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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第三章 雪の降る街―静止編―
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第一七七話 谷川家の秘密②

前回、ラウンドツーを突破しました。

 挿絵(By みてみん)


『けーっけっけ! 骨のアル侵入者ダ、でもコレはどうだろうね? ファイナルラウンド! 我らが王様!! 鉄壁のぉー、まぁもりへーーーーい!!』


 明るい空間に出たと思ったらまたガイド。

 楽しげなヘンテコ音声とは対照的にドシン、ドシンと部屋を揺らしながら現れたのは、恐怖以外の何ものでもない。


「ちょぉ……人食い鬼とか、冗談のつもりじゃったんけど……」


 俺の後ろに隠れた加藤に頷いて、キューブを握りしめる。

 そうだな、俺も思いもしなかった。

 俺たちの前に立ちはだかったもの。それは、三メートルは優に越す巨大な鬼だった。

 顔の半分を占める大きな口と、噛まれたら重傷間違いなしの先鋭せんえいな牙。『鉄壁の守り兵』と呼ばれた筋骨隆々なそいつは、見た目にそぐわない星の髪ゴムとかんむりを付けていた。


「なぁ秀さんよ。お前、家の中に入る前さ。斎を『我らが王様』って言ったよな」


 巻きついていた【朝顔(あさがお)】の蔓が消える。

 未来がコウモリ人形を一掃したらしく足と口が自由になる。


「あの王様って、この鬼のことか」

「さすが土屋。ご名答」

「サプライズゲートって阿部が言ったのは、こいつをぶっ倒したら本物の斎に会えるよって意味か」

「土屋君、えてる〜!」


 ははーん、なるほどね。初めて谷川家に来るやつは、今の戦闘を突破しなきゃ天才たちに会えないわけだ。

 武装は規制される国だから、ここまで来られるのは所持を許された人か常時キューブを持ってるマダーだけ。拳銃を用意したとて、そんなもので潰れる番人を斎が作るはずがない。

 つまるところ、マダー関係者なら誰でもどうぞってスタイルなのだ。


「ちなみにお二人さん。ラウンドワン、ラウンドツーをやらせなかった理由は?」

「ワンは相沢がやりたいって言ったから」

「ツーは私のリベンジですっ!」

「勝てて良かったな」


 前回負けた阿部が捕まるだけで済んだなら、おもちゃの刀も含めて防衛に重きを置いてるとみる。だとすればこの王様も危なくはないだろう。『鉄壁』だし。

 答え合わせが終わり、だってよ、と流し目で二人を見る。

 長谷川がでっかいため息をついた。

 心底呆れたような「はぁぁぁぁ……」。でも口元は笑みを隠せない。


「考えてみれば、あの谷川が人を危険にさらすわけないわ。平和のために何年も頑張れるようなヤツだもん」

「い……いやいや。一般人のワシからしたら十分怖かったんじゃが?」

「天才発明家のちょっとしたお遊びじゃん。マダーの友だち持つんならこれくらい慣れな」


 辛辣すぎる。ぶつぶつ言う加藤は首の後ろに手をやった。

 でも内心ほっとしてるんじゃないだろうか。俺たちが来たのと同じルートで駆けてくる未来に手を振ってる。

 気付いた未来も笑顔で手を振り返した。反対の手には【木刀(ぼくとう)】の獲物にしたコウモリ人形を一匹抱えて……なんで持ってきた。


「ねぇー、谷川プログラマー。どーせカメラ越しにでも見てんでしょ? 今この瞬間をさぁ」


 王様とやり合うべく俺以外を追い払った長谷川は、一応なのか盾を張るようみんなに指示を出す。ぐるりと周囲を見回した。

 何を探しているのかは知らない。が、なんだろう。とてつもなく嫌な予感がする。

 ポケットからキューブを引っ張り出して、すぐさま展開。『風』の文字を見せびらかすように手を掲げた彼女は、イタズラしますと頬に書いて俺を見る。


「つっちー。火種、欲しいなー」


 やめろ。お前のイタズラに俺を巻き込むな。


「大惨事になりそうなんで、パス」

「加減するからさー。どっちにしろこの鬼倒さなきゃ谷川んとこ行けないのよ? それでもいいの?」


 ニヤニヤ顔で俺を覗き込む。

 俺の不自由さ――大量の荷物を持ったままで戦えるとは思えない、なんなら足でまといだ。そんな顔。

 別に手がなくとも戦うことはできる。近接戦は長谷川に頼んで俺は炎で攻撃とか、やり方には困らない。


 想像が全てのキューブにおいて、戦いで不利になるのは脳に支障がある時だけだ。


 でも……お任せする方に気持ちが傾いてしまう。

 俺はもう疲れた。揺るがないハッピーエンドはさっさと見届けて、斎とまったりシュークリームが食べたい。

 今日は癒しがぜんっぜん足りていない。


「加減するって約束できるか」

「うん。する」

「絶対だな?」

「そう疑うなって。アタシを信用してよ」


 ねっ? と歯を見せる長谷川にどうしたもんかと悩みながら、それでも癒しを求める俺は炎を出す準備をした。


「部屋まるごと吹っ飛ばしてあげよ」


 さぁっと血の気が引く。


「おい!? 加減するって今言ったろ、あいつら巻き込むつもりか!?」

「だーいじょーぶだって! ほら、さっき盾を張るよう言ったじゃん。自分の身は自分で守らなきゃ」


 俺の反対なんか構うものか。長谷川は【風神(ふうじん)(まい)】で部屋全体を赤くする。

 酸素が九十パーセントほど含まれるというこの赤い強風。それはつまり、俺が炎を出せば大爆発に繋がるエグい戦略。

 冗談じゃない。

 斎に会うため斎の家を破壊するとか、冗談じゃない!


「んじゃつっちー、よろしくっ」

「ほがっ」


 ゲシッと背中を蹴られ、技を出さないようにしていた俺ははずみで生成してしまった。

 一センチぐらい、たったそれだけ。マッチの火程度の小さな火種が、部屋中に渦巻く酸素に交じって結びつく。


 ――ドォオオオオオオオオオオオンッッ!!


 轟く爆発音。

「あーあー」とあわれむような秀の声が、部屋を破壊する前に俺の耳に届く。

 あーあーじゃ済まされない。爆発の音にも負けない加藤の叫喚きょうかんの方が俺の心情をよく表してる。

 長谷川はドヤ顔で仰け反る。なんで笑顔なんだお前は。

 頭が真っ白になってどうでもいいことばかりが目につく。赤々と燃える炎の中、当初の目的だった『鉄壁の守り兵』は白旗を上げ、加藤を除く未来たち三人は困ったように笑う。


「ちょぉーい長谷川! 何してくれてんだお前は!?」

「おっ、ご本人登場ーっ」

「来るしかねーだろ、もー!」


 俺が会いたかった人物も、なぜか笑って現れる。

 怒らないのか。怒ってほしい。


「斎……ごめん、俺、漏れた」

「おもらしみたいに言うなっ、とにかく消火!」

「ハイ……」


 元になったのは俺の炎だから火力を抑えるのは造作もない。ただ長谷川の風を含んでしまったためにどこかで酸素が結合してしまうのだ。

 消しては燃え、消しては燃え。

 見かねた未来が【蒸散(じょうさん)】で生み出す水で一気に消火してくれた。ついでに俺も水浸し。


「へぶしっ……!」


 くしゃみだけでコトを終えられたのは奇跡だと思う。

 ありがとう未来。お前はやっぱり神様だ。

【第一七七回 豆知識の彼女】

ダウンしたコウモリ人形、未来が持ってくるのは二回目。


未来さんに【木刀(ぼくとう)】で叩かれたコウモリくんたちは、目をくるくると回していてとっても可愛かったそうです。今回だけじゃなく初めて未来さんがここに来た時も連れてきちゃったとか……


お読みいただきありがとうございました。


《次回 グラジオラス》

こちらも一章推敲後に消えたやつ……を、超大幅リニューアルしています。元あった『グラジオラス』を分割&構成し直したのが次の『グラジオラス』と前話の『谷川家の秘密①』でした。ややこしい。

その説はご迷惑をおかけしました。

またどうぞよろしくお願いいたします!

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