表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第二章 プレイゲーム
158/295

第一五四話 ハズレ⑦

前回、隆一郎が死人の心臓を切りました。

 挿絵(By みてみん)


 前方にある木の壁。

 それを見た瞬間、また拒絶されたのかと思った。

 来るなと、言われたのかと思った。

 だけど違う。

 最初に木の壁を作り出した時とは違って、今度はわかりやすい位置に樹木の繋ぎ目があった。

 すぐ俺が見つけられるように、わざわざ色まで変えて。

 未来は拒絶していなかった。

 敵に悟られないための工夫をしただけ。

 俺が盾を突き破って飛び込むと信じて、そうしてくれた。


 今思えば、あのらしくない戦闘中の大きな音や振動もそうだろう。

 作り出された広大なエリアの中で、自分がどこにいるかを未来は無意識に教えていた。

 出ていけと言いながら、本当はそんなこと全く思っていない。

『助けて』と声に出して言えない未来からの、精一杯のSOS。

 未来は、俺たちの助けを求めてくれていた。


     ◇


「……隆」


 後ろから声をかけられる。

 安心したような、喉を詰まらせたような声だった。


 俺の前に仰向けになって倒れている死人は、体ごと心臓を斬られて沈黙していた。

 時間が経てば、いつも通りガラス玉へと変わるだろう。

 未来の方へ体を向ける。

 (かい)の【木刀(ぼくとう)】を消して【朝顔(あさがお)】の蔓だけになった未来は、俺を見て、泣きそうな笑顔を浮かべていた。


 ……らしくない。

 初めてだった。怪我だらけの未来を見たのは。

 そこらかしこにできた痣や擦り傷、色が変わって腫れ上がった頬が、ここでどんな戦いがあったのかを容易に想像させる。

 未来に気付かれない程度に歯を食いしばった。

 どれだけ強く殴られたんだろう。痛かっただろう。

 もっと早く来られたらと、自分の不甲斐なさが嫌になる。


 だけど、声をまたちゃんと聞けたことが嬉しくて、色んなものが込み上げてきて。

 許可も取らず、最近制御ができなくなっていることも自覚しつつ、目の前の大事な存在を優しく抱きしめた。


「……助けてって素直に言えるようになれ、バカ」


 そう簡単にできないのはわかってる。ゆっくりでいいからと付け加えると、未来は少ししてから頷いた。

 泣いているのを知られたくないんだろう。俺の胸に顔を(うず)めたまま、潤んだ声で「ありがとう」と続けた。


「つっちーこらぁあああああ! 運搬役っ! 途中で放棄すんなぁああ!!」

「あー、うるさいやつが来た……」


 盾の奥から叫び声。

 なぁ長谷川さん、俺と未来のしんみりタイムを邪魔しないでいただけますか。


「あっ、未来ちーもいた……ん? え? 倒した?」

「おー。未来が隙を作ってくれてなんとか、ってあっ! 長谷川後ろ!」


 俺が空けた穴からひょっこり。風を使って飛んできた長谷川が、驚いてその場から動かなくなる。

 後ろから斎と秀が来てるのに。

【バシリスク】と【氷河(リンク)】で、長谷川と同じスピードで来てるのに。


「ぐはっ!」


 ドンガラガッシャン。マジでそんな音出るんだ、なんて率直な感想を口にしそうになる。

 長谷川の背中に二人が体当たりして、それぞれ悲鳴を上げて顔から着地。

 でかい将棋の駒みたいな物が吹っ飛んでいく。


「急に止まったらさぁ、そりゃ交通事故も起こるよな」

「ふふ……うん」


 面白おかしく言ってみると、未来はほんの少しだけ笑ってくれた。

 俺の腕から抜けて、うるさい三人に歩み寄る。

 謝ってはいるが大丈夫かとは聞かない斎と秀、淡白すぎると文句を垂れる長谷川の前に、正座をした。


「凛ちゃん……斎、秀。あの――」

「いらない。やめて」


 ピシャリ。未来が頭を下げて謝ろうとするのを見て、長谷川が言葉で止めた。


「許さないから。土下座して謝っても」

「おい長谷川……」

「男は喋るな」


 仲裁に入ろうとする斎まで黙らせる。

 邪魔しない方がいいんだろう。俺も静かに寄る。

 さすがに秀も言うのを躊躇(ためら)ったか、俺と顔を合わせるだけにしていた。


「アタシさ。ここに来るまで、未来ちー見つけたら殴ってやろうって思ってたの。アタシらの意見無視して、なに勝手に決めてんだって」


 今までの明るさとは打って変わって、未来の前に座り直した長谷川の表情は怖い。

 でも未来は目を逸らさなかった。


「けど殴れないじゃん、こんなにボロボロじゃ。だから許せない」

「……うん」

「未来が誰も失いたくないって言ったように、アタシらだって未来を失いたくない、大事なのよ。ここにはいないけど、加奈や加藤だって絶対そう思ってる。わかるよね」

「……うん」


 説教を重ねるごとに、未来の声が小さくなる。

 ただ、返事をするだけで言い返しはしない未来へ、長谷川は「なんか言いなよ」と詰め寄った。


「未来はいつもそう。誰のことも否定しないし、怒らない。そのくせヤバいと思ったらアタシらは置いてけぼりで、全部自分でどうにかしようとする。それがしょうがないのはわかってるし、未来自身ちゃんと強いのも知ってる。そりゃ、アタシらは……足でまといかもっ、しれないけどさ」


「え……凛ちゃん?」


 未来が驚く。

 強気だった長谷川の目から、涙が零れていた。


「おんなじ気持ちだって、ひっく、なんで気付けないのよ! このバカぁああっ!」

「んぐっ! ご、ごめん凛ちゃん! ごめんね!?」


 号泣して抱きつく長谷川へ未来は全力で謝った。

 俺たちも慌てて助っ人に入る。

 だけど止まらない。

 未来の体から文字通り悲鳴が上がる。ギリギリ耐えていたのだろうどこかの骨が折れる音がした。


「い、いたぃです……」

「やめろ長谷川!? 冗談抜きで未来が死ぬ!!」

「そうだよ長谷川っ、やるならDeath game(デスゲーム)から出た後でっ……」


 秀と斎も落ち着けようとしてくれた時だった。

 背後から、ぞくりとくる氷点下の殺気を浴びた。


『うざい……うざい、ウザいッ、ウザイッ!! 馴れ合いミたいな友情モ、馬鹿馬鹿しい正義感モ!!』


 もう話さないはずの生き物が声を出す。

 振り向けば、倒れたままの死人が、散らばったゼリーを手で掻き集めて胴体を繋ぎ始めていた。


 ――心臓を斬ったのに、まだ生きて……っ!? いや、それよりも!


「【炎神(えんじん)】!!」


 驚いている場合じゃない。再生を止めようと龍を模した炎を放った。

 しかし動かせない動体に変わって、変形させたゼリーと四肢が体を持ち上げる。仰向けの四つん這い状態で後ろへ跳んで回避された。


「待ってくれ、気持ち悪い……」

「斎はキモいもんに対してもっと耐性をつけろ!」


 わかるよ。斎の言いたい気持ちはスッゲェわかるよ。

 見た目気持ち悪いもん、蜘蛛を逆さにしてカサカサ歩いてるようにしか見えねぇもん。けど!


「どうにかするぞ、【弓火(ゆみのひ)】!」

「うん! 【()ちて、三ノ矢(さんのや)】!」


朝顔(あさがお)】の力を借りて弓を射る未来と同時に、炎を纏った矢を大量に放つ。

 逃げ場はほぼないはずだが奴は四肢をぐねらせて避けてきた。


「しつこい、話の邪魔すんな! 【鎌鼬(かまいたち)】!!」

「【氷柱(つらら)】!」


 泣きながら生み出した風の斬撃と、鋭い氷が全方位から襲う。

 けれどそれも躱される。


『か、カカカ、ピ、キキ……』

「キモイからマジで止めてくれぇっ! 【水銃(シャボン)】!」


 斎が撃った水の弾丸に合わせて全員で追撃した。

 だけど、カチ。

 まるで今まではしっかりはまっていなかった蓋が、きっちりと閉まったように。やけに静かな、けれどハッキリとした音が鳴って、分裂していた胴体が繋がるのが見えた。

 空間が歪んで銀の扉が生成される。

 攻撃は全て亜空間に飲み込まれてしまった。


「やば……退避っ!」

『オソ、ィ』


 未来の決断を嗤いながら、正気を失った死人の白目がぐるんと裏返った。

 その目に書かれた『REVERSAL(リバーサル)』の文字が、赤く光る。

 刹那、煌びやかだった部屋の色が消えて、白と黒が敷き詰められた。


「……ぁ!」


 片膝をつく。

 突然苦しくなって、声も満足に出せず胸を掴んだ。

 おかしい。できるはずの息ができない。心臓の動きも手に伝わってこない。

 すぐに脳が訴える。止まっていると。

 心臓と呼吸が、色の消失に合わせて()()()()()()()()()のだと、命の危険を脳は反射的に理解した。


 ――バイバイ少年少女。ハズレもろとも、生と死が逆になる世界へ……生きることを許さぬ絶対の死の世界へ、行ってらっしゃい。


 体を握りつぶされるような苦しさの中、正常だった頃の死人の声が頭に響く。

 その言葉の意味まで理解する余裕はない。

 苦しいながら目を開けて、解決の糸口を見出そうとした。


 ――なんだ、あれ……!?


 同じように口を押さえている未来の髪の一部、丁度結っている辺りが青く光っているのを視認する。


「いっ……うっ!」


 ダサい。なんて言ってる場合でもない。

 何かはわからないがとにかくそれを未来に伝えようと、死を意味する体力ゲージが減る音を聞きながら必死に叫ぶ。

 肺に残るわずかな空気で出したダサい声に、未来が気付く。みんなも気付く。

 言うことを聞けと、動かせなくなってきた自分の腕に命令して、未来の頭を指さした。


「む……っ!? ふむ、むーっ!」


 右手に巻いていた【朝顔(あさがお)】が、未来の渾身の叫びによって伸びる。

 必死にもがいても俺たちにはどうすることもできない。

 体力ゲージだけが勝手に減っていく中、望みを託した朝顔の蔓が、光る何かを弾き飛ばす。

 床に落ちて、それが小さな白い花だと知った直後。

 モノクロに塗りつぶされた世界に、神秘的な青色が広がった。

【第一五四回 豆知識の彼女】

蜘蛛さんはいい子。


Gを食べてくれるらしいので、家の中で見かけた蜘蛛さんは外に逃がすかそのままにしています。


息ができなくて心臓も止まってる中で叫べるか?という疑問は次回で解説です。

心臓は自分の意思で止められないので、実際にできるかどうかはわかりません。

隆「おい作者ぁああ!!」

ほくろ「ごめんなさぁあああい!!」


《次回 ハズレ⑧》

青い部屋で再バトルです!

お読みいただきありがとうございました。

またよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ