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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第二章 プレイゲーム
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第一五七話 ありったけの癒し

前回、国生先生と凪さんから電話でした。

 挿絵(By みてみん)


「弥重先輩……あの、阿部は?」


 秀が視線を下にして、小さな声で尋ねる。

 未来が受けてくれているエネルギーの音で、かき消されてしまいそうな声量だけど、凪さんはきちんと拾ってくれた。


『阿部さんは――』

「ここ、ですっ!」


 秀の不安へ応えるように、凪さんの返事に被るように。

 突として、可愛らしい声が飛んできた。


「おまたせしました、皆さん待望の阿部ちゃんですっ、どどん!」


 しん。と静かになる。

 みんなの視線が声の主へ注がれる。

 どこから出てきたのか栗色のセミロングの髪を靡かせて、俺の真後ろにシュタンッ! と軽やかに着地した人物。

 彼女、阿部加奈子は、みんなが驚く中さながら体操選手のようにバンザイをして、自身の登場を強調してみせた。


『……うん。ちょっと想定外だけど、そこにいるのが確たる証拠です』


 声から状況を悟ったのか、凪さんはそれ以上何も言わなかった。

 俺たちもまだ何も言えない。

 目の前にいる元気いっぱいの姿に当惑して、いや、とてつもなく嬉しいのは事実なんだけど、あまりの唐突さや阿部ってこんなこと言うキャラだっけ? なんて(かす)かな疑問と、今までいなかったのにホントにどこから出てきたのかがさっぱりわからないときて、とにかく、マジで、頭がフリーズしていた。


「……ご」


 なんか喋った。


「ごめんなさい、ごめんなさいっ! ああああの、みんな、怖い顔してたからちょっとでも緊張をほぐそうと思って、そのっ、心配かけてごめんねって意味合いも込めて、加奈ちゃんとどっちの方が笑わせられるかなって、その、あのっ……!」


『くぉら、阿部ぇえええッ!! なに勝手にゲーム入っとるんじゃ、精神科に行けって司令官さんに言われとったじゃろがぁあああっ!!』


「わぁああごめんね加藤君! 早く加勢に来たかったの、許して!」


『お茶目ですねぇ阿部さんは。で、加藤くんは通信機をとらないでください?』


『返しちょくれ先生!』


『あっ!』


『あのなぁ阿部! ワシはお前を心配しとるんじゃ! Death game(デスゲーム)には入れんよう目を光らせとったのに上手くすり抜けおって! 大丈夫かわからんからまだやめとけって()うたじゃろ、今すぐ帰ってこいッ!!』


 激しい怒号と謝罪、とるな返せのワードが飛び交って、大声も相まって耳が痛い。つい通信機を外して声から距離をとる。


『大丈夫ですよぉ、見るからに元気じゃないですか。ほらほら、早く返してください?』


「そうだよ加藤君、私は大丈夫! ゲーム内で首を切られても現実に影響があるわけじゃないってわかったから、もう平気!」


『平気かわからんから診てもらえって言われたんじゃろがっ!! さっさと戻ってこい!!』


「だからぁーっ!」


 わからない。何ひとつわからない。

 俺たちは放置で三人の会話はどんどん進んでいく。

 一貫しているのは阿部のココロの心配。首を切られたから診てもらえ、とのこと。

 首、首と何度も聞いたせいで、当たり前だけど、俺の頭にはその瞬間が見事にフラッシュバックする。

 見えないほどのスピードで俺の真横に現れたヘンメイが、阿部を鋭利なもので斬って、体力ゲージを0にされて、白い陶器のようになってバラけたあの情景が。

 死んだと思い込んでしまったあの耐え難い映像が。


「か、加奈? 現実には影響しないって……どういう?」

『あら長谷川さん。もしや皆さんも、そこで死んだらリアルでも死ぬと思っていますかぁ?』


 言い争っている阿部の代わりに先生が問い返してくる。だけど加藤の声は聞こえたまま。

 どうやら新しく通信機を用意したらしく、そうとしか思っていない俺たちを先生は小馬鹿にする。


『まさかまさか〜。特訓用とはいえ、そんな危ないゲームを本部が作らせるわけないじゃないですかぁ』


「やっ、でもアタシらは実際にっ!」


『殺された大学生の二人なら、既に死んでいましたよぉ。ヘンメイはゲーム内で殺したのではなく、現実の世界で瀕死状態にしてから無理やりDeath game(デスゲーム)にインさせて、自然に死ぬまで甚振(いたぶ)っていたのです。死を偽造して、あなたたちの動揺を楽しむというのもなかなかに悪趣味ですけれど……それも操られていた影響と信じたいですねぇ』


 Death game(デスゲーム)と現実をリンクさせるなんて、例え死人でもできないよう整備していると、先生は自信たっぷりに答える。

 聞けば、このシステムをゲーム会社に考案したのは結衣博士なんだそう。学者ファミリー恐ろしい。


「阿部……だい、じょうぶなの?」


 元々静かな声が、掠れのせいで更に聞き取りづらくなる。

 そんな秀の声でも聞き取って、加藤との言い合いを無理やり終わらせた阿部はニコニコ笑顔で振り向いた。


「大丈夫っ! 現実に戻った時はさすがに怖かったけど、血も出てないし首も繋がってた。だからもう平気!」


「心配かけてごめんなさい!」そう頭を下げる阿部を斎と長谷川が慌てて止める。自分を回復したせいで、と(しぼ)む秀を阿部が止めに入って、私が上手くしなかったからと今度は阿部の方がワタワタし始めて。


 ――やべ……こんな状況なのに、すげぇ安心する。


 明るいみんなの様子が一時的に現実を忘れさせる。

 いつもの日常が帰ってきたような気がした。


「……良かった」


 未来の小さな呟き。

木製銃(もくせいじゅう)】で俺たちを守り続けてくれている未来は、こちらを向けないから視線が前方のまま。

 阿部の元気な姿を見たいだろうに、申し訳ない。


「なぁ未来。阿部が大丈夫だって、どれくらい確証を持ってたんだ」


 顔を寄せて、こっそり聞いてみる。

 誰より早く気付いていた未来の思考をどうしても知りたくて。


「九十パーセントくらいかな。だって今の私は体力2しかないじゃない? 現実と本当に連動してるなら、死にかけの状態で話したり動いたりできないと思うもん」


 ゲームと現実の感覚は、戦っている最中でも少し違った。なら、ここで受けた怪我が現実で起こるとしても、脳か心臓を潰されない限りは平気だろうと考えていたらしい。

 そう言われると……確かに。そうも思えてくる。

 今の攻撃は体ごと吹っ飛ばされる可能性があったから全力で守ったけど、と付け足した未来は、わいわい中のみんなへ一言断りをいれる。

「加奈子」と阿部を呼んだ。


「ごめんなさい。私のせいで、怖い思いをさせた。本当に……ごめんなさい」


 少し俯く。

 頭のてっぺんが前に向き始めた未来へ、謝られた阿部は黙って近寄った。

 手が未来の背中に添えられる。


「仕方ないな〜、未来ちゃんは」


 阿部がそう言った瞬間――ギュウンッ!!

木製銃(もくせいじゅう)】の力が倍増する。エネルギーの吸収で精一杯だった二丁のライフルは、出力源である大砲までも容易く吸い取った。


「……へ?」


 未来の素っ頓狂な声。

 俺もみんなも口を大きく開ける。

 攻撃の全てがライフルの中へ収まって、周囲に広がるのは静寂。

 銀一色だった視界に、久しく他の色を見る。

 右目に槍が刺さったままのヘンメイは、理性を失っているにも関わらず、驚きから挙動をおかしくしていた。


「ぜーんぶ自分のせいにしちゃうのは、未来ちゃんの悪い癖。まだ謝るならお寿司でも奢ってもらうから、もう謝らないでね?」


 謎の約束を取り付けた阿部は腰に手を当てる。

 よく使う【防御(プロテクション)】、【アビリティ】、【クイック】の三つ、更に【痛み無し(ノーペイン)】と技名をリズム良く言葉にして、全員の目の前に《体力回復》のパネルが出現する。

 未来の体にあった沢山の怪我も一瞬で消えたのがわかった。

 知ってる。阿部のサポートがすごいのはもちろん知ってる。優秀なのは言うまでもない。

 ただ、半端ない。それ以外になんて言えばいい?

 なんだろう。強いて言うなら神か。神なのか。


「頭が上がらないよ……加奈子には」


 上昇し続ける俺のテンションを言葉に変えて伝えてくれた未来は、右手の【朝顔(あさがお)】の蔓を解く。

木製銃(もくせいじゅう)】を持ったまま右耳に触れて数秒。何かを確認してから、初めて阿部の顔を見た。


「加奈子。ありがとう」


 再度、ライフルの側面を突き合わせる。パンパンに膨れ上がった二丁を融合して、大きな銃に変形させた。


「【木製銃(もくせいじゅう)】」


 撃つ。ヘンメイから貰ったエネルギーを、『だだだだだ』の連射に変えて。

 部屋が大きく揺れる。眩いライトがチカチカと点滅する。

 毎秒あたり何発撃っているのかわからない銀の弾は、阿部の補助によって一層強烈になって撃ち込まれた。

【第一五七回 豆知識の彼女】

加奈子が未来へ最初にかけたのは【防御(プロテクション)


木製銃(もくせいじゅう)】は攻撃あり防御ありですが、今は吸い込んでいる状態なので防御型の付加効果がいいとの判断だったようです。


お久しぶりにみんな揃いました。こうしてみるとみんなとっても元気いっぱいなのですね。明るく元気。うむ。若者はいいなぁ!


お読みいただきありがとうございました。


《次回 俺たちのわがまま》

大人の事情なんて知りません。だって子どもだもの。

よろしくお願いいたします。

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