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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第二章 プレイゲーム
153/294

第一四九話 ハズレ②

前回、死なないはずのデスゲームで、死者。

 挿絵(By みてみん)


「【氷剣(アイスソード)】!」


 凝縮された粒子が剣の形を取る。

 ひと息に跳んで上空から斬り掛かったのは、秀。


「秀!」

『イケメン少年、キミもしつこいねー』


 無事でよかったとほっとする暇もない。

 俺より先に背後の存在に気づいた死人が秀を払いのけようとした。


「まあ、僕の取り柄みたいなものだからね」


 表情を変えず、秀は重力を利用して回転しながら躱す。

 剣を振り上げ奴の腹を縦に斬り裂いた。

 さ、さすがの身体能力。すげぇ……


「ごめん、誰かキャッチして!」


 抵抗する死人を押さえ込みながら、裂け目から引っ張り出した何かを秀はぶん投げる。

 誰が一番近いかわからない。反射的に飛び出して受け止めた。


「ん、『譲』の子……!?」


 完全に脱力していて重いが、温かい。

 秀が助け出したのは『譲』の文字を持つ男の子だった。


『あー! 貴重な若い血肉なのにっ! 何するんだよ殺してやる!!』

「させない。【光線(レイ)】!」


 秀に拳を振り上げた死人へ、未来がオヤマボクチの花を生み出して光線を放つ。

 パォンッとくぐもった音を鳴らして一直線。

 裂けた奴の腹へ直撃する。


「秋月()せな! 【風神(ふうじん)(まい)】!!」


 長谷川の赤い強風が秀の頭上を通る。後ろにいる死人へ炸裂して奥の部屋まで押し返した。


「ごめん、ありがとう!」


 秀がこちらへ合流。【木刀(ぼくとう)】と【鉄扇(てっせん)】を作り出した未来と長谷川は前へ。

 奴からの反撃に備えてくれる二人の後ろで、『譲』の子を寝かせて秀へ駆け寄った俺は。


「秀、無事でよかっ……っあぁああっ!!」

「よくない! もっと早く迎えに来てよ、心細かったんだからね!?」


 ぐわんぐわん。肩を掴んで勢いよく前後された。

 やめてくれ。こちとら最初に食らったダメージが微妙に残ってんだよ。揺れると気持ち悪くなりそうなんだ、マジでやめてくれ。


「……もう一人、いたんだけど。助けられなかった」


 急に動きを止めた秀は、顔を伏せた。

 小さな声で何度も繰り返す。遅いと。馬鹿なのかと。

 俺たちと同じ光景を目の当たりにしたんだろう。下を向いた秀は小刻みに震えていた。

 掛ける言葉が、すぐには出てこない。


「私たちもだよ、秋月君」


 吐き気から解放するべく斎に癒しの技をかけていた阿部は、割れた大学生に目を向けた。

 粉になりつつある元は体だったものが、どこから吹くのか、風でさらさらと飛んでいく。

 目を逸らしたくなる光景をしっかりと見届けて立ち上がり、秀の胸板に優しく触れた。


「痛いね。……どっちも」


 泣く寸前の我慢した声で、「【痛み無し(ノーペイン)】」と口にする。

 見た目に怪我は無かったものの、体内には怪我があったらしい。《HP回復》のパネルが出て、秀の肌に血色が戻ってきた。


「……ありがとう」


 驚きつつ素直に礼を言う秀へ、阿部は優しく笑う。

 いつもの可愛らしい癒しのスマイルではないけれど、それでも、悲しみを分かつ阿部の笑顔は秀の震えを止めてくれた。



『そう。キミが回復持ちなんだね』



 死人の声が、俺の真横で聞こえた。


『ありがとぉイケメン少年。()()()()()()()()()


 恍惚とした声に重なって、プツリと、脳が嫌がる音がする。

 反応なんてさせない。そんな死人の速度を前に、【木刀(ぼくとう)】も【鉄扇(てっせん)】も、俺たちの誰も動けなかった。


「……阿部?」


 秀が呼ぶ。自分の胸に倒れた存在の名を。

 俺が一度瞬きをした時にはもう、今までいたはずの阿部の姿はない。

 《HP:0》のパネルが、代わりのように鎮座して。

 陶器の割れる音が遅れて響く。

 白い欠片が散らばる。からり、からり。

 飛沫状の血を全身に浴びた秀が、青ざめて、目を大きくしていた。


『ああ……やたらとうるさい観客がいると思ったら、一般人なんだね? 彼は。おかげでギャラリーが集まってきてんじゃんか』


 天井から聞こえる加藤の声。異変を感じたのだろう一般人と、売店にいた瀬戸たちの声が聞こえる。

 だけど、遠い。

 耳に届いているはずのみんなの声を、目の前の現実を認めたくない俺の脳は拒んだ。


『やだなー、さすがに人数が多すぎる。メイは人混みが嫌いなんだよ』


 中性的な声だけを拾う。

 視界が狭くなってくる。

 目が捉えるものが、死人だけになる。

『ああ、でも』と繋げたあとにくる言葉を予想した俺の、何かが切れた。


()()()()にするには、ちょうど良かっ……おっと!』


 余裕な様子でヘラヘラと笑う死人へ、無言で斬り掛かった。


『ふふ、怒ってるの? ナイト君。友だちが殺されて悔しい?』

「黙れ」


 軽やかに避ける姿をすぐに捉え、手に持った【火炎(かえん)(つるぎ)】に怒りを乗せて振り下ろす。


『あはは、いいねぇその顔! すっごくいい! 怒りでいっぱいになったキミの顔。そそるよ』


 避けられる。右へ左へ、何も考えていない力任せな攻撃が通るはずもない。

 だけど、止まれない。

 剣を振るう。

 地を蹴り石を飛ばしながら駆ける。

 踏むたび近づく憎き存在に向けて剣を投げ、【火柱(ひばしら)】を起こして逃げ場をなくし、更に【爆破(ボム)】を繰り出し追い詰める。


『あはは、()っつい熱っつい!』

「そうかよ。【炎拳(えんけん)】!!」


 火と煙で奴が見えない。知るかそんなもの。

 声と肌で居場所を絞り出し、炎を纏った拳を突き出した。


『ダメだよ、怒りに任せて我を忘れちゃあ』


 変わらず余裕な死人の声。

 ぞわりとして顔を左に(ひね)った。

 横を奴の拳が通る。頬をかすめる。切れる。


『おやおや? よく避けたね。じゃあこっちはどうかっ……お?』


 炎の攻撃を体に受けながら、何かをしようとした死人の足元。風。


「【竜巻(たつまき)】!」


 上空に向かって渦を巻く。

『おっとっと』などと言いながら死人は軽快にバク転をして躱した。


「つっちー、援護!」


 充血した目で死人を睨み、風を起こす。

 言いたいことを瞬時に判断。数メートル後ろにいる長谷川の隣まで【花火(はなび)】で飛び、風に炎を乗せた。


「「【炎風(えんぷう)】!」」


 炎を纏った風が、奴へ放たれる。

 周りの酸素を食い尽くすほど高火力の風。

 なのに、死人は怯まなかった。


『手札――守護者(ガーディアン)


 手の平がこちらへ向く。空間がぐにゃりと歪み、かと思えば銀の扉が生成される。

 勢いよく開いて【炎風(えんぷう)】が引きずり込まれた。


「な……!?」

『あはは、ごめんね。お嬢さんは消えて? メイはナイト君と遊びたい』


 俺の腰ほどまで、いつの間にか伸びていた蔓らしきものが長谷川を縛り上げる。

「ぐっ……」と苦しそうな声が、蔓に投げられて遠のいた。


『よそ見しないで。メイを見てよナイト君』


 目前、青い瞳。咄嗟に後ろへ跳ぶ。


『手札。剣士(アタック)


 両手を前に出し、空間を歪ませ剣を作り出す死人。

 まるでマジック。奴の能力がどういったものなのかがわからない。

 刀身が動くたび部屋のライトを反射する。

 チカチカする視界の中、死人は何度も剣を振り上げた。


「くっ……!」

『ほらほら。死んじゃうよ?』


 避ける、避けきれない。

 剣で受け止める。斬られる。

 体力ゲージが減少する。


「あぁあああっ!!」


 雄叫びをあげて突っ込んだそこに、今までいたはずの奴が、いなかった。


『残念だねナイト君。ゲームオーバーだ』


 背中側で、声がする。

 振り向いた瞬間に目に入るのは、やはりどこから出しているのかが全くわからない真っ黒な大砲。中には銀色のエネルギーが凝縮されていた。

 ――やばい。


「後ろを取られるなって、言ったはずだよ」


 抑揚のない声が、すぐそばで。

 いつの間にか俺の真横に立った未来が、ライフルの先を奴からの攻撃に向けて差し出していた。


「【木製銃(もくせいじゅう)】……だだだだだ」


 爆音を伴い放たれた銀のエネルギー弾。それを銃口から自分の技として瞬時に取り込んだ未来は、トリガーを引く。

 俺を狙って撃ったはずの攻撃が、数を増して死人自身に撃ち返された。


『相手の攻撃を利用する技か。厄介だね』


 舌打ち。死人の手のひらが前へ向けられて、さっきと同じ銀の扉を作り出す。大量のエネルギー弾はいとも簡単に消えてしまった。


「落ち着いて、隆。凛ちゃんも」


 銃を下ろし、代わりに【木刀(ぼくとう)(かい)】を生成。

 静かに諭しながら、風を纏ってなんとか帰ってきた長谷川の蔓を未来は切った。


「無理だよ! だってアイツは加奈をッ……」

「生きてるよ。加奈子は」


 長谷川の言葉に被った、未来の確信した声。

 俺は目を見開いた。

 生きてる。割れたはずの、阿部が?

【第一四九回 豆知識の彼女】

Twitterでお馴染み、阿部ちゃんスマイル。


どこのタイミングで『阿部ちゃんスマイル』と出そうか迷いつつ、今回出してしまったらイコールヤバい展開。みたいになりそうなのでやめました……

阿部ちゃん。平和で和やかな時に、素敵な笑顔を見せてください。


お読みいただきありがとうございました。


《次回 ハズレ③》

加奈子は生きていると言い切った理由。

一年弱みんなと一緒にいても、未来は。

よろしくお願いいたします。

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