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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第三章 雪の降る街―静止編―
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第一八九話 空から海から

前回、ぎゃーぎゃーな車内でした。

 挿絵(By みてみん)


「あぁーー……潮風はいいなぁ……」

「うんー……強めの風ー……」

「ざぶーんってさぁ……」

「うんー……」


 カーフェリーの外部デッキ。

 風を感じながら海も見られるベストスポットで、俺は未来と並んでアイスみたく溶けている。

 暑い。炎天下のここは言わずもがな暑いんだけど、それ以上にさっきまでの窮屈感から解放されたことや新鮮な空気に心の底から癒されていた。


「おいおい、イチも未来もへろへろじゃねぇか。どした、酔ったか?」

「大丈夫ですー……自然に体を預けてるだけでー……」

「流星さんもへろってなろー……」

「お子さまの真似はしねぇよ。立派な高校生だからな」


 さっき湊さんに言われた言葉、気にしてんのかなぁと思う。

 俺の横に来た流星さんは手すりに背中を預けて携帯を弄り出した。

 なんでもない仕草が様になる。イケメンはずるい。


「流星さーん……凪さんたちはー?」

「ゲームコーナーに行ってる。プリンのキーホルダー見つけたからって、お前にやるべく奮闘してた」

「そっかぁ。ふふ……楽しみー」


 顔が更にとろける未来。

 形状維持が難しくなりそうだ。


「……つか、せいちゃんでいいぞ。弥重のこともさん付けしなくていい。お前が幼い頃から付き合いあるって、今回のグループのヤツはみんな知ってるからさ」


 癒されモードから急に戻った未来は目を丸くした。

 流星さんは精鋭部隊だし、凪さんはマダーの中でも偉い人だしで人前では呼び方に気をつけている未来。

 いいの? と聞けば、そっけない了承が返ってきた。


「俺もガキんちょって呼びてぇけどな」

「凪に怒られると思う」

「なんなら俺も怒りますよ?」

「イチに怒られても怖かねぇなー」

「ですよねー……」


 勝者の笑み。やっぱりこの人には勝てる気がしない。

 何を言っても余裕で返されそうだ。


「……ねぇ、星ちゃん。ちょっと聞いてもいい?」


 微妙な空白を開けて、眉尻を下げた未来は流星さんの正面に移動した。


「なんだ、改まって」

「ん。今回の遠征って、急ぎだよね?」

「……そりゃ、まぁ」

「どうして車での移動なのかなって。遠征の時っていつも凪の【光速(こうそく)】で行くんでしょ? 一秒で着くのに一日かけて行く理由は何かなって思って、考えてたら、その……」


 未来の視線が落ちる。

 自分を気遣って進行をゆっくりにしているのなら気にしなくていい、迷惑はかけたくない。せめてこのフェリー分と港から端段市までの時間はカットできないか。

 しどろもどろに流星さんに伝えたのは、大方そういった内容だった。

 言いたいことを把握した流星さんは、どう返事をしようか悩んでいるのかもしれない。携帯をポケットに入れて、長めの横髪を耳にかけた。


「……正直、そういう意図もあるけどさ」


 肯定。


「だよね……」

「司令官も言ってた。向こうに着くまでにケトの目が覚めるならそれに越したことはない、その場合は奴へ接近せず帰還させろ。可能なら会わせないようにしてくれ、ってな」


 嘘をつけない流星さんだからこそ、未来は踏み込んで聞けたんだろう。視線が交わらないまま話は続く。


「一般人は光の速さに耐えられねぇだろ? 弥重の【光速(こうそく)】で移動しようもんなら恩恵を持たないハカセはちりになる。だから早い話、ハカセだけ飛行機で来てもらうとか、あのポンコツぶりが心配ならみんな飛行機使って向かったりしても良かったんだ」

「ぽんこつ……」

「センセーがよく言ってる」


 国生先生、結衣博士の補佐をしてるって言ってたもんな。もし研究の際もあんな状態だとしたら……うん。少し大変そうだ。


「掟だから移動にキューブを使いたくないってのもあるけど、まぁ全部建前。時間かけるのはお前のせいじゃないし、それとは別のクソ大事な理由があんだよ」

「大事な理由?」

「そ。ボランティアっつー、重要な任務がな」


 言った直後――ドォオオオオオオン!!

 船尾の方から激しい音。衝撃。


「なんだ今のっ……うぉ!?」


 船の先端、足場が跳ね上がり、斜めに傾いた。

 尻もちをついた俺は船の中央まで滑っていく。


「おーおー、話す手間が省けたじゃねぇか! 感謝するぜぇ、【血管伸縮けっかんしんしゅく】!」


 手すりに捕まりながら顔を上げると、流星さんが赤いくだを作り出すのが見えた。

 それが船首にぐるりと巻きついて、海から出た船体を力ずくで戻させる。重力の向きが正常になる。


「すっげ……なんてパワー」

「隆、平気!?」

「なんとか!」


 元いた場所の手すりに掴まる未来へ叫び、キューブを展開。

 船尾に向かって駆けていった流星さんを追う。未来も後からついてくる。


「流星さん!」

「お? 足だけははえぇのな、イチ」

「だけにならないよう頑張ります。さっき言ってたボランティアって……!」

「そっ。奴に会いに行くついでだ、ちーっとだけお国のために働こうぜって話! 【血小板テープ】!」


 目にした損害、船底ふなぞこまで筒状に穴が空いた三箇所へ赤い帯状のものが貼りつけられる。

 テープと呼ばれた血の細胞が海水の浸入を防ぎ、穴から既に入っていた海水は赤色に変わる。

 意思が芽生えたかのように、自ら海へ戻っていく。


「いったい何をっ?」

「ただのツボ押しだ。それよりやっこさんを探さねぇと……お?」


 流星さんが敵を探そうとした、その時。


『ギィアアアアアアアアアアアアアアッ!!』


 断末魔の叫びとともに、上空から死人が落ちてきた。


「おーっ! いいねぇ湊、あと何体だーっ?」

「あははー、真上! ほら来るよー!」

「数を言えっての数をー!」


 流星さんが見上げる先。空で湊さんが笑ってる。

 墜落したのは大砲みたいな腕を有した人型の死人で、さっき攻撃してきた奴だと推測。今の短時間で倒したんだろう。


「ハンパねぇ……」


 パリンッと音がして、死した死人が集積。ガラス玉に変わっていくそれと追いついた未来を背に、流星さんは真上に手を上げる。

 左手のひらにある『血』の文字が、敵の血を欲するように赤黒い光を放った。


「【血まみれ(ブラッディ)】」


 刹那、弾ける音。

 死人がまた降ってきた。

 体の内側から爆破したような、体液が全て飛び散ってしまったゆえのグロい末路。

 赤い体液の雨がデッキを濡らす。


「まだ来るね」


 軽やかに着地した湊さんは海を覗き込んだ。


「いち、に……よん。群れてるみたい」

「生態ゆえか?」

「もしくは長い暮らしでの親交」

「オトモダチね。どっちにしろ潜るしかねぇな」


 聞かずとも会話の意味を理解する。

 向かっているのだ。海に慣れた死人が、この船に。


「イチ、ガキんちょ。お前らブリッジに行って船員とハカセを守ってろ」

「えっ? いや、でも!」

「海とか戦い慣れてねぇだろが。邪魔だし教えんのもメンドーだし、湊もいっから大丈夫だ」


 吐き捨てるように言って流星さんは海へ飛び込んだ。パーカーを脱いだ湊さんもよろしくーと笑って水中に消えてしまう。

 ことの早さに俺と未来は呆然と立ち尽くした。


「ぼんやりしないで、二人とも」


 ぽんと背中を叩かれ、ハッとする。

 振り向けば真剣な顔の凪さんがいた。


「凪さん、この状況は……」

「説明は後。隆一郎は言われた通り防御に回って。交戦は僕らがする」

「あ、はい!」

「未来。一緒に防衛しつつ、僕が今からすることをよく見ていて」

「え……見るって?」

「MCミッションの目指す先が、愛を持っての共存なら。僕らがする行為も根本から変えていかなきゃならない」

『ウォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』


 後ろから現れたクジラの死人が、凪さんの視界に入る前に【(いと)】で引き裂かれた。

 サイコロ状にカットされたそれが海へ落ちてぽちゃんぽちゃんと音を鳴らす。

 未来が息を詰まらせる。


「見定めて。自分が本当に目指す世界を。実態を目にした上で彼らとどう接していくのか、この遠征中に決めなさい」

【第一八九回 豆知識の彼女】

血管を全てつなげると地球二周半の長さがある


らしいです、毛細血管などを全部合わせると。

前にどこかで聞いた記憶があるのですがいつ知ったかは思い出せませんでした。

しかし長い管を自在に操れる流星、もしや毛細血管のイメージに置き換えたら一本じゃなくてぼわぼわした形も作れるかも……?(後書きで閃くなんて)


お読みいただきありがとうございました。


《次回 境界の向こう側》

操舵室にて、現状の説明と凪が見てろと言った理由について知ります。

できれば流星の言っていたツボ押しにも触れてほしいところ。

どうぞよろしくお願いします。

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