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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第二章 プレイゲーム
163/286

第一五九話 戦略家は笑う。

前回、ヘンメイが笑いました。

 挿絵(By みてみん)


「えっ?」


 お礼を言われた。いや、協力いただいてって、俺たちは何もしてないけど。というかむしろ逆らってるはずなんだけど?


『キヒヒヒヒヒッ!』

「いっ……!!」


 横腹に斬撃。

 ヘンメイの朗笑(ろうしょう)なんてつかの間。またすぐに殺気を撒き散らして、防御のために横向きに持っていた槍を上手く躱され攻撃を受ける。

 でも【防御(プロテクション)】でゲームの表現が通常通りに戻されたのかもしれない。《ヒット》と表示されるだけでもう血の描写は映らず、体力ゲージもほんの少し減るだけで済んだ。


『ふふふ。皆さんが素直でわがままなおかげですねぇ。いえ、間違いなく反発すると思いましたけど、ええ、でも……ふ、ふふ』

「せ、先生どうして笑ってるの! 予想通りってどういうことですか〜っ!」


 それでも【痛み無し(ノーペイン)】をかけてくれる阿部は、多分全員が言いたいであろうことを焦ったように尋ねる。

 先生はなぜか我慢するように笑い続けているが俺たちの誰もその理由がわからない。

 なんだよ。俺ら必死なのに、なに笑ってんだよ!?


『ふふ。まさかこのわたしが、何も考えずにあなたたちを煽っていたとでも? 心外ですねぇ。わたしの得意分野をお忘れのようで』


「得意分野って……っ!」


 未来が刀で薙ぐ。

 後ろへ飛び退いて躱したヘンメイが将棋の駒の上に着地。瞬間――カツンッ!

 乾いた音を鳴らしてその駒が俺たちの方へ前進する。

 一マスこちらへ近付いたヘンメイは、頬を赤く染めていた。


『ア、そぼ。あ……ソ、ボ』

「え……」


 槍を持つ俺の指が、ピクリと動く。

 歯が見えたのだ。無邪気な笑顔を携えて、ヘンメイがまた言葉を話し始めたのだ。

 ケトよりもぎこちない言葉を使って、自分が乗っている駒をトントンと叩いて。

 まるで、言葉を覚え始めた小さな子どものように。

 ヘンメイは、繰り返し繰り返し、一緒に遊ぼうと俺たちを誘っていた。


「……『戦略家』。なるほどね、僕らはどうやっても国生先生の思惑通りに動いてしまうわけだ」

『お褒めの言葉ありがとうございます、秋月くん。けれど、言ったでしょう? ()()()()()になりそうだと』


 先生はまた自信たっぷりにふふと笑う。

 そういえば未来が言っていた。

 このひと確か、戦術を考えるのが得意なんだっけ。

 つまり、誘導された?

 未来が討伐の必要性を聞いたことで、引き締められた俺たちの雰囲気を緩めるように。ヘンメイの中の何かを変えるために。

 納得しない、否定されるとわかった上で、敢えて厳しい大人の理論をぶつけてきやがったのか?


『あそ、ボ。アソォオオオオっ!!』

「いいぃっ!? 正気に戻ったわけじゃないんだな!?」


 叫びながら、走って駒をいくつか渡ったヘンメイが斎へ突進。剣が突き出された。


「【種皮(たて)】!」


 未来が斎とヘンメイの間に盾を生成。

 その強すぎる力でバリィッと音を出して破られるも、斎の鼻先スレスレで止まる。


「んのやろっ、【火の粉(スパークス)】!」


 攻撃していいかはわからない。ヘンメイの目の前へ火の粉を散らし、後退させることで斎との距離を遠ざける。


「さ、サンキュ、二人ともっ」

「いい。パワーも健在だな!」

「ん。【防御(プロテクション)】があっても追いつかないっ! あいか先生、作戦があるなら指示をください!」

『あらあらぁ? (てのひら)くるり未来さん。勝手もいいところですねぇ』

「もういいってセンセー!!」

『はいはい、大人げないことはやめにしましょう。長谷川さんに怒られるのは司令官より怖そうですからね』


 長谷川の顔が見えているのか見えていないのか、従順になる先生。

 その声が、今まで聞いたことがないくらい、諭すような静かな声に変わった。


『彼女を正気に戻し、かつ心残りがないようお話を聞きたいなら……名前を呼んであげてください。全力で戦って、笑わせてあげてください。それ以外に方法などありませんよ』

「えっ……国生先生!?」


 プツンと音がする。

 通話が切れたっぽい、返事がない。

 どういうことだ。ここまで引っ張っておいて、もうこれ以上は手助けしませんよとでも言いたいのか。

 名前を呼ぶのはなんとなくわかる。大事だよな。

 でも他の二つは?

 戦え? 笑わせろ?

 もうちょい詳しく説明しろ先生!?


「隆、頭っ!」

「いっ……!?」


 反射的にしゃがむ。

 すると、スパッと、今自分の頭があった位置から空気の裂ける音がした。

 斬られても死なないのはわかってる。けど避けなければ、いま頭上にあるその剣が俺の脳を真っ二つにしていたに違いない。

 なんて恐ろしい。


(こえ)ぇよヘンメイ! あんま危ない攻撃しないでくれ!?」

「いいよヘンメイ! 土屋に遠慮せずもっとやっていい。なんなら坊主にしちゃってもいいよ!」

「なに言ってくれてんだよ秀君は!?」


 ぐっと親指を立てる秀。

 おいおい、言われた通り笑わせようとしてるだけだよな? そうだよな?

 まさか本気でハゲにしようとかそんな魂胆じゃねぇよな秀さん!?


「そうねぇ、確かにつっちーいつも髪ぼさっとしてるしさ。ダサーイ髪型を変えるって意味合いも込めて、やっちゃっていいよヘンメイ!」

「黙れ長谷川ぁああっ!!」

『きゃはっ、きゃははっ!』


 げ、ヘンメイのやつ大笑いしてやがる。なんだ、面白かったのか? 楽しんでもらえたならそりゃ良かっ……いや違う、今のツッコミどころはそこじゃない! 妙にノリが良すぎるこいつらだ!!


『ちょっと秋月っ、アタシも咄嗟に言っちゃったけどさ、今のちゃんと意味があるんでしょうね!?』

『当たり前でしょう。こんな大事な場面で、必要のない弄りなんて僕がすると思う?』


 ヘンメイから距離を取り、俺が説教の準備を始めたところで、通信機からしか聞こえない囁き声の確認が行われた。

 秀は誰より先に何かに気付いたらしく、相手の動きに注意しながら聞けと俺たちを制止させる。


『過程はよく視えないけど、僕の【可視化(アイスコンタクト)】もそれでいいって言ってる。それが最善だって、一番可能性がある未来(みらい)を映してる』

「可能性って……さっき言ってた、笑わせたらいいって話か?」

『そう。国生先生あんな感じだったけど、一応本部の中では上の方のひとなんだよ。腹黒いのはいつものこと。でも下手な嘘は絶対に言わない、信じていい』


 秀の説明にそうだったの? と聞き返す阿部へ、『研究関連でもお世話になるからな』と斎が説得力のある付け足しをした。

 サポートに徹するためどこかに身を潜めているらしく、姿は見えないものの、先生が本部の人と知らず驚いているのは声でもよくわかる。

 俺も少し前に知ったところだからさ。その気持ちよくわかるぞ、阿部。


『あいか先生と秀、両方からのお墨付きか。なら私たちも全力でやるしかないね』

『だね。いじられ役はよろしく、つっちー』

「てめぇ長谷川……単にからかいてぇだけだろうが」

『てへ? でも一番適任だからさ。頼むよ』


 俺を見るなり軽くウインクをしてくる長谷川。だけど声だけは真剣で、おふざけじゃないのは確かだった。


「……俺が返せる程度にしてくれよ」


 自然と口角が上がる。

 正解かどうかは最後までわからない。けどさっきと比べたら、確実にいい方向へ進んでる。

 阿部が伝えてくれたように、ここで()られたとしても別に死にやしないんだ。

 なら、いつもみたいに真面目くさって戦わなくてもいいのかもしれない!


「ああそうそう、さっきの話だけどさ? 髪セットするなら俺の髪ゴムやるよ。まだ二つ余ってるからさ」

「いいじゃん谷川! さすがに今は持ってない? 持ってんならやってみよーよ、ツインテールにでもすりゃ、このダサさも可愛いに変わるって!」

「黙れこらぁあああ!!」

『くふっ、くふふふっ!』


 ムードメーカー兼話題メーカーの斎。俺がキレそうな話をすぐに作りだせるのはさすがだと思う。

 笑いのツボは浅いらしく、ちょっと激しく怒っただけでもヘンメイは笑ってくれた。

 嬉しいやら悲しいやら、よもやいじられキャラがこんな形で役に立つとは思わなかったが、とにかくこのまま笑いをとって様子を窺いながら、


「って、うおっ!」

「わお!?」


 剣を投げられ間一髪で躱す。

 一つ隣のマスにある《香車(きょうしゃ)》に飛び乗ったヘンメイが、カカカカッ! と軽い音を鳴らしてこちらへ真っ直ぐ攻めてきた。


『ふふふ、へへぇ!』

「なるほど? 楽しいだけじゃ嫌か。戦いながら楽しいもやれって言いてぇんだな、お前は」


 そうだ、先生は戦えとも言っていた。どちらかだけではダメなんだろう。

 ヘンメイから剣が振るわれる。

 回避のため、そして、見た感じこれを使ってやるのがこいつは一番嬉しいんだろうと踏んで、真横にある将棋の駒へ乗ってみた。

 書かれた文字は、《銀将(ぎんしょう)》。


「お、おおっ!」


 乗った瞬間、駒が飛び跳ねるようにして斜め後ろへ一マス後退。間一髪だったが攻撃を避けることに成功する。


「隆、将棋のルールわかるの!?」

「なんとなくしかわかんねぇ! けど見る限りは、乗ったらその駒に合わせて動くんだよな!」

「そう!」

「了解、それだけわかったらどうにかなる!」


 さっきの大砲のエネルギーからきた衝撃で、ひっくり返ったり吹っ飛んだりしてる将棋の駒。

 確か相手と向かい合うようにして並べるはずだけど、そのせいで斜めだったり横向きになったりしてる。


 ――何度か動かせば何がどう動くかしっかり把握できるか? けど……。


 さすがにこのままだと覚えづらい。あと思わぬ方向に動く可能性もあるから、それも避けるべき。なら、


「【難燃の紐(ストリング)】!」


 燃えない紐を作り出して最大限に伸ばす。

 部屋いっぱいに広がる赤い紐を駆使して、変な方へ向いた駒を通常通りに戻してやる。


「おお、わかりやすくなったな!」

「だろ? 斎は将棋のルールわかるのか……って、ん?」


 ヘンメイが、じろり。急に未来を睨みつけた。

【第一五九回 豆知識の彼女】

ダサいと言われた隆一郎、実はちょっと傷ついた。


作者が一番驚いているんですが、隆の髪型って「赤っぽい」以外にしっかり決まっていないんです。


未来さんは黒髪ロングの前髪は左流し。

斎は茶髪で前髪を星のゴムで上げている。

秀は長めの黒髪天然パーマ。

凛子様は黒髪、シュシュで横に一つ結び。

阿部ちゃんは栗色のセミロング。

加藤は明るめの襟足を刈り上げた短髪。


更に高校生組を追加すると、

凪さんは金髪に近い茶色のサラサラヘア。

流星は染めていて、銀髪で横髪が長い。

湊はおかっぱ。赤とブラウンのメッシュあり。


隆の髪を設定してないのは、所謂おしゃれに興味が無いから。です。そんなわけで、そのうち髪型が決まる予定。どこでその話題にしようかはまだ悩み中です。


ちょいと長いお知らせでした。

お読みいただきありがとうございます。


《次回 自我へ導くのは》

ヘンメイに睨まれた理由、笑いとバトル。

よろしくお願いいたします。

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