表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第一章 転校生
7/242

第四話 二年三組③

前回、荒れた自己紹介タイムでした。

 (いつき)に連れられ教室を出た未来(みく)は、初めて受け入れられたことに大いに戸惑っていた。

 最初の暴虐こそこれまでとは比べ物にならないほどであったものの、そもそも自分の話を誰かが最後まで聞いてくれたためしなど一度もなかったからだ。


 ましてや彼らがした行為について、促されるでもなく自ら謝りに来てもらえるなんて思いもしなかった。

 驚きと感動と、まだ振り払いきれない若干の恐怖心を抱えながら、未来は斎へ顔を向ける。


「あ、あの。さっき、ありがとうございました」


 隆一郎や家の人、マダー関連でない人と久しく喋っていない。緊張して少しどもってしまったけれど、未来は素直にお礼を言った。

 みんなに話を聞いてもらえたのは、彼がきっかけを作ってくれたおかげだと伝えるために。


「どういたしまして。あっ、俺、谷川(たにかわ)斎っていいます。やー土屋から聞いてたけど、こんな可愛い子だとは思わなかったなー! モテそう〜」


 手を掴んだまま斎は未来を保健室へと誘導する。傷口を気にしているようで、歩調は比較的ゆっくりだった。


「そういうのは、全くないです。目も、こんななんで」


 自虐的な発言をしたのち、未来はしまったと床に視線を落とした。

 実際にそういったことは生まれてこの方一度もなかったけれど、それでも目についてまで触れる必要はなかったと。

 自分で欠点だと思っているものを、他人が前向きに汲み取ってくれるはずがないのだから。


 嫌そうな顔をしているだろうか。

 面倒だと感じているだろうか。

 怖い。怖い。斎の顔を見ることができない。

 隣を歩いていた足がピタッと止まった。

 逃げ出したくなって未来は無意識に一歩後ろに下がる。

 まだ握られていた手に、ほんの少し力が入ったように思えた。


「んーそだね。青い目はなかなか珍しいよね。だから先生が来る前にちょっと知りたいんだけど」


 誰もいない廊下で斎は振り返り、未来の顔をじっと見た。

 あまり身長差はなく、目を見て話そうとするなら未来が若干上を向く必要があるくらいの位置。

 そこに浮かべられたのは、優しい微笑みだった。


「君はもしかして、相沢未来さん? 六歳のときにキューブに好まれてマダーになった、いわゆる世界初のマダーさん?」

「え……」


 斎の口から出た言葉に、未来は目を丸くした。

 なんで知っているのだろうと。

 教室でも今も、自己紹介すらできていないのに名前を知られていて――もしかしたら隆一郎が言っていたのかもしれないとは思ったが――何よりキューブを初めて使った人だなんて言いふらさないし、死人に知れたら狙われるから誰も口外しない。


「あの、なんで知ってるんですか」


 不安に駆られオドオドしながら聞くと、斎の顔からこれでもかというほど明るい笑顔がこぼれた。


「やっぱそっかー! ずっと会ってみたいなって思ってたんだよー!!」


 確認ができた斎はズボンのポケットに手を突っ込み、すぐさまサイコロの形をした小さな機械を取り出した。

 サイコロの目はスイッチになっているらしい。いくつかあるうちの一つが押され、二人の周りにテレビのような画面が数個現れる。

 未来が驚いたのは気にもせず、斎はそのうちの一つを指さした。


「これ、相沢さんね」


 鮮明に映し出された幼い自分。懐かしさを覚えるとともに、その映像の横にある別の画面が気になった。

 そちらに映っているのは当時の未来と同い年くらいの男の子で、なんだか隣にいる彼に面影が似ているように思えて。


「で、これが俺ね」


 未来の予想は的中し、この子どもは斎なのだと知った。


 ――これは……記憶? それとも記録された何か? 


 見ている映像の意味もわからず、両者ともにほとんど動きのないまま流れた数十秒。

 これは何なのかと斎に尋ねようとすると、子どもの斎が映った動画に変化が訪れた。

 思いついたように小さな斎が立ち上がり、部屋を移動して違う画面に映り込む。ほかに誰がいるでもないけれど、そこにある作業台の前でぺこりと一礼した彼は、置かれた一つの小さな箱を手に取った。


「見てて」


 小さな斎は箱の中へ迷わず長短の線やらチップやらを埋め込んで、その蓋を閉じた。するとその箱はひとりでに宙に浮き、あろうことか部屋から出て外へと飛んでいく。

 取り残された小さな斎の映像はそこで動きが止まり、わずかの間をおいて未来のいる画面に箱が現れた。

 ゆっくりと近付いてきたその存在に未来が気付くと、箱はたちまち消えてしまい、足元に草花が生えてくる。


「これは……」

「んー、ちょっとこれだとわかりづらいかな? こっちにしようか」


 よくわかってなさそうだと斎はサイコロのボタンをもう一度押した。

 すると今度は目の前が急に明るくなって、眩しいと思った瞬間、未来はガクンと膝から崩れ落ちた。


「相沢さん!?」


 とっさに斎が未来の体を支え、頭を床で打つことはかろうじて避けられた。はっとした未来は意識が飛んで倒れかけたのだとすぐに状況を理解し、立ち上がろうとする。

 しかし思いのほか体に力が入らず、支えてもらい、よろめきながらなんとか立ったといったところだろうか。


「ごめんね、出血してるときにできることじゃなかった。また今度にしよう」


  何をしようとしたのか未来にはわからなかったが、ひどく焦った様子を見せる斎に、怖いという感情は芽生えなかった。

 支えられながら改めて保健室へ向かう。


「とりあえずね。俺は理由があって相沢さんが世界で初めてマダーになったって知ってるだけで、情報が漏れたりしてるわけじゃないから安心して」


 未来が情報漏洩を心配しているのをわかっていたのか、斎は明るくフォローを入れた。しかし、可愛らしく笑う顔はすぐに真剣な表情に変わり、「それよりね」と、高いと思っていた声が少し低くなる。

 二人の間に緊張が走った。


「俺たちのクラスには、相沢さんや土屋以外にも何人かマダーがいる。その中に恐らく……いや、ほぼ百パーセント君を気に入らない人がいる。何かしてくるかもしれないから気をつけて」


 心配そうに話す斎に、未来は目の近くに手をやった。


「それは、私の……」

「あ、ううん。理由は目じゃなくて……順番、かな」


 そこまで言った斎は、それ以上口に出すのを怖がっているように見えた。

 何か理由があるのかもしれないと未来は悟り、お互い無言のまま保健室の前に着く。


 結局その内容がしっかりと語られることはなかった。


 だから未来は斎の懸念をあまり重く受け取らず、話したいタイミングで話せるよう何も言わないでいた。

 自分にも話したくないことがあるように、彼にもそんな思いがあるのだろう。

 そう察する部分があったために、話された断片はきっちりと心の中にとどめておいた。

 やっぱり聞いておけば良かったなんて後悔をしないように。忘れないように。

【第四回 豆知識の彼女】

マダーの人たちは、未来が人間であり、目が青いことを認識している。


お読みいただきありがとうございました。


《次回 二年三組④》

新キャラ登場。キャピキャピちゃんです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ