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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第一章 転校生
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第十三話 谷川斎②

前回、凛子は派手ギャルを卒業しました。

 挿絵(By みてみん)


 昼休み、長谷川やほかのクラスメートとの食事を終えた未来が泣きそうな顔で俺に助けを求めてきた。今まで人と話してこなかったのに大勢の人とのご飯がしんどかったのだろうか。それとも質問攻めにあったんだろうか。


「どうした未来」


 俺が尋ねると未来の目に涙が溢れてきた。

 よっぽどつらいことがあったのか? 

 まだ安心せずにちゃんと目を光らせているべきだっただろうか。

 とにかく涙が流れないよう指で拭ってやる。


(りん)ちゃんがいきなり塗ってきた!」


 ん? 


「つっちー仕方ないんだって! アタシは未来ちんのためを思ってしたんだよ!」


 お、おお? 


「自分でしみるから覚悟しろ()うといてこんな不意打ちせんといてや!」


 俺を間に挟んで二人がギャーギャーと言い争っている。

 その言っては言い返しの攻防を聞きながら、結局何を言っているのかを考えた。


「もともと痛かったのに余計に痛くなったやんか!」

「だからアタシは最初にしみるから覚悟しろって」

「やから不意打ちせんといてって言ってんよ!」


 えーっとつまりあれか。今朝の克復軟膏を遠慮のかたまりみたいな未来が受け取ってくれないから、長谷川が勝手に塗ったと。塗るって教えたらまた「貰えないよ」とかなんとかで断るだろうから、気付かれないようにこっそりと、素早く。

 そしたらしみて痛かったんだな。


 いや、言葉ではどうとでも言えるけどそれって並大抵のことじゃないぞ。

 あいつ怪我のところ包帯巻いてるんだ。しかもその下にはガーゼが貼られていたはずだ。

 それを気付かれないように取って塗った? 例え未来が何か考え事をしていてぼんやりしていたとしても、普通痛みを感じる前にわかるだろう。


「なんであんなにしゅばばってできるんよ! キューブも使ってへんのに!」

「えっ? そこはほら、アタシの特技というか努力の賜物というかさー」


 軽く怒りながらも自覚なしに褒めている未来に、長谷川はほんのり照れながら答えていた。

 だけどこれ以上ヒートアップすると収拾がつかなくなりそうだから、宥めるように未来の頭を撫でた。すると、周りにいるクラスメートが子どもみたいと笑う。

 あんまり目立つことすると友だち作りにくくなるか。


「馴染んでるね」


 未来からぱっと手を離して、斎と一緒に机を囲んでいた秀に「そうだな」と返事をする。

 改めてクラスの様子を見てみれば、未来の周りにクラスメートの大半が集まっていた。今までのあいつからしたらきっと考えられないことだろう。


「嫉妬すんなよ!」

「だーッ! してねーわ!」


 髪がぐしゃぐしゃになるぐらい斎が俺の頭を撫でてきた。にししと笑いながら。

 そりゃ可愛い幼なじみが今までみたいに隆、隆ってすぐ来てくれなくなったら寂しいし悲しいけどさ。頼られたいけどさ。


「土屋、ブフッ、心の声出てるぞ」

「……は?」


 斎の抑えきれていない笑い声になんのことだと顔を向けようとすると、騒いでいた未来と目が合った。なぜか、赤い顔でこっちを見ている。

 どうも嫌な予感がして俺は顔を上に向けた。


「……おい」


 地獄があった。未来が可愛いやら頼られたいやらの願望が、つまり今心の中で考えていた俺の思考全てが、文字になって浮かんでる。漫画のセリフみたいに吹き出しの中に『可愛い幼なじみ』って書いて、考えてないはずのハートマークまで付けられて。

 ――こんな芸当ができるやつは、あいつしかいない。


「阿部! 何すんだよおお!」


 教室の窓際で一人くすくす笑う阿部加奈子に叫んだ。

 恥ずい。恥ずかしすぎる。周りがヒューヒューとか言ってくる。黙れ。未来も恥ずかしがるな。

 俺の心の声を具現化しやがったのは、同じくマダーである阿部の能力。本当にキューブの能力っていうのは幅が広いと思う。


 俺は『炎』未来は『樹』みたいな、キューブによって左の手のひらに刻印される文字があって、その文字から連想、発想できるものであれば何でも作り出せる。

 簡単に言ってしまえば連想ゲームみたいなものだ。

 しかも作った物体を粒子状に分解して、跡形もなく消し去ったりもできる超優れもの。


 わかりやすくて、それでいて可能性が無限大。それがキューブ。


 だけどこれについては阿部本人も何が主体の能力なのかよくわかってないらしい。文字こそ俺は知らないが、俺らみたいにわかりやすいもんじゃないことは確かだ。

 だからこそ、阿部。お前のこれはすごいと思う。だけどな。


「やめやがれー!!」


 俺の心の声を表示し続ける阿部に抗議する。

 笑い続けるクラスメート。

 真っ赤な未来と、ニヤニヤする斎と長谷川。

 秀だけは可哀想なものを見るような目をして。

 悲しいことに、俺の主張は騒がしいみんなの声で虚しく掻き消されてしまっていた。

【第十三回 豆知識の彼女】

中二病になればなるほどマダーは強くなる。


キューブについての説明がさらっとありましたが、連想できるなら何でもOKです。

言葉でも、漢字でも、黄色→バナナみたいなものでもOKということですね。


お読みいただきありがとうございました。


《次回 谷川斎③》

隆一郎が、未来をとある場所へと連れていきます。

よろしくお願いいたします。

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