運命
第八話
言葉が出ないとはこのことか。なんて声をかけるべきかわからない。そもそも声をかけるべきなのだろうか。
「なんとなくにしては、いい名前だな。ロス、か。」
彼女は両手を顔に当てて伏せたまま、動かない。そもそも俺が彼女を理解し、彼女を慰めることなど、不可能なのだ。俺は、彼女のような過去があるわけではない。いやむしろ真逆だった。俺は飼い主、その周りの人たち、全員に愛されて育った。それに飽きた。それが嫌になったなんて、口が裂けても言えない。もしそんなことをぬかしたら…彼女はこの巨鳥のでかい背中から飛び降りるかもしれない。彼女は愛を知らない。ロスとの関係も、ロスは彼女を恩人だと思っており、友や愛とはまた違ったものなのだろう。
「りん…」
その時、ロスは高度を下げ始めた。どうやら向かっていた場所に着いたらしい。りんは顔を上げ、
「ありがとう、じい。」
とつぶやいた。
そうして着いた街は、俺の知っている街。嫌と言うほど知っている街だ。りんはロスに礼を言い、帰るように促す。もちろん、別れたいのではない。だが彼には彼の生活もあり、何より変な鳥、扱いされるわけにはいかないという優しさだった。
そうして、また二人きりになった。だが休む暇もなく、俺の最も恐れていたことが起こる。
「ガノフ―」
それは俺の名だ。
そう、ここはほかでもない、俺が生まれ育った街だ。
続く