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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第二章 プレイゲーム
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第一六六話 メシ

前回、現実に帰ってきた隆と未来でした。

 挿絵(By みてみん)


「いーい食べっぷりだねぇみんな。ほれ、また完食だよ茜! よかったじゃないかー!」

「はいはい、わかったから恵子ちゃん。いちいち言わないでよ恥ずかしいなぁ」


 お盆いっぱいに皿を乗せた瀬戸が駆け回る。

 現在時刻は十九時ちょっと前。模擬大会中にまさかの事態で戦闘と避難、さらに敵の捜索と、疲労困憊だったマダーたちに与えられた至福の時。

 つまるところ、晩メシである。


「茜っち、アタシもなんか手伝おうか? さすがにこの人数だしキツいでしょ?」

「あは。だいじょーぶだいじょーぶ。大会のシーズンはいつもこんな感じだから慣れてるよ。それにほら、助っ人も一人いることだし」

「おおぃ瀬戸ぉおお! ワシにもメシを食わせちょくれ、腹が減っとるんじゃ!!」

「ノーノー。頑張ってきたみんなが先です。ほら、もっと動いて加藤〜」


 デカい図体に真っ白なエプロン、手には美味しそうな料理が乗った皿。腹からぐうぅ〜と音を鳴らしまくる加藤は、瀬戸に(たしな)められて「くそぅ」と嘘泣きをする。

 わるいな加藤。よく似合ってるぞ、そのバイト姿。


「伊崎と須田は? 朝は厨房にいたでしょ?」

「あー……うん。あの二人はねぇ」

「時間とか? もう夜だし」

「ううん、そうじゃないんだ」


 お手伝いの所在を聞いた長谷川は、訝しげな表情を浮かべる。机に並んだご馳走を口に運びながら返事を待った。


「……あんたといたら巻き込まれる、だってさ。死にたくないって。あは、完全に縁が切れたよ」


 力なく笑って、肩をすくめる瀬戸。

 友達をやめると先に言ったのは自分だけど、結局付かず離れずの関係になって、今度は相手から絶交宣言。

 誰だって死にたくはないだろうし、そう思ってしまうのも無理はない。けど……キツいな。


「茜っち……」

「あ、ごめんね気にしないで? 言われた時はさすがにムカっとしたけど、今は全然。むしろ清々してるから」


 言葉に詰まった長谷川へ、「それよりも!」と手が合わせられる。


「ほら、長谷川ももっと食べて。お昼の予定がおじゃんになっちゃったから、じゃあ晩ご飯にって恵子ちゃん食材買い足してきたんだ、消費してくれないと困るんだよー」


 俺たちが食べ終わった皿を器用に持った瀬戸は、颯爽と業務に戻る。テキパキと動く姿は慣れがあって、一人で何人分こなしているかわからないほどだった。


「……すごいなぁ」


 とてつもなく同感です。


「ってか、アンタらはもう少し落ち着いて食べなさいよ」


 それは無理、と言いたいがあいにく俺は返せない。きっとみんなも返せない。

 なぜならこれでもかってくらい口いっぱいに料理を突っ込んでいるから。

 今日しか食べられない特別メニュー。どの料理もめちゃくちゃうまいし限定だし、がっつかずにはいられないわけだ。


「へむんんふははへふはは、へむほんほっほ……」

「飲み込んで谷川。何言ってるかまったくわかんない」


 はー、と長谷川はため息をつく。現在食べ方が上品なのはこいつだけ。

 斎は見ての通りだけど、意外にも秀の箸がとどまるところを知らず、影響を受けているのか阿部の食べるスピードも早い。

 未来は食べるたびに顔をとろけさせてる。あれは多分、邪魔したら怒られるやつ。


 ――Death game(デスゲーム)から出てきて俺が起きたのがついさっき……ざっと三時間くらいか。みんな腹減ってたはずなのに、待っててくれたんだよなぁ。


 じーんとくる。ありがとう、みんな。おかげで賑やかなメシになりました。


「ぷはっ! でも喉詰まらせるから、全員ちょっと落ち着いた方がいいと思うぞ」

「どの口が言うんだか。水のおかわりは?」

「ください。サンキュー長谷川」


 水で流し込んで一応注意するものの、また箸を高速で動かし始める斎。締まらないなぁ。

 でもある程度の効果はあったらしい。食が最優先の未来と俺を除いて、みんなは食べながら話すようになった。


「そういえば阿部。あの時どこからゲームに入ってきたの?」


「うん? あの時って?」


「僕らが国生先生と通話してた時の……」


「ああ。あれよ加奈。『おまたせしました、皆さん待望の阿部ちゃんですっ、どどん!』」


「やだっ、凛ちゃんなんで覚えてるの!? もう忘れてよぉ!」


「強烈すぎて忘れられないわ。驚いたけど、それ以上にすごく癒されたし」


「僕も。大丈夫だって元気に言ってくれて本当に嬉しかった。ありがとね」


 秀の言葉は予想外だったのか、長谷川に抗議しようとした阿部がフリーズする。

 五秒、十秒、二十秒。瞬きもせずに秀を見続ける。

 対する秀はデミグラスソースのハンバーグにサラダ、スープと満遍なく食べ続けていて、阿部の熱い視線には一切気付かない。

 ごめん阿部。俺ちょっと笑いそうだ。


「考えられるとしたら……そうだな。国生先生の力を借りたとか?」


「あっ。谷川君、正解〜! 行かせてくださいってこっそりお願いしたら、『いいですよ』ってキューブを使ってくれたの」


「センセーも策士ねぇ。キューブの文字は?」


「知ってる、知らないの『知』! 今回使ってもらったのは【()(みち)()る】。『抜け道』の部分を変えたら何でもわかるみたいだよ〜」


「ん、それじゃないか? ゲーム内の映像は見られなかったはずの先生が、なんでか全部知ってたの。【光景(こうけい)()る】とか、【情景(じょうけい)()る】みたいな技名の何か!」


「あれだけ働いてもまだ頭が回るんじゃのう、お主は。ほれ、『唐揚げの神盛り三種』とおまけのポテトサラダ」


 揚げたてのうまそうな匂いが近付いてきて、斎の前へ丁寧に置かれる。加藤が持ってきたのは鶏ももと手羽先、手羽元の三種に恵子おばちゃん秘伝の味付けが施された超豪華版サクサク唐揚げ。

 いいなぁ、俺も頼もう。今食べてる『特盛り極上ロコモコ』と『とろ〜りチーズのベーコン巻きポテト』が終わったら。


「ちなみに【光景(こうけい)()る】が正解じゃ。実際に見えとったのは国生先生だけじゃったけどな」


「へぇ、全員が見えるわけじゃないのね?」


「できんことはないが負担が大きいらしい。通話を終えてからは産月っちゅーのを全都道府県、探しとったから、できるだけ消費を抑えたかったんじゃろ」


「情報量エグいもんな。ガラス玉を回収してからは姿も見えねーし、今は休んでるか?」


「ああいや、確か弥重先輩と話してくるっちゅーて、ついさっき……」


「ちょっと加藤ー! 喋ってないで、皿洗い手伝ってー!」


「あいよぉー!! くそぉ、瀬戸は人使いが荒いのう……」


 話し足りない加藤は渋々厨房へと戻っていく。軽く愚痴を吐いていたが、俺たちの食べ終わった皿も一緒に下げていくあたり真面目だ。


「そっか、弥重先輩のとこか。いいなぁ、俺も連れてってほしかった……」

「相変わらず好きねぇ弥重先輩のこと。やめときな、遠征先はヤバいんだから。今回みたいに死んでも大丈夫なわけじゃないんだよ?」


 凪さんに会いたくてたまらない斎を長谷川が暗い表情で制する。

 俺と未来は経験しないで済んだが、やっぱり死の感覚は怖かったんだろう。全員の箸が止まる。

 阿部は自分の首にそっと手を当てた。


「……加奈子。ちゃんと病院に行って。加奈子はきっと、みんなよりも精神ダメージが大きいはずだから」


 食の幸せ空間から戻ってきた未来が、阿部に願う。眉尻の下がった顔で「本当にごめんなさい」と謝るも、なぜか阿部は口をとがらせた。


「ふぅ〜ん。ねぇ未来ちゃん。お寿司、決定だね?」

「え? お寿司って――」

「私言ったよ〜、未来ちゃんの悪い癖だって。まだ謝るならお寿司でも奢ってもらうからって、ちゃーんと言ったはずだよ〜」


 にこり。いつもの阿部ちゃんスマイルじゃない、癒し皆無の真っ黒な笑み。

 謝るなと言われていたことをようやく思い出したらしい未来は、しまったと手で口を覆った。


「あーあ、未来ちゃん言っちゃった〜」

「ごめ……あ、違う、えっと、どうしよう。お寿司って初めてで……お年玉の残りで足りる?」

「ムリよ未来ちー。加奈の胃はブラックホールだから、お年玉がいくらあっても破産確定」

「失礼な〜! ちゃんと我慢できるもん、任せて!」


 話しながら『至高のがっつり1ポンドステーキ(約453g)』を食べ切る阿部。お前、本当に我慢できるか? さっきグラタンとオムレツ、あと山盛りのサラダも食べてた気がするけど、俺の見間違いか?


「でもね? あれは未来ちゃんに謝らないでほしくて言っただけだから、奢りとかは別にいらないの。代わりにみんなで食べに行こう? 初めてなら特に!」

「いいねそれ、さんせーい。全員来るっしょ?」

「いいなぁ寿司。俺も行くー。けどまずは病院な。そうじゃないと秀がずっと心配してるから」


 色んな人に催促される阿部は、斎と同時に秀を見る。

 今度は視線に気付く秀も、「不安なら一緒に行くよ」とだけ言って、斎の言葉を否定しなかった。


「えへへ……ありがとう」


 阿部は顔をほころばせる。お互いの予定を照らし合わせて、明日の午前に行くと決定した。


「ねぇ、現実とゲームは結びついてなかったんだよね? でも私がキューブで見た加奈子の状態は、『正常』じゃなくて『出血』になってた。だから不安が拭えなかったんだけど……本当に怪我してないの? まったく? 痛くない?」


 食い気味に尋ねる未来の様子に、言われてみれば確かにと思う。

 表示が『死亡』になってなくて安心したし、ゲームオーバー、イコール死じゃないとわかって、よりホッとした。

 だけど現実に影響を及ぼさないならあの表示は辻褄が合わない。何かしらの理由はあるはずだ。


「あー……えっとね。加藤君がどうしても私を行かせたがらなかった理由がそれなんだよね〜」


 困り顔で笑いながら、体勢を変えた阿部はみんなに右膝を見せる。そこにはなんと。大きな四角い絆創膏が貼られていた。


「うわぁ!! どうしたの加奈、それ絶対痛いじゃん!」

「うん、触ったら痛いよ〜。あのね? 首がスパーンってなって、怖くてね。ぎゃーって叫んじゃったの。それでクマの機械から慌てて飛び出して、そしたら派手に転んじゃって〜」


 席を立って、ドアを開けるシーンから再現してくれる。もしパニックになった状態で今の動きをしたのだとしたら、絆創膏の下はかなり大きな擦り傷だろう。痛そうなこけ方だった。


「おかげで私は平常心を取り戻せたわけなんだけど、一部始終を見ていた加藤君に『絶対ゲームには戻らせん!』って拒否されてね。でもやっぱり行きたかったからどうにかできないかなぁって思って、国生先生にお願いして、さっきの話に繋がるの〜」


「なるほど、そういう経緯かぁ。そりゃ加藤もダメって言うよな」


 斎の納得に、うんうんと首を振る面々。

 厨房から食器が割れる音と瀬戸の怒号が聞こえてくるのは空耳として、面倒見のいい加藤はそう簡単におーけーとは言わないだろう。取り乱した姿を見たなら尚更だ。


「……土屋。それって何皿め?」

「わかんねぇ。秀は?」

「土屋の三分の一くらいだと思うよ」


 食べ始めてから約一時間。話を振られなかったのもあるが、ようやく喋った俺に秀は呆れているらしい。

 でもしょうがねぇだろ。腹減ってたし、とにかくめちゃくちゃうまいんだから。

【第一六六回 豆知識の彼女】

普段と比べて加奈子に向けた会話が多いのは、元気な姿に安心しているから。


どれだけ大丈夫とわかっていても顔を合わせていたのはゲームの中だったので、本物の阿部ちゃんがとても元気でみんなうれしくてホッとしていたようです。

癒しの阿部ちゃんスマイル、健在!


お読みいただきありがとうございました。


《次回 模擬大会の結果と伝え忘れ》

未来から見ると、絶対に伝え忘れてはいけないこと。

またよろしくお願いします!

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