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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第一章 転校生
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第二十話 先導者の垂教

前回、未来のお見舞いにきた凛子と不法侵入した凪さんによるからかいのネタにされた隆一郎でした。

 挿絵(By みてみん)


「だあああもー! 二人とも帰れよ! 未来寝てんだったらいても意味ないだろ!」

「はいはい」


 散々からかわれたのち、俺は全身で帰れアピールをした。これ以上は俺のメンタルがやられます。

 長谷川は笑いながら「また明日ね」と玄関のドアを開けた。


「ごめんね。僕はもう少しいるよ。勝手だけど」

「そんなのいつものことでしょう」


 俺の素っ気なさが面白かったのか、それともさっきまでの雑談の名残か、楽しそうな凪さん。

 この人はいつも夜が更けるまで帰らない。晩ご飯食べて風呂入って、遊んで帰るような人だ。

 でも今日はただの長居じゃなくて、何か理由がありそうだなと長谷川を見送りつつ思っていた。


 リビングに戻ってから、もう少し学校に行きたいなあという申し訳ないが俺にはどうにも解決できない凪さんの愚痴を聞いていると、また玄関が開く音がした。


「あらっ、凪ちゃん! 来てるなら来てるって連絡くれたら豪華なご飯にしたのにー!」


 凪さんを見るなりテンションが上がる声の主。

 母さん、俺じゃ豪華にしてくれないんすか。


「いえいえ、むしろいつもご馳走になっちゃってすみません」


 女を虜にする天使の微笑みで我が母までも取り込もうとするのは、天然……だよな?


「……はあ」


 諸々諦めてはため息を吐き、俺は地下にある広場に向かう。


「鍛錬?」


 その後ろを凪さんは軽やかな足取りでついてきた。


「はい。最近はご飯の前にしてるんです」

「そっか。付き合うよ」


 珍しいな。凪さんが自分から付き合うなんて、滅多に言わないのに。

 不審に思いながらも階段を下り切って鍛錬場に入り、準備運動をしようとしたときだった。


「うぉっ!?」


 突如殴りかかられた。間一髪で腰をひねらせて避けるがすぐさま蹴りが飛んでくる。

 腕でガードするも力が強すぎて後方に吹き飛ばされ、二回ゴロンゴロンと逆でんぐり返りした。


「ダメだよ()()()。敵は待っちゃくれないんだから、すぐに戦いに入らなきゃ」

「や、え」


 何か反論しようと顔を上げた刹那、目の前に足が。低い位置にある頭をさらに下げてギリギリ避ける。

 二発目、多分来る。早く起き上がって――。

 考えてる間に今度は拳のほうが顎にクリーンヒット。ぐわんぐわんと脳が揺れた。


「考えるんじゃない。体で感じなさい。相手がどうしてくるか、どうしたら勝てるか」


 なんだ? 凪さん、何か、マジ?

 なんで? いや、この際理由は考えるな。

 マジだとしたらやばい、俺も本気でやらないと。

 ――冗談抜きで、死ぬ。


「けほっ! ……キューブは?」


 口から流れる血を拭い、ふらつきながら聞いた。


「ご自由に」


 キューブは使っていい。

 なら遠慮なく使わせてもらう!


「【火の粉(スパークス)】!」


 まずは間合いをとる。それから、


「【弓火(ゆみのひ)】!」


 炎を纏う矢を大量に放つ。


「【炎神(えんじん)】!!」


 炎の龍を上から墜とす!

 真っ赤に燃え上がる炎に向かって、さらにさらに撃ち続ける。

 わかっているからだ。こんなモノあの人には通用しないってことが。


「【火柱(ひばしら)】!!」


 床から天井まで円柱状の火が立ち上る。

 前方は赤一色。そこに一瞬だけ、明るい茶色と白が映る。多分、凪さんの髪と制服。

 自分の体から悲鳴が上がった。

 白がもう一瞬だけ見えて、今度は視界が全部真っ白になった。

 何が起きた? 多分、殴られた。

 多分、ただそれだけだ。


「ふざけてるの?」


 ふざけて、ない。でも、たった二発。

 たったの二発で、俺は立ち上がるのが困難になっていた。

 天井が映る視界の中で、凪さんの怖い顔が俺を見下ろしていた。


「立ちなさい隆一郎。骨が折れようが内臓が破れようが立て。隙を一寸でも見せるな」


 拳が振り下ろされる。

 避けなきゃ。避ける避ける避ける避ける避ける避ける避ける避ける避ける避ける避ける避ける避ける!


 避けなきゃ……!!


 耳慣れない音がすぐそばで聞こえた。

 甲高い、でも心臓に響く、パリンとかキーンとかじゃないもっと重たい音。

 荒い自分の息づかいが聞こえる。

 怪我の痛みもあるけど、それ以上に、あと数ミリずれていたら多分死んでたから。わざと、拳が横に逸れていたから。

 耳慣れない音の正体は、地下を作っている素材。爆破しても壊れないとかいうマテリアルが壊れた音だった。


「なぎ、さん」


 声が出にくい。

 たった数分。二分とか、三分とか。たったそれだけ。

 力の差を思い知らされた。


「隆一郎。そのまま聞きなさい」

「……はい」

「僕は今、キューブを一切使わなかった。技は出してないし、力の強化もしていない。わかるね」

「はい」


 お互い動かず、淡々と凪さんは続ける。

 怒ってはいない。

 自分が強いだろうとか言うつもりもない。

 ただ今の戦いのやり方が、どうだったかの結果報告。どうしてキューブを使っても傷一つすら付けられないのかという話。


「隆一郎が今反省すべきは、僕に殺意を向けなかったことだ。お前は死人と()り合う際、いつもあれぐらいの覚悟でやってるの?」


「……いいえ」


「そうだね。どんなときも、戦いになるならきちんと殺しにかかりなさい。どんなときも、誰が相手でもだ」


「なっ……でも、それはっ!」


「そうじゃないと。これから先、勝っていけなくなる。守りたいものも、守れなくなる」


 ゆっくりと凪さんの体が離れていく。

 自分も起き上がろうとするが、凪さんが言ってたように肋が折れてしまってるし、多分その奥の内臓がズタボロなんだと思う。起き上がるどころか意識が遠のいた。


「隆一郎は何か力を隠してるように見える。それが使えるかどうかはさておき、もっと色んな技を磨きなさい」


「いっ、だあああああ!!」


 失いかけた意識が突然戻ってきた。どうやら長谷川が持ってきた液状の薬を怪我にかけられたらしい。


「あはははっ、りゅーちゃん泣いてるじゃんあはは!」

「笑いごとじゃ、ないっ!!」


 くそいてぇ。笑うなくそ……。

 その代わりにすごい勢いで体が修復されていきやがる。急に元気になってきた。


「隆一郎」

「は、はい」


 やべ、また説教か。


「ごめん。やり過ぎた」

「あ……いえ、はい」

「生半可なやり方じゃ、伝えられないからと思って。ごめん、本当に」


 あの余裕しかない凪さんに、犬が叱られてしゅんとしてるみたいな、なんとも言えない可愛さが見える。いや、でも。


「本気で死ぬかと思いました」

「殺そうと思えば殺せるよ?」

「怖いから! 怖いから言わないでください!!」


 ボロボロになった広場に二人分の笑い声が響く。

 笑いながら、思った。このままじゃダメだと。凪さんの言う通り、このままだといつかまたきっと。

 ――ズキン。

 現実を突きつけられた俺の弱さを嘲笑うかのように、頭の鈍い痛みは今朝よりもずっと増していた。

【第二十回 豆知識の彼女】

凪の拳は、爆発以上の力を持つ。


マダーとしての凪さんは、普段のマイペースさとは一変して容赦なし。隆は二発でノックアウトでした。

とはいえ隆一郎は一人でも夜のシフトに入れるほどの実力の持ち主。凪が言うように、完全に全力で戦った訳ではなかったにしろ、隆一郎が弱いのではなく凪が反則級に強いのです。


お読みいただきありがとうございました。


《次回 寡黙の青年》

あまりにも驚愕の事実に、焦る隆一郎は。

よろしくお願いいたします。

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