名前
第三話
言葉が通じる。それは確かに奇跡である。だが同時にそれは、他人を傷つけ、憎しみを生む。りんには、俺の可愛さは通用しない。りんはうつむいたまま、微動だにしない。終わったかもな。別に、俺が走って逃げれば何にもなかったことになる―
そんな思いを巡らせていると、りんは顔を上げた。
「ねぇ、猫さん、」
俺は気を引き締める。彼女の口から出る言葉を待つ。短いようで恐ろしく長い間であった。りんは不意に笑みを浮かべた。
「とりあえず、ここ、出ましょ。」
そういえばまだ草むらだった。
空は雲一つなく、澄んでいた。俺達は歩いた。街の中心部から少し離れた郊外を。人通りは意外と多い。りんは危ないからと、俺を肩の上に乗せた。少し進むと一気に人はいなくなり、公園に着いた。俺達はベンチに座った。
「名前決めなくちゃ。」
「何がいい?自尊心…じそん…じーそん…」
嫌な予感がする。
「じいさんだ!」
俺の中の何かが爆発したのがはっきりわかった。
「舐めてんのか貴様!」
俺は吐き捨ててその場を去った。だが帰り道などわからない。仕方なく寝床を探していると、良さそうな森があった。俺は進んでいくと、ものすごい数の気配を感じた。何だ―
一瞬にして、俺は捕まった。
続く