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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第一章 転校生
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第五十一話 俺の答えは⑥

前回、凛子がヘビに喰われ、その場にはシュシュだけが残りました。

 挿絵(By みてみん)


『長谷川さん……』


 屋上にいる秀は彼女の名を呼んだ。


『ふ、ふふっ』


 返ってくる声はないのに、それでも彼女がいたその場所に目を落としたままの俺たちを、死人は嗤った。


『キャーッハハハァアアアッ!! シンダ! ヒトリ、ヒトリシンダ!! アハハハああああ!!』


 頬を両手で覆い、上空を見上げ快楽を全身で表現する。

 味方は誰一人として言葉を発しなかった。

 目の前でその様子を見せつけられている秀も、長谷川が喰われた瞬間を目の当たりにして短く細かい息をする斎と阿部も。

 激昂する俺だけが、憎悪の声を上げた。


「お前……あいつを今まで狙わなかったのはッ!」

『ふふっ、フェイクダヨ? フェ・イ・ク。ふふふふ』


 青い目をぐわっと見開き口角を極限まで上げた顔が、奴の笑声(しょうせい)から容易に想像できた。


『おにーさんを狙い続けていればあ、きーっと油断シテクレルト思ってぇ。自分ハ大丈夫、自分ダケハきっと無事でいられる! コレ、ニンゲン様のオモシロイ考え方デスヨネェ、んふふっ』


「てめぇ……!」


『ヤダナァ怒らないでくださいよォ。だってぇ、さっきの結構痛カッタンデスヨ? ワタシ。すこーしクライ悪口言ッテモいいと思いません? くひひっ』


 天を仰いでいた顔は首がもげそうなほど急に下へ向けられ、青い瞳がキラキラと輝いた。


『サア続ケヨウヨ、オニイチャンタチ。ワタシヲ殺シテゴラン? 全員返リ討チニシテアゲル!!』


 やってみろと言わんばかりに手を広げて煽ってくる死人を俺は睨みつけ、歯を食いしばる。


 ――挑発に乗るな、言葉通りにするのは相手の思うツボだ! 


 今すぐ()ちのめしたい感情も煮えたぎるドス黒いものも必死で抑え込んだ俺は、長谷川のシュシュを拾いすぐに斎たち三人に駆け寄った。


「土屋君、待って!」


 何をしたいのか阿部はわかっているらしい。だけど俺はそのストップを無視して阿部と斎、怪我で意識を失ったバカなクラスメートを乱暴に担いだ。


「【花火(はなび)】」


 足の裏に火を起こす。

 六時間の道のりを五分で帰って来られる移動手段を使い、俺たちは瞬時にその場を去った。

『保身ニハイッタカ』とつまらなさそうな死人の声を秀の通信機越しに聞きながら、校舎から少し離れた所にある体育館前に着地する。


 長谷川が頑張ってくれたおかげで教員、生徒の全員が集まっているここは、校内では最も安全だとされている場所だ。

 超強化マテリアルというその辺の建物なんかよりもさらに頑丈なマテリアルが建材に使われていて、死人の襲撃で崩壊寸前なほかの校舎に対し、体育館は傷一つ付いていなかった。


「ここから出るな。いいな」


 抱えた三人をまた乱暴に館内へ放り投げ、すぐに戦場に戻ろうとすると、阿部が俺の手を力いっぱい引いて止めてきた。


「待ってってば土屋君! 私もここに置いていくつもり? 私が近くにいなかったらサポートの効果が不安定になるよ!?」


「ああ、わかってる」


「わかってないよ! 土屋君、【防御(プロテクション)】がある状態でも大きな怪我したんだよ!? なのにっ、効果が消えちゃった状態で致命傷を負ったら、もし【痛み無し(ノーペイン)】が間に合わなかったら! ……死ぬよ。土屋君も死んじゃうよ!!」


 半ば怒りだけで倒そうとしている俺を、阿部は強い声で諭した。

 静かだった館内がザワザワし始める。

 世紀末先生含め、なんとか落ち着かせようと先生たちは頑張ってくれるが、怖いのは大人も同じなんだろう。言葉に詰まっているように見えた。


「それもわかってるよ。でもあの場にいて阿部がやられたら、不安定どころか全部消えちまう」


「それは……!」


「それに、秀をあっちに置いてきちゃったからさ。戻らないわけにはいかないだろ?」


 阿部は目を大きく開いた。

 繰り返される攻防を想像したのか、震え始める彼女の軟らかい手から自分の手をゆっくりと抜いて、代わりに長谷川のシュシュを握らせる。


「大丈夫。力が保てなくなる前に絶対倒す」


 涙を浮かべる阿部に、もう一度大丈夫だと言っておでこを指で突っついてやる。

 気の利いた言葉なんて俺は持ち合わせていない。

 慰めるのは苦手で、信憑性のない大丈夫しか言えない俺を、しばらく黙って聞いていた斎が見上げてきた。

 怪我をしたバカ男子を寝かせ、傷口に塗ろうとしたらしい薬のついた手が、自信ありげにおっけーマークを作る。


「要約するとさ。阿部がここにいても土屋と秀がパワーアップした状態でいられたらいいんだろ? だいじょーぶ。天才発明家、斎君におまかせくださいな」


 ズボンのポケットから例のサイコロ型の機械と何か赤い物体を二つ取り出した斎は、少しだけ待つよう俺に言ってその場で作業を開始した。


「ひっ!」


 誰かの悲鳴。

 こっちに死人が来たのだろうかと体育館の下窓から外を覗くと、ヘビの大群がぞろぞろと這いずりまわっているのが見えた。


「監視か足止めか……。いずれにせよ、やるしかねぇな」


 先生たちに絶対誰も外に出ないよう見張りを頼み、励ますだけならできるかもしれないと思って阿部に再度顔を向けた俺は、ニッと明るく笑った。


「少しとはいえ攻撃も当たるようになってきてんだ、勝機はある。だから頑張ろうぜ」


「未来もどっかで頑張ってんだしさ」と付け加えると、なぜか生徒の数人が反応を見せた。けれど、それを気にする暇もない。俺は急いで体育館を出た。


「【回禄(かいろく)】」


 マテリアル製ではない窓にだけ防壁を張り、俺に気付いて襲いかかってくるヘビたちに向けて、炎を纏う弓矢を作り出す。

 【爆破(ボム)】で纏めて焼き払ってもいいけど、あまり派手にやってこれ以上みんなの不安を煽りたくはない。

 こういうときに頼りになるのは、同じ技を沢山作り出す際に想像しやすくするための付属の言葉。


「【弓火(ゆみのひ)(れん)】」


 炎を纏う矢を大量生産し、狙いを定め一気に放つ。

 一発も外さずヘビの頭を貫いて燃やし、確実に仕留めながら斎の『少し』が終わるのを待った。

【第五十一回 豆知識の彼女】

現在作られている付属の言葉は、オール、連の二種類のみ。


お読みいただきありがとうございました。


《次回 俺の答えは⑦》

序盤未来視点の光景が少し入ります。

よろしくお願いいたします。

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