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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第一章 転校生
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第四十四話 物思いによる

前回、未来さんの人の命に対する話を聞きました。

 挿絵(By みてみん)


『それで、今日はどうしてこんなに荒れてるんだい土屋君は』


 前回の当番から少し経ったこの日、昼間と違って夜は聞きなれない声を耳に付けた通信機から聞いた。


「珍しいな、お前がそんな喋り方するの」


『誰かさんの様子がおかしいから合わせてみたにすぎないよ。どうしたっていうのさ、こんなに煙まみれにして。僕ら一緒に仕事するの初めてだってわかってる? 合わせにくいったらありゃしないよ』


 機械越しの秀に文句を言われ、そんなに酷いのかと死人を横目に周りを見渡した俺は、ああと納得した。

 普段なら炎を出すだけにとどめているのに対し、今は俺でもびっくりするほど煙が出ていた。

 配分間違いと言ったらそれまでだけど、こんなに煙だらけでは初心者の秀どころかある程度の経験者でも立ち回りが難しいかもしれない。


「わるい。考え事してた」


 一度場に出ている全ての炎を片付ける。すると煙も徐々に薄れていき、ゴミ箱からわらわらと逃げ回る死人たちの姿が鮮明に見えてきた。五体、いや、六体か。

 視界良好になったところで秀は髪を束ね直したのか、何かが擦れる音と一緒にため息を送話口へ漏らした。


『今日は特にやばい敵じゃないからいいけど、あんまりこんなふうになるなら少し考えないといけないからね。【氷河(リンク)】』


 座っていたゴミ箱の上から軽く跳び、死人が群がる辺りへ秀の氷の道がスケートリンクのように広げられる。

 強いとは言えない死人どもは『ぴー』とか『きー』とか奇怪な声を出してつるんっと足を滑らせた。


 氷の粒を纏った体が空中でくるんと宙返り。

 真下にいる死人目がけ、秀は先の鋭い棒状の形をした【氷柱(つらら)】を投げ落とす。

 心臓を捉えられた死人は粉々になって弾け飛び、ガラス玉へと変貌を遂げる。

 氷の地面に着地した秀は流れのまま体を滑らせ残りの死人にとどめを刺した。

 お見事。すんげぇいい動きだった。


「土屋さ、何かあった?」


 立ち尽くす俺に秀は首を傾げた。

 邪魔にならないよう眼鏡は氷で作ったコンタクトに変えられていて、普段は隠れている切れ長の目が俺を訝しんでくる。

 何か、か。考え出したらキリがないけど、多分大きな原因は二つだよなあ。


 片方は、先日の本部から届いた当番メンバー変更の知らせ。それによりチームメイトとして秀が加わった点。

 別に秀が嫌だとかそういう意味じゃない。むしろ全く知らない人とペアになる場合も多いのに、友だちとだなんてと喜んだぐらいだ。


 だけど俺にペアができた反面、未来はメンバーなし。単独になってしまっていた。

 どんな強敵が相手でも不利な状況になっても、自分一人。助けてくれる仲間はいない。

 未来が東京に来る前までは単独だった俺も、ぶっちゃけつらかった。戦闘についても精神的にも、あいつが共闘してくれるようになってどれだけ救われたか。

 だからどうしても不安が募る。


 それを本部もわかっているからこそ、何かあれば救援を出せるよう個人の情報、つまり名前や身長なんかの基本データと、怪我や病気、生死などはキューブを介して本部や他のマダーに筒抜けになるようにしている。

 だけど確実に助けが入る保証はないから俺はあまり頼りにしていなかった。


 恐らくそんな心配が拭えないのが一つ。あともう一つは……俺の問題だ。

 秀が(ほふ)った残骸のガラス玉を回収して小袋に入れる。


「ごめん、いつもはあんなに煙たくなったりしない。ミスっただけだ」

「何かあったのかって聞いてるんだけど」


 無視か、このやろう。

 いやこの場合無視してるのは俺のほうか?


「そっちの玉も拾ってくれ。今度纏めて本部に送るから」


「はいはい。これも何かの研究に使われてるんだよね? 僕ら関わりあるのキューブ方面のみだからよく知らないけどさ」


「多分な。本部の人以外はみんな知らないと思う。機密情報だって未来が前に言ってた」


 その本人はこれを使って戦うから少し聞いてるらしいけど。


「それで? 何をしょぼくれてるのさ。仕事に支障が出るなんてよっぽどでしょう」


「しょぼ……いや。ごめん、ほんとに」


「そうじゃなくて、どうしたのかって聞いてるんだよ。何かあったなら聞くから」


「いや、迷惑かけてごめん」


 反省した俺は素直に謝った。考え事にふけって周りが見えていなかったと。

 なのに正面にいる男は目をキッと吊り上げて睨み、ツンとした態度で俺の横を通り立ち去っていく。

 どうやら怒らせてしまったらしい。


「なんで怒ってんだよ……」


 小さくなる後ろ姿を見つめていると、明るくなってきた空が視界に介入してきた。

 もうすぐ夜明け。二人での初仕事は最悪な終わり方を迎えてしまった。


     ◇


「起きてー、隆。遅刻するよー。おーい」


 うつ伏せになった俺の体が揺れる。

 当番からの帰宅後、学校までの時間はいつも爆睡タイム。ぎりぎりまで寝て学校に向かうのが流儀なんだけど。


「ごめん未来……今日は先に行っといて。もう少し寝てから行くから」


 今回はどうにも動く気になれず、せっかく起こしに来てくれた未来の誘いを断った。


「それはいいけど。でもこのままだと遅刻するよ?」


 ほらと置いてあった目覚まし時計を未来が見せてくる。確かにこのままだとマズい。マジで遅刻ギリギリだ。

 だけどそれは承知の上。最初から遅刻するつもりでいる俺は再び顔を枕に(うず)めた。


「おーい」


 近付いてきた呆れまじりの呼びかけと一緒に、いい匂いのするふわふわした何かが頬を撫でる。しゃらっと微かな音が聞こえるあたり、未来の髪の毛だろう。

 本人は気付いていないみたいだけど、その艶やかな髪に優しく撫でられるのは、なんともこそばゆい。


「昨日の敵、強かったの?」

「いやそんなに。でも、秀と喧嘩した」

「えっ、どうしたの」

「わかんね。わるいと思って謝ったら、逆に怒らせちまった」


 俺がわるかったのは理解してる。でもどう返せば良かったんだろう。

 そのままただの考え事だからって言えばこうはならなかったんだろうか?


「でも会って話さないとずっとその状態になっちゃうよ? ほら、今ならまだ間に合うから。とりあえず遅刻する前に学校行こう?」


「先に行ってってば……」


「いいから! いーくーの!!」


 だるさの残る俺の体を強引に引っ張り、部屋から出して玄関まで引きずられる。

 その小柄な体のどこにこんな力があるんだ。

 テキパキと制服と鞄を用意して持ってこられ、仕方なく着替えた俺は靴を履いて、眩しい空に目を細めながら学校へと向かった。


 二十分ほどの通学路を経て、予鈴が鳴ったあとに教室に着いた俺たちは早々に自分の席に着く。

 もちろん先に来ていた秀に「はよ」と声をかけたが、返ってくる言葉はなかった。やっぱりまだ怒ってるよなあ。


 もう一度きちんと謝ろうと家を出てから考えていた俺は、そのあとチャイムが鳴るたび秀に呼びかけた。だけど、お相手様はそうもいかず。


「秀、あの」


 ガタッ、スタスタピシャンッ! 

 なんて効果音が聞こえてきそう、いや、そんな音を鳴らして席を立ちドアを閉められたり。


「あのさ、しゅ――」

「先生ちょっと質問が」


 完全にわざとだとわかるほど俺を避けたり。


「しゅ」

「土屋、今日日直だろう。ちょっと来てくれ」


 タイミング悪く世紀末先生に呼び出されたり。


「なあ、お前ら何やってんだよ?」


 一向に話せぬまま昼になって、斎が呆れ顔で説明を求めてきたぐらいだ。


「アタシもずっと気になってたんだけどさ、どうしたのあんたたち。珍しく喧嘩?」

「そんなんじゃない。でも僕、今日はほかの人と食べるから」

「なっ!?」


 長谷川にはいつもどおり答える秀は、俺の驚きを無視してパンを持ち足早に教室を出ようとする。


「ど、どうしたの? 秋月君」

「どうもしない。なんでもないから阿部さんはみんなとご飯食べて」


 おろおろする阿部への対応もいつもと変わらない。

 原因は自分だとわかってる。けどさすがに延々と無視を続けられては俺だってイライラが溜まる。ついに後ろから秀の肩を掴んだ。


「ちょっと、待てって秀! 俺、朝から声かけてんだろ。話ぐらい聞けよ!」

「なに? 僕が聞いても何も言わなかったくせに何を今さら聞くの?」


 振り向きざまされた反論に目が泳ぐ。


「それはっ、そうだけど。でも今は言おうとしてんだろ!?」


「どうしてさ。僕が怒ってるから? 怒ってると思うから言いたくないけど言わなきゃってなってるんじゃないの? 僕の顔色を窺ってるんでしょう?」


 少し落ち着けと斎が間に入ってくるが、口論は収まらない。


「昨日は、ただ言いたくなかっただけで! だいたい今日はお前がそんな態度だから言おうにも言えなかったんだろ!?」


 クラスがざわついてくる。周りの視線が刺さる。それでもどちらも止まらない。


「言いたくなかった? 僕の態度? 言い訳ばっかだね。そうやってこれからも誤魔化していくんだ? だったらもうこんな関係いらないよね」


「秀、なあ落ち着けって! 土屋も一旦黙れ!」


「離して斎! もういい、こうやって揉めるなら友だちなんてやめてやる。チームも解消だ、いいね」


 押さえようとする斎の手を強引に振り払って出ていく秀に、俺は「勝手にしろ!」と叫んでいた。

 目を大きく見開き何か言いたげにしている未来には気付かないふりをして、秀の背中を追いもせず、俺は一人席に着いて突っ伏した。

【第四十四回 豆知識の彼女】

隆一郎は口喧嘩で秀に勝てない。


ケンカ勃発です。

秀は出ていってしまい隆はふてくされました。

仲直りをせねばなりません。


お読みいただきありがとうございました。


《次回 選択》

誰かからのお叱りが降ってきます。

よろしくお願いいたします。

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