあさ れな 同じ高校の2年生だ。

岳と玲奈は「付き合って」いる。

玲奈が岳に「告白」をして付き合いが始まり、半年が経とうとしていた。


岳と最寄駅は同じところに住んでいるが、中学までは別の学校で高校入学まで面識はなかった。

それが、たまたま体育祭の準備で遅くなった高1の初夏、同じく遅い時間に同じ最寄り駅で下車する玲奈の姿を見たのが、彼女を認識した最初だった。


しかし、岳にとって玲奈は当初はそれだけの存在だった。

最寄り駅が同じ子がいる、それだけ。


しかし、玲奈の方は時折見かける岳の事が気になっていた。

「高校生になったら彼氏欲しい」

それが玲奈の夢だったから。


そして文化祭の最終日、体育館の裏に額を呼び出した玲奈。

「私と付き合って」

と、告白した。

高校一年生の秋の事だった。


岳はと言えば、

「いいよ」

とあっさり答えた。


その時の岳にとっては

「友達のようなもの」

という認識しかなかったのだが。


しかし以来、二人は「付き合って」いるということになり、一緒に通学したり休みの日にはたびたび

「デート」にでかけたりしていた。


いつも駅で待ち合わせている二人を岳の父が何度も目撃していた、

そして、

「付き合うなら真剣に。でも学業も疎かにはするな」

とだけのアドバイスをした。

母は、聞かなかったフリを貫いており、姉の真帆はというと

「わからないことがあったら何でも聞いてよね」

と意味有り気に言ってくれた。


そんなこんなで「付き合い」始めて半年ほどが経ち今では岳にとってもなくてはならない存在となっている玲奈だった。


二人で電車に乗る。

高校までは最寄駅から数駅先で降りそこからまた歩く。

二人が通うのはそこそこの「自称進学校」だ。


通勤通学ラッシュの時間帯、電車はいつもかなり混んでいて当然座席には座れない。

岳と玲奈が並んで車内の吊革につかまった。

次が下車駅だ。


その駅のホームは地下にあるので電車も地下にもぐって行った。

窓ガラスには車内の様子が映っていた。

もちろん並んでいる岳と玲奈も。


しかし、岳の隣にいに映っていたのは、

とてもこの世の者とは思えない、まるで怪物?妖怪?けだもの?

そんな姿だった。

岳は、声を出すことも出来ずそっと横を見る、

横にいるのはいつもの玲奈だ。


「なんだこいつは、あれは夢じゃなかったのか」

岳は心でつぶやいていた。

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