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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第二章 プレイゲーム
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第八十二話 勝利への確信

前回、死人になってしまったバスケットボールを思い泣いた世良。バスケ開幕です。

 挿絵(By みてみん)


 挿絵(By みてみん)


「じゃあ、今回の作戦の再確認をするよ」


 バスケのコートに入って円陣を組む。

 未来の横にいる世良は先程までとは一変して、強く前向きな瞳でキャプテンの七瀬(ななせ)を見つめていた。


「今回の試合形式はスリーオンスリー。三人一チームで前半十分、後半十分の合計得点を争うルール。審判が入る場合は時間を止めてくれるらしい。シュートの点数はいつも通りだよ」


「スリーポイントシュートの位置からは三点、そこ以外からのゴールは二点ということですね」


「そう。前半後半で同じ人が出るのもおーけー。ただ、広いコートをずっと走り回れるかって言われるとちょっと厳しいだろうから、そこは考えないといけないかな」


「特に今回は一年生が一緒に戦えないしね」と、七瀬はほんの少し眉を落とした。


 この学校の球技大会や体育祭は、『他学年とも交流しよう』という目的から、三学年入り交じったチーム分けになっている。

 一年一組、二年一組、三年一組がひとつのチーム、一年二組、二年二組、三年二組がチームといったように、同じクラスの人が仲間になる。

 各学年から二、三名出場して試合メンバーを作ってくださいとのことだったが、残念ながら、一年生の二人はクラスが違うためメンバーにはできなかったのだ。


「世良が同じ一組で良かったよ」


 すぐに頬へ笑顔を戻して、七瀬は続ける。


「全学年、クラスは三組まであるでしょ? 団体競技はひとつのチームから二組(ふたくみ)ずつ出場するようになってるから、この試合は六チームで競い合う。一回戦を終えたら三チームになるから、敗者復活戦って枠が設けられるらしいよ」


「けどバスケ部がその枠で勝ち上がることは許されてないんだよね?」


「そう、保井(やすい)の言う通り。だからできるだけ一番戦力が高い状態を保って、とにかく勝ち続けるしかない」


 そのために基本は経験が長い七瀬と世良が全試合に出て、そこに未来と夏帆(かほ)が前半後半に交代で入る形をとる。

 もちろん彼女たちの体力の問題もあるから、その時々でメンバーチェンジを行うらしい。


「あとの細かいルールはほとんど無くて、ボールを持ったまま移動するトラベリングだけは反則。その他は大目に見てくれるらしいから、攻め方は練習通りにいくよ。おーけー?」


「はいッ!!」


 キャプテンからの確認に、全員が大きな声で答えた。


「両チーム前へ」


 ピッとホイッスルの音で指示をする、審判とジャンプボールの投げ役を担当しているのは未来たちのクラスの担任、世紀末先生。


 凛子から聞いた話によると、どうやら未来が出る種目の審判は全て世紀末先生が担当してくれるらしい。

 同学年のみんなはさておき、違う学年――特に一年生は未来の目が青いと知らない人がいるだろうから、公平に楽しめるようにと職員会議で掛け合ってくれたのだとか。


 いつも思う。真面目な人だなぁと。

 そして未来は、心の底から感謝している。

 その真面目さと優しさは、先生が思っているよりもきっと、ずっとずっと自分を救ってくれていると。


 ――ありがとう、先生。私を必要としてくれたみんなも……本当にありがとう。いつか、恩返しができたらいいな。


 しっかりと前を向く。

 全力を尽くすと心に誓って、未来は試合開始の音を待った。


 ピーッ!


「お願いしまーす!」


 一斉に行われる礼。未来を見た相手チームの一人は若干怪訝な表情を浮かべたが、皆と同様に挨拶をしてくれた。


 第一回戦のメンバーは前半戦に七瀬と世良、未来のチーム。後半戦で未来と夏帆が入れ替わる形。

 七瀬と相手チームの一人を残して、未来たちは少し距離を置き、七瀬の真後ろと少し離れた後ろへ広がった。

 前衛的でないように見えるこの配置は、相手から得点を確実に奪うための、ローリスクハイリターンの作戦だ。


 ジャンプボール。センターサークルで向かい合った七瀬と相手チームの子の間に立った世紀末先生が、ボールを真上に投げた。

 二人は同時にジャンプをしたが、背の高い七瀬の方が圧倒的に早く、落ちてくるボールに手が届いた。

 そして、そのまま前に押し込むだろうと思わせた手の向きが、直前で大きく左へ(ひね)られる。


「えっ」


 誰も予想していない位置へ飛ばされたボールに、相手チームは驚きの声を上げた。

 そこには誰もいない。ただ一人、瞬時に七瀬の後ろから移動した未来以外は。


「いくよ」


 ボールを捕らえた未来は自分に声をかける。

 相手の意表を突いた直後。素早いドリブルと、この場にいる全員を置いてけぼりにする全力疾走で一直線に駆け抜ける。

 そのままゴール下で真上に大きく飛び上がり、手に持ったボールをガンッ! と音を鳴らして勢いよくネットへと押し込んだ。


 ゴールのリング部分が少ししなり、ボールが通り抜けていく瞬間のバシュッという響きと、その後の床を跳ねる軽い音色だけがコートに残る。


 試合開始から、わずか三秒程。

 誰も話さず動かない女子コート。まだ試合を始めていない男子コートからの無言の視線。

 誰一人として声を発さずに、ここにいる誰もが未来を見つめ、広い体育館を沈黙が支配した。


 しんとした空気の中、自分の着地する足音とともに先生が鳴らす笛の音。


 ピッ!


「うぉおおおおッ!!」

「しゃあああッ!」


 同時に聞こえたのは観戦している他のクラスの人たちからの、コートが揺れるかのような大きな歓声と味方二人の歓喜の声。


「未来ぅううっ!!」

「未来先輩さすがです!」


 笑顔で駆け寄ってくる七瀬と世良に笑ってハイタッチをして、喜びを分かち合う。

 相手チームの人たちの「やばい」という声を聞きながら、作戦が上手くいった、出し抜いてやったとテンションが上がりすぎてしまっている二人に、未来は落ち着いて端的に話した。


「たかが二点。だよ」


 そう笑顔で諭し、舞い上がった空気を引き締める。

 たかが二点。優勝するためには、それで満足するわけにはいかないのだから。

 二人の顔に真剣みが戻ってくる。こくりと頷いて気合いを入れ直した七瀬は、未来の足元に転がったバスケットボールを拾い、相手チームの一人にふわりと投げた。


「続けよう!」


 そう告げる彼女の顔は、勝利への確信に満ち溢れていた。

【第八十二回 豆知識の彼女】

今回の作戦を考えたのは七瀬。


「今までのバスケ部のイメージを変える一手がほしい」と、キャプテンは影でかなり悩んでたそうですよ。


暫くバスケの話が続きます。

ですがただのスポーツではなく、色々なところで話がちらちらと進むので、そちらも楽しんで見ていって頂けたらと思います!


《次回 感じる成果》

お久しぶりです加藤君!!

よろしくお願いいたします。

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