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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第三章 雪の降る街―静止編―
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第一七六話 谷川家の秘密①

前回、シュークリーム選びに苦戦しました。

 挿絵(By みてみん)


「研究所って……斎の家だったのか」


 やっとの思いで着いた目的地。『谷川』の表札がある一軒家の前で俺は呟いた。


土屋つちや君は来るの初めてだっけ?」

「うん、なんだかんだで来たことない。施設だと思ってたからちょっとびっくりした」

「中に入ったらもぉーっとびっくりすると思う。一度きりのサプライズゲートだから」


 今年になってからほぼ毎日来てる阿部は、初めて来た日を思い出したのか楽しそうに笑う。

 一家揃って研究者だし、さすがに普通の家じゃないだろうけど……中はどうなってんのかな。


「ふ……ふふ、ふっ」


 勝手に内部を想像していると、玄関に手をかけた秀が変な声を出した。


「さあ諸君、覚悟はいいか」


 どうした秀。なんだお前のその口調は。


「ここから先は戦争だ。生きて帰れるかはみんな次第。殺意に気付ける者のみが、我らが王様……斎の前に立つことができる」


 おい誰かツッコんでくれ。

 俺はもうさっきのシュークリーム選びだけで疲れたんだ、ツッコミ役は降ろさせてくれ。


「さ、殺意ってなんじゃ、なんのことじゃ。家ん中に殺人鬼でもおるんか?」

「うぅ〜ん……あながち間違いでもないね」

「おぉぅっ!? 説明せい阿部、人喰い鬼か!?」

「このバカ、まんまと乗せられちゃって。二人のジョークに決まってんでしょ? 死人ならともかく殺人鬼なんかいるわけ――」

「いるよ?」


 ぴたり。俺の代わりに突っ込んでくれた長谷川の口が止まった。

 小首を傾げて、むしろなんでいないと思うのか聞きたそうな未来の「いるよ」のせいで。


「お、おい未来? お前までいったい何を……」

「だってあの・・斎の家だよ? キューブの作業場でマテリアルの精製所。結衣ゆい博士もここでお仕事してる。絶対潰されちゃいけないところに警備を置かないなんて怖いでしょ?」


 警備、と言い換えられると少しは受け入れやすくなる。けど殺人鬼であながち間違いじゃないってどういうことだ。家の中には何がいるってんだ。

 混乱する俺たちはそっちのけで、事情を知ってる三人は話し合いを始めた。誰が先陣を切るか、という話が一番長い。

 未来がキューブを手にしたあたり、トップバッターはあいつで決まったのだろう。


「の、のう土屋? 教えてくれ。今から何が始まるんじゃ。ワシらはただっ、キューブの完成祝いに来たんじゃなかったんか!?」

「俺に聞くな。聞いてくれるな」


 半泣きの加藤には悪いが同じく状況がわからない。

 未来が持っていた土産袋とスクールバッグが俺に預けられる。また甘いものたちに囲まれる俺。重い。

 反対に身軽になった未来はキューブを展開して、立方体だったそれが染み入るように左腕へ張り付くのを見ていた。


「隆。凛ちゃん、加藤君」


 呼んだ順に目を合わせ、浮かべられた微笑。


「後ろを振り返らずに、前だけ見て走ってね」


 その、言葉の意味も知らされず。

 左手の『樹』の文字をそっと撫でた未来は、【朝顔(あさがお)】の蔓を一本と、いつも使ってる【木刀(ぼくとう)】を作り出す。

 谷川家の玄関前で腰を低くして構えた。


「ちょっ、待ってよ未来ちー!? お願いだから説明してっ? まさかホントにヤバいとこなの、ここ!?」

「開けるよ!」

「待ってよ!?」


 理解不能。説明不十分なまま秀が勢いよくドアを開けた、次の瞬間。


『侵入者アリ! ラウンドわん、しゅつドウー!」


 ヘンテコな声とともに、大量の小型人形がこちらへ飛んできた。


 ――なんだこいつら!?


 赤く光る目。羽ばたく翼。

 コウモリみたいなその人形は帯刀していた。

 容赦なく振り下ろされる刀身を、ドアを開けたと同時に走り出した未来が【木刀(ぼくとう)】で受け止める。鈍い音を鳴らす。


「おぉぉおい、なんじゃありゃ!? 説明求む!」

「静かに加藤君! ここは未来ちゃんに任せて、私たちは次に行くよ!」

「だから説明しちょくれー!!」


 喚く加藤を「しー、しー!」と小声でたしなめる阿部。

 それでも叫びそうになるので秀の手が口を覆う。

 わけもわからず走らされる。


「ちょっと秋月、未来ちーは!? 置いてくの!?」

「公正な話し合いの結果です。相沢はラウンドワンの犠牲になることに……」

「はぁ!?」


 長谷川も怒鳴どなるから阿部に『めっ』を食らう。短い指を向けられては黙るしかない。

 俺もこいつらに物申したいのだが、残念ながら【朝顔(あさがお)】の蔓で口を塞がれている。俺が一番騒ぐと予想した未来の仕業。

 喋りたくても「んー!」しか出ないし巻きついたこいつらは俺の足を勝手に動かしてくる。否応なく走らされる。


 ――上半身は動く。せめてあいつの助太刀を……っ!


 荷物を抱え直し、キューブを手に振り返ろうとした。

 しかし後頭部を押さえる力強い手。


んんっ!?」

「我慢して土屋。あの人形は人の声と目に反応する。視線を感じた瞬間こっちに飛んでくるから!」


 わかった。未来が後ろを振り返らずにって言った理由。視界を遮るほどの大量コウモリを元から一人で受け持つつもりだったんだ。


 ――あいつらが持ってた刀……おもちゃっぽかったけど。あれが噂の『警備』なら危ないにもほどがある。


 知らずに家へ入ろうものなら容赦なく殴りつける、それがあのコウモリ人形の役割。冷や汗が止まらない。

 未来が戦う音を背中で聞きながら、家の中とは思えない真っ暗で長い通路を駆け抜けた。


『シンニュウシャ感知。ラウンドつー、ドウ!』

「任せて! 【きほぐし】!」


 広い空間に出た、と思ったらまたヘンテコな声。

 阿部が『解』の文字を刻んで技をお見舞いする。

 上空から降ってきた人間サイズの鎧兜よろいかぶとがいとも簡単に分解。さばかれ、バラバラになって崩れ落ちた。


 ――阿部、つよ!?


 模擬大会でわかったつもりだったけど、あれから更に磨きをかけたらしい。

 サポーターのイメージがどんどん薄れていく。


「ナイス阿部。二回目だし、覚えてた?」

「えへへ……あの、忘れたいけど忘れられないというか」

「縛られて逆さ吊りの刑だもんね」

「思い出さないで〜っ!!」


 なんの話をしてるんだ!

 暗くてよくわからないが阿部の抗議に秀が笑ってるのはわかる。

 縛られて逆さ吊りって。阿部さんよ、一回目のここで何があったんだ。

【第一七六回 豆知識の彼女】

加奈子の新技【きほぐし】の案は、『誰も死なない殺人事件〜式折高校図書日誌〜』作者の雨麗亭四迷様より頂きました!!


頂いた時から早く使ってほしい、早く早く!!な気持ちでいっぱいでした。嬉しさと、ほくろにはない発想で「すんげぇ!!」と叫んだのを覚えています。優秀サポートの立ち位置にいる阿部ちゃん、実はとっても強いのですが、彼女の強さを更に引き上げてくださる素敵な能力でした!!


雨麗亭四迷様!!まことにまことにありがとうございましたーーーー!!


《次回 谷川家の秘密②》

ヘンテコガイドが続きます!いざゆかん、次の部屋へ!

お読みいただきありがとうございました。またどうぞよろしくお願いいたします。

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