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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第二章 プレイゲーム
159/286

第一五五話 ハズレ⑧

前回、心臓と息を止められました。

 挿絵(By みてみん)


「――っひゅ、げっほ、え、げほっ!」


 肘と拳まで床につく。

 苦しい。咳が止まらない。

 未来が何をしてくれたのかはわからない。

 だけど呼吸が再開して、鼓動も戻ってくる。

 キューブの恩恵も助けてくれたんだろう、素体だったら声も出せずに死んでいた。


 ――立て。立て、立て、立て! 咳はしばらく止まらない、思考も今はいらない。無視しろ、奴を倒せ!!


 体は悲鳴を上げている。だけど今倒さなければ、また白黒の世界で呼吸と心臓を止められる。

 自分の体力ゲージが恐ろしく減っているのを確認。きっとみんなも同じくらい減少させられただろう。

 だとすれば、先に大ダメージを食らっていた未来をこれ以上戦わせられない。


「ゲフッ、はな、び!」


花火(はなび)】の力を借りて立ち上がる。

 青くなった部屋の床を乱暴に蹴る。みんなの呼吸を後ろに死人目掛けて走った。


「りゅ、ッそれ、踏むな!」


 喉を詰まらせた、危険を知らせる叫び。

 前方にある将棋の駒のことだと判断、条件反射で片手を駒の端に着く。

 微妙に動いたような気持ち悪さを感じながら前に回るようにしてジャンプ、死人の前に躍り出た。


 ――【大賢(たいけん)(やり)】!!


 最高峰の防御を誇る【回禄(かいろく)】を纏わせた、攻防一体の槍を作り出す。

 穂を鋭利に変形させて、理性を失ったままの死人に横薙ぎした。


『ァ、アアアアアアッ!!』

「ちぃっ……!」


 耳障りな咆哮。

 剣を作りもせず腕でガードされる。

 奴の白目に書かれた文字がまた赤く光った。


 ――二度目はねぇよっ! 【火の粉(スパークス)】!


 部屋が再度モノクロに変えられたのとほぼ同時、死人の目の前に火の粉を撒き散らした。

 奴は反射で瞼を閉じる。

 ほぼ確証を得ていたが、色の無い世界はこのREVERSAL(リバーサル)の明暗と連動しているらしい。部屋本来の色彩が戻ってくる。

 なら目を潰すのが最優先! 槍を強引に退けようとする腕を、柄を回して逆に払い除ける。

 死人の右目に狙いを定め、重心をかけて奥深く突き刺した。


『ギ、ィアアアッ、ダアアア!!』

「ふぐっ……!」


 横腹に裏拳が入る。

 鉄球をぶつけられたような感覚。こんなの受けて、未来がボロボロにならないわけがない。

 悲鳴を上げた死人から更に殴られる。

 みんなのいるところまで吹っ飛ばされた俺は我慢できずに胃液を吐いた。


「けほっ、土屋ナイスだよ!」


 咳が治まりだした秀とチェンジ。生み出した氷の粒が形になっていく。


「【氷像(ひょうぞう)】……投槍(ジャベリン)!」

「二人してカッコつけんじゃないよ、【風車(かざぐるま)】!」


 氷でできた槍が奴のもう片方の目を狙って投げられる。口を拭った長谷川も指で円を描く。


「キモくてもやるぞ、俺は……! 【ジェット】!」


 長谷川の作った【風車(かざぐるま)】を追って、圧縮された螺旋状の水が射出した。


「隆、大丈夫っ?」

「うっせ……ゲホッ! お前は自分の心配をしろ! 体力あと2しかねぇんだから!!」


 立つために支えようとしてくれる未来へ噛み付く。

 未来の体力ゲージに表示されている数字は0も同然。むしろあの死の技を受けて、よく耐えられたと言えるほどだった。


「大丈夫。多分だけど、よっぽどの大技を受けない限り私も現実では死なないと思うから」


 さっきまでの余裕の無さとは違い、未来は確信したように微笑んだ。

 どういうことだろう。阿部が無事だった理由がどこかでわかったんだろうか。


『ギュイ、ヒ、ヒヒヒヒヒヒっ!』

「こんの……鬱陶しすぎんのよ、あの扉! 声も!」


 長谷川が怒鳴った。

 次々に行う攻撃の全てが『守護者(ガーディアン)』によって吸い込まれる。どんな攻撃も無意味に終わってしまう。

 面倒な銀の扉が消えて、また空間が歪んでいく。

 亜空間から作り出した黒い大砲が、死人の横でエネルギーを充填し始めた。


「ヤバッ、来るよ!」

「任せて! 【木製銃(もくせいじゅう)】っ……」


 全員の前に出た未来の、声を掻き消す爆音と振動。

 背筋が凍る。


「【回禄(かいろく)(れん)】!」


 未来のライフルでも変換し切れないかもしれない。

 今までの比ではない莫大な質量と勢いを弱めるべく、炎の盾を並べるが無駄とばかりに突破される。

 未来が突き出した『だだだだだ』の【木製銃(もくせいじゅう)】へ、勢力の激しいまま衝突した。


「くっ……重い……!」


 掃除機のごとく銃口からエネルギーを吸い込んで、未来の体が後ろに下がってくる。


「未来ちー頑張って!」

「援護する。斎、秀、そっち側から頼む! 俺はこっちから――」

「待って! あの子、手を回すだけでこっちの技を死人に変えてくる。大きな技はできるだけ使わない方がいい!」


 さっきは全開じゃなかったから操られはしなかったが、全員の技を死人化されたら鎮静が難しい。

 長谷川に体を支えてもらいながら、未来は必死にそう訴える。

 ならどう手助けに入るべきかと周囲を見渡すも、前は銀一色で見えないし、後ろは強い衝撃のせいで吹っ飛んでいる。

 将棋の駒も一部裏返っていた。


 ――どうする……何か、何か打開策を見つけないと!


 長谷川の力を借りてもまだ下がってきてしまう未来。早くしなければと焦っていると、斎がなるほどな、と呟いた。


「奴の両目に書いてたREVERSAL(リバーサル)。訳は、反転だ」

「反転? 位置を反対にするっていう、通常の意味合いの?」

「ああ。こっちの技を死人化させるのも、さっきの白黒の世界も恐らく同じ作用だと思う」


 秀からの問い返しに斎は説明する。

『死人を攻撃』を並べ替えると、『攻撃を死人』になる。わかりにくいけど、よく考えたら意味が変わってるだろ? と。


「相沢がさっき【朝顔(あさがお)】の蔓で弾いたのは、ピーマンの花。花言葉は【(うみ)(めぐ)み】。反転されて文字の配列を逆にしても【(めぐ)みの(うみ)】。技としての意味合いは変わらない」


 恵みとは、宗教的に言えば『神の愛による救済』を指すらしい。

 だから死の技を前にしても生きていられたのではないかと、さっきまで海のように青かった部屋を見回して、斎は解説した。


「……いや、神様の恩恵はありがたいけどさ! 理屈を教えられても今は頭回んないし、現状が変わらなきゃどうにもならないのよ! とにかくこっちの技が相手の技に変えられる、もうそれでいいでしょうが!」


「やっ、つい考えるのは俺の癖でっ!」


「このままじゃ全員まとめて塵になるよ!?」


「ご、ごめんって! 相沢、【過度を慎め(サフラン)】も効かないのか? 効くならとりあえずここを切り抜けて、死人化されたら一気に倒すのがベストだと俺は思うんだけど!?」


 長谷川の剣幕にビビってされた提案を、それは効くかもしれないと未来は額に汗を浮かべて肯定した。


「あの技は、死人の討伐を目的とした悪魔みたいな能力だから。数が多くてどうにもならない状況だと……正直、便利だよ」


 静かに補足して、未来がライフルから右手を離す。

 二つ目の【木製銃(もくせいじゅう)】を新たに作り出した。


「でも、あの技は嫌い。サフランの花は好きだけど、私の本意じゃない殲滅の技はもう使いたくない!」


 嫌いなんて滅多に言わない未来は「それに」と強調する。


「やっぱり私は、どんな死人でもわかりあえると信じたい。たとえ理性を失っても、憎悪で人を殺そうとしていても。哀しみを理解して、できることは全部やって、あの子たちが望む本当の生き方を一緒に探したい!」


「だからお願い」と頼みながら、膨大な量を取り込んでパンパンに膨れ上がったライフルの横に、新たなライフルを添えた。

 二丁の【木製銃(もくせいじゅう)】がエネルギーを吸収する。強さを分散させることで僅かながら余裕を生み出した。


「あ、相沢って……」


 その続きは言葉にならず、斎がぽかんと口を開ける。

 またこれだよ、とでも言いたそうに長谷川はため息を吐く。

 秀に至っては目を閉じて、首をガックリと傾けた。


 ――らしくなってきた。やっと。


 つい口元が緩んで、笑ってしまう。

 今現在、危ない状況にも関わらず、あるかもしれない希望に瞳を輝かせる姿に。

 死人の気持ちが第一優先で、慈悲の心でその全てを受け入れようとするこの仏様に。


「ならまぁ、やるっきゃねーよなぁ」

「ふふ。ありがとう」


 これでこそ、俺の知ってる相沢未来。

 ひとまずこの場をどう切り抜けようか、未来に指示を仰ごうとすると、いいタイミングでズボンの右側が震えた。


()()かな?」

「おおよ。俺が思ってたよりは、ちと遅かったけど」


 未来へ返事をして、ほっと安堵の息を漏らした俺は右のポケットに手を突っ込んだ。


「一般人が多い休日の昼間。そんな中で死人が暴れてるなんてさ、本部が動かないわけねぇもんな」


 頭の上にはてなマークを浮かべる未来以外の三人は、その後ハッとしたように各々ポケットの中身を確認する。

 全員が手に持ったのは、ゲーム内のデータとして体や服と一緒に転送してくれていた、マダーなら昼夜問わず持ち歩いている物。

『もしもぉ〜し』と誰かがこちらに呼びかけている、イヤーカフ状の通信機だ。

【第一五五回 豆知識の彼女】

槍は刺さったまま。


今の彼らには槍どころか死人の姿も見えないので、少し先で出しますが刺さったままです。全力でぶっ刺してしまった隆、パワーで押し切る頭脳派くん。


お読みいただきありがとうございました。


《次回 朱雀》

サブタイトルが変わります。よろしくお願いします。

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