表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第一章 転校生
21/281

第十八話 無傷の先導者

前回、新キャラ登場。この国の人口についてと将来の予測に触れました。未来は遺族からの暴力により、念のため学校を休んでいます。

 挿絵(By みてみん)

 主に(なぎ)さん目当てらしい女子からの質問が長引いて、結局まる一時間分使った授業ののち。


「やっほー、りゅーちゃん」


 教壇に立ってしっかりと話していた姿とは違い、爽やかイケメンこと弥重(みかさ)凪さんは、俺を小さい子どもみたいな愛称で呼んできた。


「その呼び方やめてくださいよ凪さん……」


 この人は、未来が小学生の頃にお世話になった二つ年上のちょっとマイペースな、でも凄く頼りになるお兄さん。色素が薄めというか、色白な肌に明るい茶髪、いや、染めてもいないのにほとんど金髪に近いさらさらの髪がよく似合う、いつ見ても笑顔な美青年。


 付き合い自体は結構長いけど、どんな人物かって聞かれたら俺はこれ以上答えられる自信がない。

 何せ掴みどころがない人だからなあ。


「みーちゃんがいないみたいだね? 会えるの楽しみにしてたんだけどなー」


 キョロキョロと教室を見渡して未来を探す凪さんは、なんでか昔からあだ名を付けるのが好きだ。二文字しかない未来でも、こうやってちゃん付けで呼んでくるくらいには。


「未来は、その……」

「うん、知ってるよ。こっちにも報告来てたからね」


 なら聞くな。言いにくいっつの。


「あの子、無理するタイプだから。わかってると思うけど、すぐ近くにいるんだからりゅーちゃんがしっかり見ててあげて。大丈夫って言うときが一番大丈夫じゃないからね」


「はい。ちゃんとわかってます」


 自分のことなんていつも二の次で、自身の限界を知らないせいか鍛錬もよくやり過ぎるから、もうその辺にしとけと止めに入るのもしばしば。

 だけど凪さんが言う無理をするってのは身体的な話じゃなくて、自分の気持ちに蓋をしやすいという懸念だ。

 多分、癖なのだとは思うけど。


「ねぇ。学校、来たがってた?」


 それを凪さんもわかっているからだろう。新しい学校は大丈夫だろうかとクラスを見てから小声で聞いてくる。


「とても。キューブを展開したまま遺族のところに行ったから、ダメージは少ないだろうし治りも早い。でもふらふらになるぐらい殴られたのに昨日の今日で痛みが無いなんてあるはずないじゃないですか。こんな体で授業なんて無理だって何回言ったか。最後は泣きそうになってましたよ」


「ははっ、そう。うん。それなら、いいんだ」


 まだ何かを気にしているような凪さんに、安心できるよう未来の朝の様子を沢山伝えた。学校に来るのを初日はあんなに嫌がっていたのに、三日目の今日は行きたいって駄々をこねて、と。


「挙句、元気だからって言おうとしたのか知らないけど、ご飯食べまくってお腹苦しい助けてって言ってくるんですよ」


「ふ、ふふ。だめだね、容易に想像できるよ。じゃあお腹ぽっこりしてたんじゃない?」


「ちょっとだけ。やっぱ、しっかり鍛えてて筋肉あるからかな。めちゃくちゃ出てはなかったけど、こう、これくらいまでは膨れてました」


「ふふっ。ね、待って? その手の位置は『ちょっと』じゃないと思うよ」


「だって未来が自分で『ちょっとだよ』って言うんですもん」


「ああ、自分で言ってたの? それなら『ちょっと』にしてあげたいね。ふふ」


 笑ってしまうのを必死に我慢するように、手を口元に当てて前傾している凪さんと未来の話をしていると、前の席に座る斎がこちらをじーっと見つめてきた。

 その視線に気付いた凪さんは、笑って柔らかくなっていた表情をさらに緩ませる。


「あんまり見られると恥ずかしいよ」


「あっ! ごごごごめんなさい!! ぼぼぼぼくみみ弥重先輩の大ファンでっっ、あのっ、つつつつい……あああのささサイン貰ってもいいですか!?」


 え、大ファンって。ああでも、凪さんだしな。イケメンで長身で悩殺スマイルで、マダーとしても……。

 てかなんだ斎。お前のその慌てっぷりは。


「わあ、嬉しいな。僕でよければ」


 凪さんは急に姿勢をしゃきんとする。

 応対用のオンオフスイッチでも付いてんのかな。


「はい、どうぞ」


 さらさらとペンを滑らせキャップをした凪さんは、のほほんとした笑顔でサインの入ったそれを斎に手渡した。

 気になってちらっと覗いてみると、書かれたのは斎がいつも持ち歩いているキューブについて纏めているノートの表紙。だけどそこには、一般の人が書いたとは思えないガチな感じのサインが綴られていた。それこそどこかの有名人みたいな。

 サインを求められても驚きもしなかったし、そう珍しくもないのかもしれない。


「うっ、わあ……ありがとうございます!!」


 九十度のお辞儀をする斎に、凪さんは可笑しそうにくすっと笑った。

「じゃあまたね」と、俺たちに手をひらひらと振りながら教室を出ていく凪さんは、クラスの女子からの熱い視線に気付いていないのかそれとも知らないフリをしているのか、そちらには何の反応も示さなかった。


「なに? そんなに凄い人なの?」


 長谷川からの疑問に斎は待ってましたとばかりに食いついた。


「あのね長谷川、あんなに素晴らしい人はなかなか出会えないよ!? もう俺の中では最高のさらに上の上の上の」

「あー長くなりそうだからいいや。つっちー。仲良さそうだったけど、凄い人なの?」


 可哀想に斎。バッサリ切られちまって。


「ああ。めちゃくちゃ凄い人」


 その問いにだけ答えてから、言いたくて言いたくてたまらないらしい斎にもう一度話を振ってみる。


「斎、簡潔に言え」


 俺が促した途端斎は顔をぱあっと輝かせ、長谷川に真っ直ぐ向き直り、溢れそうな全ての気持ちを一言だけに乗っけて言った。


「『無傷の先導者』」

「……ん?」


 異名を伝えるも、どうやら簡潔すぎたらしい。

 首を傾げている長谷川に少し補足をする。


「『精鋭部隊』のリーダーだよ。普通のマダーには回ってこないような危ないとこに行かされる部隊の隊長。メンバーは隠されてるし本人にその気もないみたいけど、色んなところで活動してる」


「そう! で、彼は八歳でマダーになったんだけど、そのときから今までずっっと戦闘による怪我をしていないんだ!」


「へぇっ!? すごいんだね」


 素直に目を丸くする長谷川に、あることを思い出した俺はもう一つ情報を足してみる。


「一昨日さ、未来が圧倒的強さを誇る人がいるって言ってたろ。それがあの人だよ」

「え!」

「何回か手合わせしてるけど未来は一度も勝ててない」

「ええ!!」


 そんな人なら先に言えと、長谷川は目に見えて落ち込んでしまった。

 どうした。手合わせでもしてもらいたかったのか?


「っと、じゃなかった。未来ちんの住所教えてもらおうと思ってたんだった」

「未来の住所?」


 なんで凪さんと知り合いなのかと騒ぐ斎には未来関連だとだけ言ってその場をおさめ、俺の机をとんとん叩く長谷川に聞き返した。


「うん。今日休んでるでしょ? 足まだ痛いのかなって思って。薬届けに行きたいから」


「ああ、そういうことか。足はもう完治してるよ。長谷川のとこの薬よく効いたみたいだ。休んでる理由はそうじゃなくて」


 そこまで話したところで、会話を遮るように授業が始まるチャイムが鳴った。


「そっか! ならいいんだけど。でもさっきちらっと聞こえた感じ、どこか怪我してるんでしょ。どちらにせよ行くからね!」


 人差し指を立ててそう言った長谷川は、やはり真面目とあってすぐに席に着いた。手早く授業の準備をして先生が来るのを待っている優等生そのものの姿に、あの日の光景が自然と思い返される。


「最初はあんなに嫌ってたのにな……」


 今はこんなにも心配してくれて。


「ん、土屋なんか言った?」


 ぼそっと、つい呟いてしまった俺は斎に何でもないと返して二時限目の用意を始めた。

 腹を割って話せたこと。

 それが何より良かったのかもしれない。

 確執が無くなってからは、間違いなくいい方向に進んでいる。


「良かったな、未来」


 今度は斎に聞こえないぐらいの小さな声で、俺はその嬉しさをぎゅっと噛み締めた。

【第十八回 豆知識の彼女】

実は、弥重凪ファンクラブが設立されている。


隆一郎は知らないので今は書けませんが、どこかのタイミングでそれについても触れられたらなと思います。

そんな彼は、隆一郎と二つしか歳が変わらないのにとってもとっても凄い人。今後とも重要キャラとなっていますので、どうぞ愛してやってくださいませ。


お読みいただきありがとうございました。


《次回 プリンと薬》

凛子さんを連れて未来のもとへ向かいます。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ