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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第二章 プレイゲーム
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第八十九話 最強の敵

前回、決勝戦の相手が凛子であると知りました。

 挿絵(By みてみん)


 挿絵(By みてみん)


「凛ちゃん……なんで?」


 なぜ相手チームにいるのかわからない俺たちを代表して、未来はその理由を聞いた。


 長谷川は、未来がずっと頑張っていたのを知っているはずだ。毎日毎日バスケ部に顔を出しては遅くまで練習していたのぐらいわかっているはずだ。

 なのに、わざわざメンバーチェンジしてもらってまで敵チームにいるのがなぜなのか、俺には理解ができなかった。


「簡単な話だよ」


 ふっと笑い、長谷川は口を動かし始める。だけど今までよりも声のトーンが抑えられたせいか、体育館の端っこにいる俺たちには会話がほとんど聞こえなくなってしまった。


「おい、誰か聞き取れるか?」

「僕には全然。何を話してるんだろう」

「あっ、ちょ、ちょっと待って! えとえと、んー! 【聴力解放(ちょうりょくかいほう)】!」


 阿部がキューブを展開して、聞く力を極限まで上げる技を何とかひねり出してくれた。


「範囲は……えっと、私の周囲五メートルにするね? 他のみんなに聞かれちゃ困るかもしれないから!」

「ありがと阿部、助かる」


 細やかな気遣いに感謝して、俺たちは磁石のように引っ付いた。

 すると聞こえてくる二人の会話内容は、重要部分に差し掛かっているようだ。


「未来はアタシと本気の勝負をしたことがない。だからこの場を借りて証明したいのよ」


 いつもと違い『未来』と呼んだ長谷川は一呼吸おいて、低い声で告げた。


「アタシの方が、あなたよりも上だっていう証明をね」


 声に乗せられた彼女なりの理由に、緊張する未来の息づかいが伝わってきた。


「お、おいどういうことじゃ? 長谷川は何を言って……」

「しっ。後で説明する」


 話されている内容の説明を求める加藤には一旦黙ってもらい、続きに耳をそばだてる。


「でもまあ、今回はキューブでの戦いじゃなくて、バスケだからさ。気楽にやってよ」


 ニヤリと笑う長谷川は、「ああ、でも」と言いながら未来を見下ろした。


「手ぇ抜いたら、ぶっ飛ばすよ」


 十センチほどある身長差で上から睨まれた未来は、真剣な瞳で長谷川を睨み返した。


「抜かないよ。約束したもん、勝つって。だから凛ちゃんが敵になろうと、私は全力でやるだけだよ」


 未来はそれだけ言って、吉住とともに位置を移動する。長谷川のチームも瀬戸と須田が周りに広がった。

 ジャンプボールは吉田と長谷川がするらしく、二人だけがセンターサークルに残る。


「……他のチームとの試合、序盤からえげつない動きしてたから、まさかとは思ったけど」


 今の二人の会話について、試合開始の笛の音を聞きながらどういうことだと考えていると、ぐわっと人の目が近づけられた。


「うわっ!?」

「試合が始まったんじゃ、会話も減る! 何があったか教えんか!!」

「わ、わかった! わかったからどけ、近い!」


 鼻がくっつきそうな位置にある加藤の顔を押し退けて、ビックリした心臓を深呼吸で落ち着けた俺は、周りに聞かれないよう小声で語った。


「未来と長谷川はさ。今でこそ親友みたいに仲が良いけど、二年の時にこう……一悶着あったんだよ」


 勉強も運動も、貰う賞の全てが二番目にしかならず、マダーとして選ばれたのも二番目だった長谷川。彼女は、出会う前から未来に嫌悪感を抱いていた。


 理由は、一番目にキューブに選ばれたのが未来だったから。だけど順番はどうにもならないから、それなら実力でトップに立てばいいと思い直し、彼女は努力をし続けた。


 その甲斐があって、幼い頃から現在に至るまで、長谷川はキューブの格闘技大会で不動の優勝者となっている。だけどそれは、未来がその大会に()()()()()からかもしれない。


「未来には、誰かより強くありたいとか、そんな思いは全く無いんだ。人と街を守れるように強くなりたい、ただそれだけのために頑張ってる。今でもその思いは変わらなくて、大会に出たことは一度もないんだ」


 つまり長谷川は不戦勝の形で未来よりも上にいる。

 だからこそ、あいつはその実力を知らしめようとしているのだろう。


「けど、なんで今なんじゃ。そういう理由なら然るべき方法できちんとやり合うべきじゃろ? バスケじゃのうて」

「だから悩んでんだよ……」


 もしそれが理由なら、未来に一対一で戦おうと長谷川から吹っ掛けたらいいだけの話。わざわざ違う種目で戦う必要は無い。


「仲良くしてたのは、表面上だけだったのかもね」


 秀がぽそっと呟いた。


「だって考えてみれば、そう簡単に修復できるものじゃないでしょう? 長年の恨みなんて」

「え……。で、でも凛ちゃん、未来ちゃんのこと大好きだよ? いつだって未来ちー、未来ちーって言ってるもの」

「だからこそだよ。普段は仲良しを演じていて、時が来たら突き放す。そういう方法はどの時代にだってあるものさ」


 秀の話を遮るように、ボールがゴールに入る激しい音が聞こえ、俺たちは揃って顔を向けた。

 どうやら長谷川がこの試合の最初のシュートを決めたらしい。仲間とハイタッチをしていた。

 そんな彼女を見ながら秀は続ける。


「長谷川を疑おうって言ってるんじゃない。僕だってそんなの信じたくないし、そうあってほしくない。あくまで可能性の話だよ」

「だっ、だけど! 凛ちゃんは前のクラスのゴタゴタだって、未来ちゃんに伝わらないよう必死で隠してたんだよ! 可能性とはいえそんな……っ!」


 そこまで言った阿部はハッとしたように口を手で覆った。

 前のクラスの、ゴタゴタ?


「阿部。何それ、どういうことだ?」

「いや……あの、その……」


 眉じりを下げてまごつく阿部に、すぐそばにある体育館の出入口から入ってきた男が声をかけた。


「阿部。言うなって長谷川に言われてただろ」


 その声の主は、斎。

 どこから聞いていたのかはわからないが、少し前からいたのなら阿部の能力の範囲的に、彼女らの会話も聞こえていたかもしれない。


「まぁでも……よっこらせ。頼まれたのは相沢に対してだけだし、ここのメンバーには言ってもいいか」


 眠そうに目を擦りながら俺たちの前に座った斎は、星の髪ゴムを取って、乱れた前髪を掻き上げる。その様子を見た秀が心配そうに斎の顔を覗き込んだ。


「斎、寝てなくて大丈夫?」

「うん。なんか迷惑かけたみたいだな、ごめんな秀」


 どこか既視感のあるやり取りの後、斎は俺たちに順を追って説明してくれた。以前学校で死人――おキクに力を借りた未来――と戦っていた時、俺や秀の知らないところで、未来がクラスのやつらにどう言われていたのかを。


 自分たちの命が脅かされ、もしかしたら死ぬかもしれないという状況の中。


 相沢さんがいるから大丈夫。相沢さんがいれば俺たちが死ぬことはない。相沢さんがどうにかしてくれる。相沢さんが守ってくれる。


 クラスの誰もが相沢さんが相沢さんがと言ったその内容は、あまりにも非情で、狂っていると感じたと、斎も阿部も眉間にシワを寄せて言った。


「なんじゃ、それは……」


 加藤が怒りを露にする。


「おかしいじゃろ!? 全員、どうかしちょる!!」


 大声で喚き立てる加藤を斎は自分の唇に指を当てて制した。

 かくいう俺も怒鳴りたいほど怒ってはいたけど、どちらかというと……ショックだった。周りの目に気付けなかったことについて。もしそれを未来が知ってしまったら、どうなっていただろうと。


「長谷川は、相沢には絶対言うなって俺たちに口止めしてきた。それにこないだの始業式の日も、俺、心配だったから長谷川に聞いたんだ。新しいクラスは大丈夫そうかって。その時のあいつは、大丈夫っぽいって笑顔で言ってた。アタシがいるんだから問題ないって」


 ああそういえばと、あの日斎が、長谷川にバシバシ叩かれていたのを思い出す。


「あの……じゃあ長谷川さんが敵側にいるのはどうして?」

「自分の問題かそうでないかの違いもあるだろうから、確証は得られないんだけどさ」


 話に入っていいかとおろおろする保井の問いかけに、斎は自分の考えを述べる。


「長谷川は、いつだって心の底から相沢を思ってくれてると思う。だから今回も……何か、理由があるんじゃないかな。その、みんなが今聞いてた、『自分の方が上だと証明したい』以外の理由がさ」


「他の理由って何だ?」


「そこまでは俺にもわからない。ただ、心配するほど悪い状況ではないと思う。だから応援してやろう。相沢も長谷川も、両方さ」

【第八十九回 豆知識の彼女】

凛子はスタイルがいい。


未来さんの身長は百五十ないくらい。その十センチほど高い凛子さんは百六十ちょい手前ですね。一章でも美脚と書きましたが、隆一郎からもスレンダーと言われています。中三の初めにして既に完成に近い体つきかもしれません。


お読みいただきありがとうございました。


《次回 弱点》

苦手分野ってあるのです。

よろしくお願いいたします。

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