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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第三章 雪の降る街―静止編―
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第一八七話 空を通じて

前回、自分の意思ではなく車に乗っていた隆一郎でした。

 挿絵(By みてみん)


『もう出てるって……大体の話は司令官から聞いたけど、本当に急なんだね』

「だな。わるい、当番ひとりにさせちまうけど」

『別にいいよ。土屋のことだもん、考えずについていくって決めたんでしょう?』

「……すんませんでした」


 あれから十分ほどで着いたパーキングエリア。

 激しく辛いお弁当を食べられなかったみんなのために、国生先生がお昼ご飯を買いに行ってくれている。

 数時間も車に揺られて疲れた一行がベンチに座ってぼんやりするのを背に、俺は秀に謝罪の電話をしていた。


『でもさ、連れていかないって言われてたんだよね? だったらなんでそこにいるのさ』

「んー……俺もそれ聞いたんだけど、微妙に納得いかねぇんだよな」


 凪さんが言うには、テストに合格した・・・・・・・・から連れていくことにしたのだとか。

 本部では最初から俺を連れていく前提で話が進んでいて、だけど向かう場所が場所なだけに俺の実力を把握しておかないといけない。行かせないとわざわざ言ったのは、俺を本気で戦わせるための挑発だったらしい。

 これがその証拠だと、斎の家にいた際に本部から届いたというメールも見せられたけど。


「『北海道遠征の件。明朝四時に土屋家より出発、詳細は追って連絡する』って文面の後にさ、向かうメンバーが載ってんの。凪さんとか国生先生とか、一人知らない名前もあるんだけど、その最後にな。土屋隆一郎って書かれてて」


『司令官からの直接命令ってこと?』


「うん。そうなると思う」


 説明のために貸してもらった携帯を見ながら俺は秀に意見を求めた。

 このすげぇメンバーの中に俺を含める意図が、未来の負担を軽減させるためなのはわかる。

 どう考えたって俺が一番足でまといだし、話の辻褄は合うよなと。


「でもさ。実際には凪さん倒せてないし、必死すぎて途中から記憶もうっすらだしさ。未来もその話の最中なーんか後ろめたそうにしてて……これでテストに合格って、どうもモヤモヤするというか」


 怪我で意識が朦朧としていたことは覚えてる。

 それでもどうにか食らいついてたら、ロボ凪さんと戦った時を思い出して、急に精神が落ち着いて、凪さんの動きがよく見えるようになって……あともう少しって思って戦ってたら、いつの間にかさっきの車の中。

 強い光を浴びせる【目眩めくらまし】によって強制的に意識を刈り取られたらしい。


「強くなったって褒められたのは、嬉しかったけど」

『良かったじゃない』

「でも課題もいっぱい見つかったから近日中に直すようにって」

『【回禄(かいろく)】の弱さとか?』

「それみんなに言われるよ……」


 ずらずら、ズラズラズラズラズラズラ。

 たっくさん並べられた課題の数々。

 その中身は大抵防御に関する指摘で、受け身が遅いとか体勢が悪い、怪我の頻度が高いなどなど。

 一番怒られたのは神の名を持つ炎の盾、【回禄(かいろく)】の脆さだった。


「マダーになりたての頃は……それなりに強い盾だったんだけどな」


 戦いを重ねるごとに、炎という概念が俺の中で固まっていく。

 強い炎とは――変幻自在。

 全てを呑み込む圧倒的な力。

 赤く広がる火の海を、守りのイメージに落とし込めなくなってきてるのかもしれない。


『キューブを信じてるからこその弊害だね』

「そうだな」


 自覚があるだけに、もう少し説教が長かったら打ちのめされていたのではと思う。

 休憩場が近くて助かった。


『いい機会じゃない。せっかく精鋭部隊が四人もいるんだし、話しやすい人に特訓をお願いしたら?』

「時間と余裕があればな。向こうに着いたらすぐ目的の奴に会わなきゃなんねぇし、そうなったら間違いなく未来のケアが必要になるから多分なかなか――」


 言って、口を押さえた。


「……わるい。聞かなかったことにしてくれ」

『平気。行き先を本部に教えられて、その時にもう気付いたから』

「気付いたって……」

『向かってるのが端段たんだん市で、相沢を連れていくって言われたらさ。大抵の人は察すると思うよ。僕じゃなくてもね』


 だからどちらかの情報は伏せた方がいい。そう忠告する秀は、未来があの・・事件・・の被害者であると知った上で、その内容を問いただそうとはしなかった。

 変わらない秀の優しさ。救われる。


『こっちは気にしないでいいからさ。相沢をちゃんと守ってあげなよ。そうじゃなきゃ阿部も長谷川も悲しむからね』

「わかってる。頼むぞ」

『うん』


 全てを共有して、話題が尽きる。

 そろそろ国生先生が戻ってくるかと時計を確認すれば、学校は昼休み真っ最中の時間。学生の声が電話越しに聞こえる。

 なんとなく寂しくなった俺は無意識に空を見上げた。


『……土屋』

「ん?」

『空を見て。腕を上げて』


 秀も外にいるのだろうか。

 特に聞き返すことはせず、俺は言われた通りに左腕を上げる。指示されるままに、キューブを展開する。


『――【熱願ねつがん】』


 秀の静かな声に反応するように、俺の『炎』の文字が青く輝いた。

 その光と言葉。

 何をしたいのか、何を伝えたいのか。秀の気持ちが空を通じて降ってくる。

 俺は小さく笑った。


「【冷諦れいてい】」


 ついの言葉を述べて完成した技――【熱願冷諦ねつがんれいてい】。

 二人のコンビ技を増やそうとして調べていた四字熟語から作った、なんの変哲もない綺麗なだけの技。その意味は、熱心に願い求めること、冷静に本質を見極めること。

『炎』と『氷』。俺たちだからこそできる、遠く離れても使える技が寂しさを埋めてくれる。

 見えないけれど、秀が掲げている『氷』の文字は、俺が唱えた【冷諦れいてい】によって今は赤く光っているはずだ。


「……ありがとな、秀」


 怒らないで聞いてくれて。

 俺が不安に思っていると悟り、勇気づけてくれて。

 言葉にするのは小っ恥ずかしいから、せめてお礼だけでもと声に出して伝えておく。


『別に。冷静さを忘れないでって、言いたかっただけだよ』

「お前のそういうとこさ、俺好きだわ」

『気持ち悪いな』


 スパッとぶった切られる。

 そういう愛想のないところも好きだぞ、秀。


『まだ気色悪いこと考えてそうだね』

「ははっ、なんでわかるんだよ」

『土屋はわかりやすいから』


 しばらく笑い合う。

 無駄な力が抜けてリラックスできた頃、買い物に行っていた国生先生が戻ってきた。


「また連絡する。しばらく頼むな」

『うん。待ってるね』


 特別な別れの言葉は使わず、「おう」とだけ返す。

『行ってらっしゃい』の声を聞いて通話を切り、みんなが集まるベンチへと向かった。

【第一八七回 豆知識の彼女】

隆は凪の首を狙ったことを覚えていない


【目眩し】を使う決め手になったのが実は首への攻撃でした。

隆は必死すぎて覚えてないですし凪もその詳細を語ろうとはしないので、補足までに。


お読みいただきありがとうございました。


《次回 幸せと争いを運ぶ食》

再び車へ。美味しいは幸せです。

よろしくお願いします。

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