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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第二章 プレイゲーム
74/280

第七十話 勉強会

 挿絵(By みてみん)


「ぜんっぜんわかんない」


 そう言って机に突っ伏す未来。


「相沢勉強に関してはホントダメだよね」

「だってこんなのどこで使うんだって話じゃないのー」

「化学の世界だと割と使う事もあるよ。教えようか?」

「……お願いします」


 そう言って秀が未来の隣の席に座り直す。そこにいる男を押しのけて。


「秋月! なんでここに座るんじゃ!! せっかく相沢さんの隣に座れたのに!!」

「加藤君が近くにいると相沢が集中できない。さっきから話しかけすぎ」

「話したいから話しとるんじゃ!!」


 少し苦笑いする未来。


 今朝話していた勉強会を、始業式の後で時間があるからということで急遽する事になったのだ。そこで、何故か加藤がワシもやると聞かないので、皆で仲良くやる事になった。


 ここは学校の中等部と高等部の真ん中に位置する生徒の自主勉用の設備。一人一人が静かに勉強できる机と椅子のみがある部屋と、俺たちみたいにグループでワイワイ勉強する用の個室に分かれている。


 ちなみに中等部と高等部の真ん中と言っても、校舎同士は結構離れていて、ここの設備が防音対策をしっかりしているせいで中等部からは高等部側の声も音も聞こえない。


 こんなに交流無いのに、本当に同じ名前の学校で良いのかね。


「いいなあ未来ちゃん……秋月君に勉強教えて貰えるのー」


 そう言って頬杖をつく阿部は、じーっと羨ましそうに未来を見た。


「阿部は教える必要ないでしょ。じゅうぶん成績良いんだから」

「ちっち。秋月、そういう事じゃないんだよー」


 長谷川が人差し指を右へ左へと振って、ため息をついた。


「加奈子、こっち側来る?」

「ごめん、それはやめて。僕が緊張する」


 未来がピンと閃いた提案を、秀は間髪入れずにピシャリと拒否する。


 まじで女子ダメなんだよなぁ。


 ちなみに今座っている席は、秀が俺の横から未来の横に移ったために、斎の左に阿部、長谷川、加藤の順。斎の向かいの席は空白、次の席に俺、未来、秀という形。

 で、その空いてる秀の横に阿部が来たらという未来の考えだったのだが。


「でもさぁ秋月君、未来ちゃんだと緊張しないんだよね? それってその、す、す……」

「何度も言ってるでしょ。僕が相沢なら大丈夫なのは、何か懐かしい感じがするからだって。特別な事は何も無いよ」


 色々考え始める阿部に、秀は無い無いと手を振った。


「それも不思議なんだよな。俺ほとんど毎日秀と一緒にいるのに、俺は相沢にそんな感じしないんだよ」

「私も。そんなに人と関わってきてないし、もし知り合ってたら忘れるわけないと思うんだけど……」


 秀の言葉に、んーと唸って考える斎と未来の声を、クソうるさい大声が割って入ってくる。


「相沢さんはワシのもんじゃ!!」

「はいはい。加藤もさっさと勉強しなー」


 煩くなりそうな加藤は長谷川がすぐにシャットアウトしてくれた。


 クラスでも割と守ってくれてそうだな。


「隆、大丈夫? さっきからずっと静かだけど」


 未来が怪訝そうな顔をしながら、少し覗き込むように俺を見てきた。

 綺麗な黒髪は勉強用に後ろで緩くひとつに三つ編みされていて、それを左肩の上から前に流している。


 普段の髪型だと、ポニーテールか下ろしてるぐらいしか見ないから、かなり新鮮だ。


「大丈夫。お前こそ大丈夫か」

「うん? 大丈夫だよ」


 何が? と言うような顔をする未来を置いて、斜めの端にいる加藤を見る。そのとき丁度、加藤もこちらを向いた。


「そう言えば、今更じゃがお主初めて見る顔じゃな。ワシは加藤(すぐる)。趣味は柔道じゃ!」

「……そうだな。土屋隆一郎。こいつの幼なじみ」

「ぁたっ!」


 未来の頭を軽くコツンと叩く。


「あんまり未来に馴れ馴れしくするなよ。程度ってもんがあるからな」


 若干ピリつく空気。

 加藤の顔が少し強ばったのをなんとなく感じた。


「土屋…言うつもりないとか言いながら思いっきり牽制してんじゃねーか…」


 斎のぼそっと言う声が聞こえた。



 いい感じに空気が締まったので、各自集中して勉強に入る。

 ちなみにだけど、斎だけは学校の勉強じゃなくて、研究関連の資料を読み漁っている。授業の内容はもう問題なく頭に入ってるからわざわざ勉強しなくて大丈夫だからと言って。

 で、その斎の目の前には20冊ほどの資料本があるわけなんだが、なんていうかその…えげつないスピードでそれが読み進められていくというか。ホントに読めてるのか?って思うぐらい、ハイスピードで読んでいく。

 どれくらいかと言うと、俺が今してる数学の問題集1ページが終わるぐらいには1冊読み切ったぐらいのペースだ。訳分からん。




「そう言えば、テスト終わったら球技大会があるらしいよ」


 思い出したように長谷川が言った。


「球技大会?まだ4月だぞ。去年一昨年は5月後半ぐらいじゃなかったか?」

「私も聞いたよ〜。今年もその予定だったらしいんだけど、さっき先生達が言ってた。今年はかなり暑くなりそうで、熱中症予防なんだって」

「ああ、初夏で35℃超えるとか朝のニュース言ってたな」

「そんなに暑くなるの?」

「らしい。地球の温暖化も相当なところまできてるみたいだね」

「…死人(しびと)が増えそうじゃな」


 加藤がぼそっと言った。


「それだけ廃棄物が燃やされたり、また森林が消えたっちゅーことじゃろ?」

「…うん。そういう事だね」


 さっきまでの大きな声が嘘だったかのように、加藤は小さい声で続けた。


「ワシはただの格闘家じゃから、死人には勝てん。守ってもらう側としては、ほんに申し訳ないとしか」


「気にすることねーよ。俺らも死ぬ気なんて毛頭ねーし。夜は出歩かないようにしてくれてたらそれでいい」


 イレギュラーな事以外ならそれで事足りる。あとは、倒せるかどうかは俺たち次第だから。


「ゴミの出ない世界にならんかね…」

「まあそれは難しいよ。みんなができるだけ物を捨てないようにって考えてくれたらちょっとは変わるけど」

「実際はどうにでもなるって考えてるやつが多いからか、なんでも捨てられてるのが現状だけどな」


 皆が色々考え始めて少し沈黙する。


「そう言えば加藤君、趣味柔道ってさっき言ってたよね」

「おう!人間相手なら守ってやるぞ!」


 肩をちぢこませて小さくなった加藤に未来が話を振る。そしたら加藤が急にまた元気になった。立ち上がってエッヘンとでも言うように胸を張る。


 その姿に、未来がくすっと笑った。


「それで、球技大会の話じゃったかな?」

「ああ、そうそう。皆何にするのかなーと思ってさ」


 長谷川が俺たちを見回して言う。


「んー、球技大会ねぇ。俺は運動苦手だし、全員で何かっていうやつよりは個人でできるのがいいかなあ」

「僕も。皆で一緒にってできる気がしない」

「斎はともかく秀はクラスのやつと馴染む為に団体競技の方がいいんじゃないか?」

「えぇ…嫌だよ」


 心底嫌そうな顔をする秀。


「未来ちーは?何かしたいのある?」

「んーとね…」

「あ、長谷川待て。相沢さん種目わかってないんじゃなかろうか?」


 去年の夏転校してきたって、と付け足す加藤。

 確かに、恐らくわかってないだろうな。


「未来、うちの学校は結構色々種目があるんだよ」


 多すぎて一人何種目も出ないといけないけどな。と付け足しながら、俺はノートの最後のページを適当にちぎってペンで書き出していく。

 未来はそれをまじまじと見ていた。


「とりあえず、王道だとバレーとかバスケと…」


 書き出してみるとこうだ。


 バレー、バスケ、ドッヂボール、サッカー、ソフトボール、キックベース、ラグビー、テニス、卓球


「あと面白いもんもあるぞ!」


 そこに加藤がお手玉とバランスボールを付け足す。


「ええ?こんなのもあるの?」

「未来ちーまだあるよ」


 更に長谷川が玉入れ、ビリヤード、ボウリングを付け足す。


「あとは確か、水球か」

「えっまだ寒いのに?」

「ああ、相沢知らないよね。うちの学校のプールはね、一応冬でも使えるようになってるんだよ」

「屋外にあるけどボタン一つで屋根が作れるんだ!あとは水をお湯で張れば温水プールになるんだよ」


 秀と斎が説明する。


「あ、でも未来ちゃんプールは入れないんだっけ」


 加奈子がハッとして言う。


「あーそうなんだよね。だから水球はできないかなあ」

「なんじゃ相沢さん金槌か?ワシが教えようか!?」

「加藤キモーイ」


 全力で言う加藤を長谷川がすぐに引き離しにかかる。


「未来ちーは金槌じゃなくて、()()()()()()()()、だよね」


 ……。

 俺もだけど、特に未来が息を飲んだ。

 長谷川の優しさというか、未来への思いやりに。


「…そう、紫外線アレルギー。だから薄着になる種目はできないんだよね」


 彼女の優しさを汲んで、未来はそう続けた。以前咄嗟に言った紫外線アレルギー。長谷川…よく覚えててくれたな。


「そうじゃったんか!辛いのう。なら他の種目じゃな!バスケは得意とさっき言ってたな!」

「ていうか相沢、全体的に強そう」


 席を立ってワイワイと種目を決め始める皆を置いといて、俺は小声で長谷川に礼を言った。


「長谷川、ありがとな」

「別につっちーの為じゃないしー」


 ニヤリと笑う長谷川。

 こいつ人が感謝してるっていうのに。


「まあ、未来ちーが学校生活過ごしやすいように、アタシは影からフォローしとくからさ、安心しなよ」


「……おう。頼むな」


 そこに、コンコンとノックの音が聞こえた。まだ退出時間まではもう少しあるはずだけど。


 ドアを開けると女子二人がバスケットボールを持って立っていた。


吉田(よしだ)さん、保井(やすい)さん」


 未来もこっちに寄ってくる。


「相沢さん!」


 ガシッと、ボールを持ってない方の手で未来の手を握る。


「お願いしたい事が!!」


 何故か必死な顔で未来に頼む二人は、どうやら彼女のクラスメイトのようだった。

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― 新着の感想 ―
凛子ちゃんがとてもいい子なので、おばちゃんとっても安心しちゃう。 未来ちゃんの心に痛みに寄り添い、彼女が彼女らしくいられる場所と思いを守っていてくれる子なんだよなぁと改めて気づかされますね。 最初はど…
[良い点] 勉強会は楽しさがあって良いですね。自身も復習しないと!
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