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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第一章 転校生
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第二十四話 お見送り

前回、凪と一緒に家まで戻ると、玄関前にもこもこの何かが突っ立っていました。

 挿絵(By みてみん)


 なんだあの、もこもこしたちっこいのは。

 我が家の玄関は電気をつけていないから、こんな夜遅くだとどれだけ目を凝らしてもシルエットしかわからない。

 ただ、何かふわふわもこもことした生き物がキョロキョロと辺りを見回していた。

 すると俺たちが視界に入ったのか、その小さなふわもこは真っ直ぐこちらへと駆けてくる。


 謎の生き物の接近に一瞬身構えたが、距離が縮まって顔が見えるようになると、警戒なんてどこへやら。むしろ口元が緩みそうになった。


「凪さん!」


 未来だった。

 ふわもこになっている原因は、寝癖だらけの髪と着ているパジャマを隠すかのように毛布にくるまっていたからだった。

 起きてすぐ捜しに来たのだと想像できるその姿は、いつもと比べて幼く見える。


「おはよう、みーちゃん。体は大丈夫?」


 動きが完全にフリーズしてた凪さんは多分俺が気付くよりも先に誰なのかわかっていたんだろう。未来に向けられた表情と声がすごく優しかった。


「うん、ありがとう。もしかして何かしてくれた? すごく体が軽いよ」

「みーちゃんのお友達が薬を届けに来てくれてね。それを寝てる間に使ったよ」

「え? それさっき俺に……」


 全部使ってなかったっけ。

 そう言おうとすると凪さんは未来の背中側に移動して、すっと人差し指を自分の唇に当てた。その続きは口に出すなと言いたいのだろう。

 要するに凪さんは薬を使わずに未来の体を癒したのか。ご飯の前にキューブは使ってたけど、あのときにでも何かしたんだろうか? 


「良かった、帰る前に起きられて。いつも急にいなくなっちゃうんだもん」

「あはは、ごめんね。何かと忙しくて。でも今日は起きるまで帰らないつもりだったから、安心して?」


 答えを教えてくれない凪さんは、未来のボサボサになってしまっている髪を持ち前の長い指で()き始めた。

 まるで最初からそのつもりだったのではないかと思うほど、急に後ろに立った不自然さは見事にフォローされていた。


「そうだ(りゅう)。隆が全然帰ってこないからって由香(ゆか)さんおにぎり作ってくれてたよ」

「あ、母さんが? さすが、助かる」


 少し時間が押しているのもあって、凪さんに一声かけてから家に上がり、急いでキッチンへと向かう。

 必要な物がきっちりと把握されていて、おにぎりとお茶、戦闘服とさらにおやつまで母さんは用意してくれていた。


「母さんありがと」


 リビングでテレビを見ている背中に礼を言ってから戦闘服に着替え、二人の寝室へ行き、ドアを開ける。

 お疲れの父さんは既に寝てしまっていた。だけど、サイドテーブルに苦手なはずのコーヒーが残っているのを見て、眠気に抗おうとしていたのはよくわかった。


「いってきます」


 冷房がついている部屋の中、力尽きたような格好で突っ伏した体にタオルケットを掛けて一言添える。

 寝室をあとにしてリビングに再度顔を出し、もうそろそろ出るよと伝えると「はいよー」と間の抜けた声が返ってきた。母さんは見ていたテレビを消して腰を上げ、バッと勢いよく腕を広げてくる。


「気をつけてね。今日も無事に帰っておいで」


 そしていつもと同じように、ぎゅっと抱きしめてくれる。


「うん。母さんはゆっくり休んでてな」

「あいあいさっ!」


 了解したとバシッと背中を叩かれた。


「いでぇ!!」

「あっはっはっは!」


 豪快に笑いながら玄関までついてきた母さんの後ろを、いつの間にか服を着替えていた未来がパタパタと小走りで追いかけてきた。


「隆、私も行くよ」


 そういえば未来の分のチョコも机に用意されていたなと思い出しながら、見た目はすこぶる元気な姿についわかったと返事をしてしまいそうになる。

 いかん、確認は必須事項。いくら凪さんが癒してくれたとはいえ、今から行くのは戦場なのだから。


「でもお前、ケガ治ったばっかだろ?」

「大丈夫だよ。もう元気」

「本当に?」

「大丈夫。本当に!」


 にっと口角を上げた未来は、せっかく凪さんが丁寧に梳いてくれた髪を無造作に後ろで結った。

 夜出る際に絶対してるポニーテール。これまたよく似合うんだよなあ。

 今度こそわかったと返事をして外に出ると、凪さんも見送りをしてくれるらしく、見ていた携帯をポケットに入れて俺と未来の前に立った。


「みーちゃん。無理はしないこと」

「はいっ!」

「りゅーちゃん。頼むね」

「はい」


 凪さんからの念押しに元気よく返事をする未来と、少し緊張が走る自分の声。


「いってらっしゃい」

「いってらっしゃーい!」


 見送りの声を聞きながら、慣れ親しんだ自分のキューブをぐっと握りしめた。


「いってきます」

「いってきますー」


 しっかりと言って、歩みを進めた。


「嬉しいね、二人もいってらっしゃいしてくれるの」


 結われた髪が楽しそうに揺れる。


「そうだな。こりゃ頑張らないとな」


 俺の言葉に気合いを入れ直した未来と一緒に、一つ目の角を曲がるまでは明るく二人に見送ってもらって、少し急ぎ足でゴミ箱へと向かった。

【第二十四回 豆知識の彼女】

未来は隆一郎の母を由香さんと呼んでいる。


お読みいただきありがとうございました。


《次回 先導者の誓い》

見送りをした凪はとある方へ電話をします。

よろしくお願いいたします。

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