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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第三章 雪の降る街―静止編―
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第一八一話 キューブの歴史

前回、斎の夢に出てきた青い球体を見せられました。

 挿絵(By みてみん)


「だろ? 触っても危険がないか先に親が調べてくれて、大丈夫そうだったから持ち帰ってさ。不思議な出会いに興味爆発、親子揃って調べるわけよ」


「ここから先は僕も見てるから信じていいよ。それなりに現実味のある話だと思う」


 夢の話は信じてないけど、と強調する秀。

 その素っ気なさに斎は苦笑する。


「しばらくはみんなで観察してたんだけど、途中で喧嘩になっちゃってさ」

「えっ、喧嘩? どうして?」

「阿部も知ってるだろ? 親父とおふくろの性格」

「……あ」


 やるなら徹底的に、がモットーらしい。斎曰く、一つの物体を三人で調べるんじゃなくて、一人で全部やりたくなるのが谷川家なのだとか。


「てなわけで、全員の手元に回るようにおふくろが……あ、いわゆる『結衣ゆい博士』な。あの人がクローンを作って振り分けて、俺と哲郎博士おやじ、おふくろの得意分野でそれぞれ調査してさ」


「クローンとか当たり前みたいに言うなよ……」


「死人を無限再生するような人だぞ。クローンぐらい簡単だよ」


「お前の常識を押し付けないでくれ」


「うむ……ワシは頭痛くなってきた……」


 なんでも順応する加藤が小言を言うほど、その話はぶっ飛んだものだった。

 もしやこの青い玉単体では何もできないんじゃないか。ひとの脳と結びつけるプログラムを構成したら面白いことができるんじゃないか。

 そんな着想から作った物がキューブだという。


「おままごとに使えそうだなって思ったんだよ。想像したものがぽんぽん生み出せたら絶対楽しいだろ?」

「そんなのできるわけないって僕は何度も言ったんだけどね。最終的にやってのけたんだから、斎は本当に天才だと思うよ」

「ははっ! よせよぉ、秀~」


 こつこつ、と肘で小突かれる秀。

 今日の斎はあまり謙遜しないようだ。


「……ねぇ、斎?」

「ん? どした、相沢」

「今の話で思い出したんだけど。キューブって、死人と戦うために作ったんじゃないんだよね?」


 改めての質問に斎と秀以外キョトンとする。

 今聞いたところだろう。想像したものがぽんぽん生み出せたら楽しいから、と。


「――さすが相沢。目の付け所がいい」


 斎の低い声音こわね。俺はどきりとする。


「ちょっと整理しようか。球体を持ち帰ったのが、俺が六歳の夏。おふくろにクローンを作ってもらって、調べて試作を繰り返して、出来上がったのが六歳の秋」


 手で数字を示しながら、ゆっくりと説明される。


「相沢がキューブに好まれたのも同じ六歳。作ったその日にお前のとこへ飛んでったからな」

「うん。よく覚えてる」

「それからもう一つクローンを作ってもらって、二つ目のキューブを製作。それが飛んでったのが長谷川のとこ」

「うん……アタシも覚えてるよ?」


「なんだこれって思った」と長谷川は頬杖をつく。

 使い方を教えるようにキューブがかざぐるまを作ってみせたから、連想したものが現実に生み出せるんだってわかったと。ゲームのチュートリアルみたいな動きは全キューブ共通か。


「クローン、キューブ、クローン、キューブ……って繰り返して、長谷川の次は弥重先輩、その次に杵島きしま先輩って続く」


「杵島先輩って誰じゃ?」


「杵島流星りゅうせいさんだよ。凪さんのチームメイトで、髪が銀色の……加藤君は会ったことないかな」


 見た目の特徴を上げる未来は正しい。

 俺なら口の悪いひとって言ってしまった。


「ちなみにメンバーの三人目は小山内おさないみなと先輩な」

「ぬぅ……そのひとも知らんのう」

四十万谷しじまや司令官はわかるか?」

「司令官さんはわかる。ヘンメイのゴタゴタの時に現場に来て、すんごい剣幕で指揮をとっとった」


 この後の話のために、斎は確認を取りつつ必要な説明を加えていく。

 今更だけど、司令官あの時来てくれてたのか。

 Death game(デスゲーム)内にいたら外のことは見えないし、本部から指示を送ってるものだと思ってた。


「弥重先輩と司令官はその頃から既に関わりがあってな。詳しい関係は知らないけど、キューブに好まれた弥重先輩はその利便性について司令官に話したそうだ」


「この辺は僕らも後から聞いた話でね。当時の司令官は今みたいな地位じゃなくて、とある児童養護施設を作った人だったらしいけど」


「なんて言うんだろうな。院長?」


「施設長じゃない?」


 流れを知る二人は補完しあって教えてくれた。

 まだ八歳だった凪さんの言葉を親身に聞いて、実際にその目で見た司令官の行動は迅速だったと。


 何でも作り出せるこの立方体を子どもに持たせるのは危険。対策を取らなきゃいずれ大問題になる。そう判断した司令官は業界の――秀の話が本当なら児童養護施設の――知り合いを伝って、政府に相談。


 キューブの存在を知った政府は情報にけた組織を使い、世に出回る不思議な力がどこから飛んできているのかを把握。

 報告した司令官と情報源だった凪さん、国の人間で谷川家に訪問に来て、そんな大事おおごとになる物を作っていると知らなかった斎の両親は驚いて製作をやめさせたとのこと。


「でもキューブに魅入られた俺は作るのをやめられなくてさ。秀に協力してもらって、それからもこっそり続けてたんだ」


「僕のお願いなら結衣博士も聞いてくれたからね。研究以外に使わないって条件でクローンを作ってもらったよ」


 もちろんそんな口約束を守るはずもなく、貰った全てが斎の手に渡る。キューブも使用者も増えていく。


「まー当然だけど、バレるわけ。またお国との話し合いになって、禁止されて、ぶーたれて。でもいつだったか、国のために使えるんじゃないかって考える人が出てきてさ」


「国のため?」


「災害地の復興とか、山火事で消えちゃった樹木の再生。風力発電に長谷川の風を使ってもらったりとか」


 懐かしそうに斎は語る。

 話を理解できる年頃の子が多かったから、仮の法律を作って、危険な行為はしないと約束。

 国の人間が『依頼』してキューブを使用することが決まり、ならば精度も重視すべきという声が上がる。

 キューブに選ばれた子どものほとんどは大阪に住んでいたから、司令官と国の人、全国のキューブを持つ子どもと親が大阪に集まって、月に数回の講習会が行われたんだとか。


 ――今でいう訓練生みたいなもんかな。


 俺の知らない、キューブが国に認められるまでの話。

 当時最年長だった凪さんが一番扱いが上手かったから、その頃からリーダー的立ち位置でみんなに教えて回っていたらしい。

 ちっさい頃からすごい人だったんだ、俺の師匠は。


「ん? てことはアタシ、子どもの頃何回か未来ちーに会ってるの?」

「……覚えてないの?」

「あっ、わ……ごめん」

「凛ちゃん、私の目を見て笑ったんだよ? 『青いおめめ、変!』って」

「ごめん!?」


 半泣きのハグに未来は笑う。

 もう気にしてないから大丈夫、と。


「凪さんのお父さんがお医者様だったからね。大阪に来るたび設備を持ってきてくれて、調べてもらって。変わりないかよく聞いてくれたなぁ」

「……そっからだっけ。未来が凪さんと仲良くなったの」

「うん。キューブの使い方もいっぱい教えてもらった」


 だから死人の討伐にキューブをって話が出た時、未来と凪さん二人がペアになった。本人たちの希望と、倒せる確率が一番高いと判断した当時の首相によって。

 そこで――俺は引っかかった。


「キューブって……死人が生まれる前に作ったのか?」


 未来がした質問の意図。それを俺は理解する。

 少しの沈黙が流れたのち、同様に理解したみんなが斎を見る。

 待ってましたとばかりに斎は笑った。


「俺らは今年で十五になる。キューブが出来たのは俺が六歳の時。今は二〇三七年だろ?」


 指で三十七を作る斎。

 歳の差、九を引かれ、指は二十八に変わる。


「俺がキューブを作ったのが、二〇二八年。でも死人が――ひとが初めて死人を認識したのは、二〇三〇年」


「……二年のスパンがある」


「そう」


 キューブは死人と戦うために作ったんじゃないんだよね、という未来の問い掛け。

 今でこそ武器として使われていて、マダーっていう死人討伐専門の人たちがいるけど……そんな生き物が現れるなんて誰も予想していなかったはず。

 キューブがもう少し後に出来ていて、国との情報共有がまだだったり、そもそも認められていなかったとしたら。

 国のために使う思考が生まれなかったとしたら。


 そうした場合、俺たちは生きているんだろうか?

 もう既に全滅してるんじゃないだろうか。

 それこそ日本を飛び出して、世界中死人で溢れかえってもおかしくないんじゃ……。


「奇跡的だろ?」


 俺の頭の中を見ているかのように、斎は言葉を紡ぐ。

 青い球体が入ったガラス箱を大事そうに持った。


「少ししたら、日本の軍事力では対抗し切れない勢力が現れる。だからそれより前に守る力を落っことして、体制を整えるための時間をくれた。それが、俺が信じてる神の存在」

「……神」

「おう」


 納得した。霊魂を信じそうにない斎が、神はいると言った理由。つまるところ、今の話から導き出した答えなのだろう。

【第一八一回 豆知識の彼女】

司令官が今の立場になったのは、キューブの存在を知った後の判断力や行動力、子どもと向き合う誠実さを認められたため。


どこかで話に出せたらいいなと思うのですが、四十万谷悠吾が四十万谷司令官になるまでにはこんな理由がありました。

凪が伝えたのが父や母だった場合も、今のような体制にはならなかったかもしれません。


当時土屋家で暮らしていた未来は両親がいないため、代わりに隆一郎の父母が保護者として講習会に出ていました。


お読みいただきありがとうございました。


《次回 エンカウント》

新キャラ……というわけではないのですが。噂の女性、御来場です。

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