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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第二章 プレイゲーム
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第一六八話 模擬大会の結果と伝え忘れ②

前回、模擬大会の結果でわいわいでした。

 挿絵(By みてみん)


「アタシ帰るわ!」

「急にどうした」


 未来と阿部から離れたかと思えば、いきなり帰ると言いだした長谷川。今の一瞬で何かあったのかと心配になったがそうではないらしい。笑顔だった。


「どうしたって? ふふん、考えてみなよ。あの未来ちーがもう一回戦ってくれるのよ? いい勝負にしたいし絶対勝ちたい! 帰って鍛錬しなきゃっ」

「鍛錬って、今からか? 帰ったらもう寝るくらいの時間だぞ?」

「いいのー! 夜遅いのなんか慣れてるし、今のやる気を全力でぶつける方が気持ちいいもーん!」


「じゃっ」と手のひらを見せて、キューブを展開。文字を刻んだ長谷川は【疾風(しっぷう)】を使って家の方面へ飛んでいった。


「相変わらず嵐みたいなやつだな……」

「ははっ、まー間違ってはないんじゃないか? ほら、『風』だし」


 思いださせるように、斎が自分の左手を指で叩く。

 たしかに『風』の持ち主としてはピッタリの性格かもしれない。でも『風』だけじゃなくて、『山』も必要だと思うんだよ俺は。

 あいつはそよ風でも清風でもない。百パーセントの暴風なんだから。


「んで、どうしようか? 主催者が帰っちゃってまとめ役がいないんだけど」

「お開きでいいんじゃない? 模擬大会が終わったらご飯を食べて解散の予定だったんだし。土屋が言ったように時間も時間だからね」


 とりあえず切り出してくれた斎に、秀が腕時計を確認しながら答える。凄まじいイレギュラーはあったものの、その点については変わりないから満場一致。全員こくこくと頷いた。

 最寄り駅まで歩きながら、他愛のない話をする。

 家に帰ったら寝るか? という話題に「うん」と答えるやつは一人もいない。

 長谷川に感化されたのか斎と秀は研究所に直行して、新キューブ完成に向けての最終確認。阿部も二人の緊張を和らげに行くらしい。

 加藤は日課の筋トレ。あと、弟、妹が起きていたら思いっきり抱きしめたいとのこと。


「死が身近なもんじゃって、なんとなくわかっとったけど。いざ体験すりゃ、まぁ……」


 亡くなった大学生について言ってるんだろう。途中で言葉を濁した加藤は、一部始終を目の当たりにして思うところがあったみたいだ。

 家の鍵に付けている、『にーちゃんへ』と書かれた手作りの人形を持って、しばらく見つめていた。


「土屋君と未来ちゃんは? 帰ったら何かする?」

「俺は凪さんから出されてる課題。もう期限がすぐそこだから、のんびりしてらんねぇ」

「隆がやるなら私も見とくよ。これ以上怪我してほしくないし、ケトが起きるかもしれないから」


 俺が持っていた鞄を受けとって、中を覗き見る未来。大きさの割に随分重かったそこには、すーすーと寝息を立てるケトがいる。

 夢でも見ているのか、小さな黒い手がグーになったりパーになったり。たまに刀状になって危ないから、人通りが少ない道でもおキクみたいに外には出してあげられなかった。


 ――ケトも、怒るかな。未来に寝かしつけられたこと。


 もし怒るなら機嫌を取れるものを用意しておかないと。最近のお気に入りは果物らしいから、いくつか候補を上げて、どれがいいか選んでもらって。

 あとは弁当の卵焼き。普段は未来が食べさせてくれてるけど、俺の分もよく見てるから、追加でやればかなり喜ぶかも。


 ――死人との生活を望んでくれるなら、聞いてみればいい。彼ならきっと、まじないの影響も受けずにメイたちの全てを話せるはずだ。


 違う。ヘンメイに言われたからじゃない。

 おキクと仲直りした未来と同じ。いつものケトの愛らしさが、俺は恋しいだけだ。


「……本当に、走って帰るんだ」


 駅に着いても中へ入らない俺と未来に、秀が信じられないと言いたげな顔をする。準備運動をしながら「おう」と返事をして、行きは十五分だったと付け加えた。


「なにも帰りまで頑張らなくても」

「いいんだよ俺らは。体ちょっと動かしたいし、体力作りも兼ねてるからさ」


 嘘はついてない、走るのだって立派な鍛錬だ。自分の足で行ける範囲ならいつもそうしてるだけで、決してお小遣いをケチってるわけじゃない。

 だから未来、ジト目を向けないでくれ。一緒に走るよって言ったのはお前だろ。


「おいみんな、ホームあっちじゃ。ワシら乗るのは多分もう一つ奥の……」

「あっ、もう来てるみたいだよ~! 急げば間に合うかな?」

「慌てなくていいよ阿部。この時間は通過待ちだから」

「通過待ちって、秀は時刻表まで暗記してんのか?」

「おっ! さすがに土屋も知らないか。秀はガチの鉄オタだぞ」

「信じそうな人がいるからやめてくれる? 歩きながら調べてただけだよ」

「ん? つまり秀はどっち……あっ、わかった。照れてるんだね?」

「ほらぁ。信じちゃったじゃないか、天然ボケが……」


 斎の冗談を真に受けてしまった未来。どうにか弁明するも、一度ついた鉄道オタクのイメージは時間内に払拭(ふっしょく)できなかったらしい。「趣味があるのは素敵だよ」と、笑顔で肯定していた。

 改札の前で手を振って、電車に乗ったみんなを見送る。ここから俺たちが住む町の最寄り駅まで四駅。一駅移動するのに二分から三分かかるとして、順調にいけばあいつらは十分前後で着く計算。


「未来さんよ、頑張ったら追い越せると思うか?」

「思う。でもキューブは禁止」

「わかってる。規則だからな」


 信号で捕まらないかどうか。体力よりもそっちが心配になるが、ケトを預かって走り出す。

 アスファルト舗装、砂利道。廃墟らしき建物は塀を飛び越えて、ほんの少しだけショートカット。

 揺れるのが嫌なのか、未来の首に巻きついていたおキクはキューブ内に戻っていった。


「隆、どうしよう。私……大変なことしちゃった」


 残り一駅ほどになったところで、顔面蒼白になった未来がブレーキをかけた。

 おいこら。止まってる時間すげぇもったいないぞ。


「どうした、なんだ大変なことって」

「私、みんなに伝えてない! 巻き込んでごめんなさいはもう言えないけど、そっちじゃなくて、独りの方がいいって言ったこと! 謝ろうと思ってたのに!」


「ああああっ!」と頭に手を当ててしゃがみ込む。

 独りの方がいい? いったい何の話かと今日の記憶を辿(たど)ってみると……ああ、そういや言ってた気がする。みんなを危険に晒すなら独りでいい、みたいなこと。未来だけでヘンメイへ挑みに行く前に。


「どうしよう隆っ!? あんなの本音じゃないのに、全然思ってないのに!!」

「わかったわかった、大丈夫だから落ち着け。全力で走ったらまだ追いつけるだろ? あいつらには直接言えばいいし、長谷川にはメールか電話で話せばいいから」


 正直、謝らなくていいとは思う。絶対みんな気にしてないし、忘れてる可能性もある。俺だって今思い出したくらいだ。

 だけど口に出した本人は気になるだろうから、伝えたい意思を尊重する。下を向く顔を上げさせて、安心できるように笑ってみせた。


「それよりさ。駅に着いて、みんなに謝ったらすぐ帰るぞ。いける気がする」

「えっ? いけるって、なにが?」

「ロボ凪さんとの鍛錬だよ。走って血流よくなったからか、すっげぇ良案が降ってきた」


 凪さんが遠征から帰ってくるまであと二日。

 明日は丸一日、鍛錬場に引きこもるつもりだったけど、今の調子と思考なら、もしかしたら。


「……ロボ凪さんの攻略法、わかった?」


 表情が変わる。不敵な笑みを浮かべる未来へ、俺は大きく頷いた。


()()()()()んだよ。凪さんが持ってる数え切れない戦術と、マダー歴十年の経験をさ」

【第一六八回 豆知識の彼女】

土屋家のお小遣いは月末に。父・克明から。


来月分のお小遣いがもらえるまでどうやらもう少しかかるようです。隆一郎はいったい何に使ってしまったのでしょうか。現在中学三年生の彼ですが、とある理由から貰ってる金額はかなり多いようです。未来さんも同額貰っているはずですが、なぜかおかしい財布の中身。……おーい、りゅーちゃん?


お読みいただきありがとうございました。


《次回 ラストスパート》

凪さん視点からお送りします。あいか先生もいらっしゃる様子。よろしくお願いいたします。

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