追憶
第七話
彼女はすぐに巨鳥から新しい服を受け取った。猫どもにやられた傷かどうかなんて、聞くまでもなかった。これがいわゆる
―虐待―
巨鳥は二人を連れて飛んだ。その道中、俺達はりんの過去と向き合った。
私は、ある有力な企業の社長の夫婦のもとに生まれた。だが難産であり、私を産んだ後、母親は亡くなってしまった。はじめは、父は私を可愛がってくれた。お金には困っておらず、欲しいものは何でも買ってくれた。だが、状況は一変した。ある出来事のせいで。それは、父の企業の社員のデータの改ざんであった。それがきっかけで、企業は信用を失い、経営は傾き始めた。その時からだった。父が私に暴言を吐き始めたのは。父はストレスで、毎日夜遅くに飲んで帰ってきて、寝ている私に構わず大暴れした。今でも鮮明に覚えている。
「パパ?大丈夫?」
「黙れクソガキ!母さんを殺したのはお前なんだよ!」
知ってるよ。それくらい。でも幼い私は父の酒癖の悪さやストレスは理解できなかった。
「お前が男ならまだしも、女なんて欲しくもなかったんだよ、この足手まといが。」
そう言うと父は私を殴りつけた。
そんな日々が一ヶ月続いた。でも私には唯一、心の支えがあった。それは巨鳥―名前はロス。なんとなく名付けた。庭に迷い込んできて、話をするとすぐに仲良くなった。ロスは雄で、その怪力で私を色んなところに連れて行ってくれた。だが行くところ行くところ、全てで変な鳥と変な子という扱いを受けた。私は、家でも学校でも、動物と話せる変な子という扱いだったので慣れていたが、ロスがその扱いを受けるのは許されなかった。そして私はついに、一人で家を出ることを決心した。
夕方、支度をしていると、そんな日に限って父が早く帰ってきた。私は無我夢中でそこら辺の荷物をリュックに積めて、窓から飛び出した。ロスが寝ているのはちゃんと確認してから。私は走った。リュックから、一枚の紙がこぼれた。
(りん、へ)
それは自分宛ての手紙だった。見慣れない字。読んだことのない手紙。私は道のど真ん中でそれを読んだ。
(お腹の中の赤ちゃんへ。私は体の状態が良くないみたい。難産で最悪の場合、赤ちゃんか母体のどちらかを選ばなければならないと言われたの。私は迷わず赤ちゃんを選んだの。お父さんはそれを尊重してくれたわ。だからもし、あなたが私が死んだ責任を感じさせられるようなことがあっても、絶対に気にしないで。強く生きて。お父さんは跡継ぎの息子を欲しがっていたし、理不尽な扱いを受けることがあるかもしれない。でも、強く生きて。生きていれば必ず光が見えるから… あ、あと、最後に、あなたに名前をつけさせてほしいの。そうねぇ、どうしましょう。ずっと考えてたのよ。一番いいのは「りん」ね。気に入ったかしら?頑張って。りん。)
(母、より)
大粒の涙がこぼれる。その時だった。一人の青年が近づいてくる。私は手紙をポッケにしまった。
「どうしたの。こんなところにいちゃ危ないよ。」
「お、おかあ、しゃん…」
私は力のない声でそう漏らした。彼は警察官だ。捕まったら確実に父のもとに戻される。肌でそう感じ、私は泣きつくふりをして逃げ出した。
続く