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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第二章 プレイゲーム
73/280

第六十九話 人気者

2024/06/22から改めて投稿を始めました碧カノ。以前の連載中に一章と前話までは推敲していたのですが、今回のお話からは最初の投稿の状態となっております。初心を忘れないよう、()書きを――に揃える以外は手を加えずに再投稿することにいたしました。

以前推敲している話(球技大会編など)には前書きや【豆知識の彼女】が記載されています。

読みづらくなるかもしれませんが、今後とも碧カノにお付き合いくださると嬉しいです。

よろしくお願いいたします。

 挿絵(By みてみん)


「なあ斎、見てくれよこれ」


 始業式の始まる少し前、まだ体育館に集まる人がまばらな頃、俺はぶすったれて自分の前に座る斎に携帯を見せた。


「何それなんの動画?」

「今さっき長谷川から送られてきた。いいから見て」


 ぶっきらぼうに言う俺に、斎はなんだよと言いながら動画を再生する。


『一目惚れしましたッ! ワシと付きおーてください!!』


 そこに映る巨体が未来に頭を下げる光景に、「んン!?」と裏返った声で反応する。そこで動画もブレブレになってそれ以降は声以外ほとんどわからない。


「か、加藤あいつ相沢に告ったのか」

「しかも一目惚れとか言いやがって。あいつのことちゃんと理解してやってから()えってんだ」


 長谷川がどういうつもりでこれを送ってきたのか知らないが、とにかく俺はすこぶる機嫌が悪い。

 だけど勘のいい斎は長谷川の言いたいことは汲み取れるらしく。


「いい加減土屋も腹くくれってことじゃねーの」

「何にだよ」

「まじでわかんないのかよー」


 呆れて言う斎の顔が無性にむかついて、星のゴムで上げられて前髪が無い状態のおでこにデコピンを繰り出す。


「だあーーーーっ!」

「もういい。そろそろ始まるから前向けばーか」

「お前が見ろっつったんだろーっ!」


 おでこの真ん中を押さえて言い返す斎は渋々前を向いた。と、そのあとすぐに振り返る。


「土屋、お前今のデコピン絶対キューブ展開してるときにするんじゃねーぞ」

「痛かったのか?」

「痛かったよ! 割とマジで!!」


 チカラ強くなってきてんだから気をつけろよと再度注意して前に向き直る斎。


 確かに、力がどれぐらい強くなったかはよくわからないけど、体は成長してる。この一年弱で身長は十センチほど伸びて、声変わりした。あとは……自分で言うのもなんだけど、顔が少し大人びたように思う。


 斎も結構デカくなったっぽい。未来と並んだ時、ほとんど変わらなかった頭の位置が、今朝見た時はもう頭一個分ぐらいズレてたから。


「……変わるもんだな」


 誰に言うでもなくそう呟いて、今は何の文字も刻まれていないただの左の手のひらを見た。

 キューブを使わないでやる凪さんとの鍛錬の成果は、戦闘面以外にも成長を促してくれているようだ。


 ぼーっと考えていると、聞かなくても支障のない長い長い校長先生の話が始まった。

 俺はここぞとばかりに頭をフル回転させる。一人だけ眠くなりそうな話をしているだけで、ほかは静かな空間。こんな時を活用しないとな。


 頭の中でキューブについて考える。

 自分の能力は『炎』。

 でもそれ以降イメージが広がりにくい。

 今までにも結構考えてきたんだけど、炎から連想されるものとして、【プラズマ】ぐらいしかまだ出てきていない。


 未来は植物を司るのに水を作ったり光線だったりで他にもオールラウンダーだし、秀は秀で何でも創り出せる【氷像(ひょうぞう)】がある。


 だからまだ、俺にだってほかに何かできるはず。


 そもそも、何も攻撃に絞る必要はないんだよな。

 何か補助になるようなものもできれば良くないか?

 だとしたら――。


 体育座りのまま考え込んで下を向く俺のおでこにパチンと音が鳴った。

 顔を上げると斎の嫌そうな顔が近くにある。


「うわ、ノーダメージ。式終わったぞ」

「あ、マジで? 全然気付かなかった」

「集中力の塊かって。それより、助けに行ってやらねーと」


 そう言う斎の視線が、二組の方へと動く。二組の座っていた列の前の方に、何やら女子が丸く集まっていた。


「あーまたか」

「恒例のって感じだよな」


 俺たちはその集まりの方へと早歩きぐらいのスピードで向かう。だんだん見えてくる円形の中央にいるのは、胡座をかいてこくんこくんと頭を揺らす秀。

 眼鏡してると疲れやすいとか言って、眼鏡を取ることが時々ある。


 度が合ってないんじゃないかとも思うけど。


 で、今も外していたみたいで、手に持っているコイツは、まあ何度も言うけど美男子だから。

 何も楽しくない話が子守唄のように感じて寝てしまったイケメンを、女は放置しておく訳がないということだ。


「ごめんちょっと通してー」


 斎が近くの女子達に声をかける。


「あー、ごめん写真はやめてあげて?」


 寝顔を写真に収めようとする女子には制止させる。

 慣れてんなあ。


「秀、終わったぞー。起きろー」

「んん……パンケーキにはクリームたっぷりって……」


 おいおい夢でも見てるのか。


 周りにいる女子達は声を出さないように悶え苦しんでいた。普段はそうでも無いくせに。まあ、眼鏡だけで雰囲気違うけども。


「秀ー」


 肩をトントンと叩く斎。

 うん。起きそうに無い。疲れてんだろなあ。

 申し訳なく思いながら、俺は秀の背中側から腰を落として耳元で囁いた。


「女に囲まれてるぞ」


 刹那秀の頭がバッと上へ持ち上げられる。

 ガンッ!!


「あだっ!」

「あっ! ごめん土屋……」


 急激に目覚めた秀の頭が俺の顎にクリーンヒットしていた。かなり痛かった。視界もぐわんぐわんする。


「このいしあたま……」

「申し訳ない」

「土屋がおどかすからだろー」


 それについてはまあ反論できない。

 いつの間にか周りにいた女子たちは教室に帰り始めていた。

 秀が女が苦手なのを知っているからか、起きてる時は割と寄ってこないんだよな。


「なあ、似たような塊があそこにもあるんだけど、あれって……」


 斎が俺に言う。

 確かにもう一箇所円形になった生徒の群れが。でもそっちは男女混合って感じ。真ん中にいるのは。


「相沢か、あれ」


 恐らくそうだろう。あまりにもいっぱいに集まりすぎてしっかりは確認できないが、やたら大きな声が相沢さん相沢さんって叫んでるから。


 少し見ていると、こちらに気付いた長谷川が集まりの中から抜けて小走りで寄ってきた。


「長谷川。未来、どうかしたのか?」


「いやあ、さっき動画送ったでしょ? あの名残りよー。加藤が未来ちーに猛烈アタックしてんの。それをみんなが楽しんで見てるってわけ」


 あー疲れたー。と言いながら首を横に倒してコキコキと鳴らす。


「……長谷川。ちょっと」


 斎が長谷川に来い来いとして、少し俺と秀から離れていった。何か深刻な顔をして耳打ちしている。


「どうしたのかな」

「ん……未来のこと心配してくれてんじゃねぇかな、多分」


 ほんの少しだけ聞こえた、長谷川の大丈夫っぽい。という声。そしてそれに斎が笑って頷いていた。


「アタシがいるんだから問題ないってばー!」

「痛いって!! なんでお前らそんな馬鹿力なんだよ!!」


 肩をバシバシ叩く長谷川。

 話は終わったらしい。


「凛ちゃんーみんな教室戻るってー!」


 もうすぐ予鈴が鳴る時間。人だかりの中から未来の声が聞こえた。


「ほいほいー。じゃあ三人ともまたね」


 そう言って長谷川はひらひらと手を振り未来の元へと戻って行った。


「おい土屋」

「ん」

「さっき言ったことちゃんと考えとけよ」


 秀が何の話? と聞いてくる。


「相沢に告れーって話」

「お、遂に?」

「あー……。俺はそれを未来に言うつもりないよ」


 二人がなんで? と言わんばかりに目をぱちぱちさせる。

 まあそりゃ勿論未来の事は大好きだけど、でもそれを言う訳にはいかないんだ。


「長谷川にもあとで言っとく。だから今後俺と未来の間で恋愛的なことは言わないでくれ」


「何かあったのか?」


 斎がやってしまったかと言う顔で聞くから、俺は笑って誤魔化した。


「いや。俺は、未来の幼なじみっていう位置付けを抜けたくないだけ」


 その位置付けから更に先に進むのは、多分、未来を傷付けることになるだろうから。


 そう思いながら、体育館を出ていく未来を見つめた。そのすぐ近くにいる加藤とかいう男は、未来の後ろをついて歩いていた。

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