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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第二章 プレイゲーム
150/286

第一四六話 偽物でも女の子だから

【Death game 模擬大会ルール】


・体力ゲージの三分の一を削れたら10ポイント、半分まで削れたら40ポイント。倒し切ったら100ポイント。合計150ポイントが付与される。


・戦闘の途中で離脱して、一キロ以上相手から距離を取れたら体力を回復できる。


・ポイントを既に持ってる人と殺り合って勝利した場合、倒した分の150ポイントに加え、その人が保有していたポイントの半分が勝利側に移動する。


・最初の一時間はタッグを組める。二人で倒した場合、獲得したポイントは半分こ。


・他の模擬大会をしているプレイヤーのPKでも同様にポイントが入る。


前回、未来が放った【三ノ矢】が降ってきました。

 挿絵(By みてみん)


「うそっ……! 【風壁(ふうへき)】!」


 辛うじて風の盾を纏い、防御に徹する長谷川。その奥で阿部と未来にも矢の嵐が襲い掛かる。


「【運気の解放(フォーチュン)】!」


 バク転で未来から離れた阿部は、運気上昇の技を展開。矢の軌道が逸らされ砂浜に突き刺さる。


「私だって、守ってばっかりじゃないよ! 【アビリティ】!」


 力の底上げをしたのち、【融解(ゆうかい)】で攻撃するべく阿部は指を鳴らそうとする。しかし対象は、矢に紛れて姿を消していた。


「あ、あれ? 未来ちゃんどこに……!」

「後ろががら空きだよ、加奈子」


 体に矢の乱撃を受けながら、いつの間にか阿部の背後に回った未来。

三ノ矢(さんのや)】は未来自身の技だから体に受けてもダメージにはならず、怪我をしない。

 そう、例え頭にぶっ刺さっても。


「ホラーだぞ未来!?」


 頭に矢が貫通している状態で【木刀(ぼくとう)】を振り回す。

 回復の隙を与えない怒涛の連撃に阿部が押され、フォローに入ろうとする長谷川を俺は【火柱(ひばしら)】で牽制。

 矢の嵐が去るタイミングを見計らって、風の盾の僅かな隙間を狙い、【(ほのお)(やり)】をぶん投げた。


《ヒット:470》

《隆一郎:20ポイント獲得》

《未来:20ポイント獲得》


 長谷川の腹の辺りを突き抜けた槍。大ダメージに加え、【炎症(えんしょう)】の効果が追加される。


《ヒット:65》


「この……っ! 結局は(それ)になるのね!?」

「やっぱこっちの方がしっくりくるんだよなぁ。慣れって大事だもんな」


 もう一度手に炎を纏った槍を作り出す。円を描くように大きく回し、穂先を真っ直ぐ前へと向けた。


「でもさ、剣じゃないなら【鉄扇(てっせん)】の方が強いと思うよ?」


 自身ありげな表情で長谷川がこちらへ急接近。鋭利な鉄を槍の柄に受けた。だが。


「……切れない!?」

「これまた残念でした。今回のはただの【(ほのお)(やり)】じゃないんだなぁ」


 驚く長谷川へ、俺が今使っている武器の説明をしてやる。

 通常の炎で覆った槍の更に上。俺の最高峰の防御である【回禄(かいろく)】を纏わせた、攻防一体の武器であることを。


「なぁ未来さんよ。これさ、技名まだ決めてないんだ」


防御(プロテクション)】の効果があっても阿部の体力を残り二桁まで押し込んだ未来へ、お願いをする。


「名前つけてくれるか?」

「んー、そうだなぁ」


 少し悩みながら、【木刀(ぼくとう)】から切れ味のいい【木刀(ぼくとう)(かい)】へ変更。無駄を削がれ、日本刀のようになった刀を持って、未来は最後の一振りの前に答えを出した。


「【大賢(たいけん)(やり)】……とか?」


 一発、切り裂く。強烈な斬撃に阿部が吹き飛んだ。


「へぇ。いいじゃんか」


 賢いことを意味する大賢。ありがたく技名を受け取って、表示された《WINNER》の文字を視界に捉えながら【大賢(たいけん)(やり)】を振るい、長谷川から距離を取る。


「くそ、加奈がやられちゃったか。ならもう奥の手を使うしかないねっ! 【双子(ツインズ)】!」


 両手の指を絡め、人差し指だけを立てた長谷川。

『風』の文字とは何の関係もなさそうなその技名を聞いたのち、俺の真横で砂が盛り上がる。


「隆、危ない!」


 危険の知らせが間に合うかどうかの瀬戸際。砂が完全に形状を成して俺へ切り掛かってきた。


「いっ!?」


《ヒット:48》


 なんとか【大賢(たいけん)(やり)】で防御したものの、勢いが強すぎて受け流せない。ダメージが表示された。


 ――なんだこれ……砂でできた長谷川!?


 攻撃に使われたのは紛れもない【鉄扇(てっせん)】で、その持ち主である目の前にいる物体は、まるで分身したかのように長谷川と同じ顔、形をした砂の人形だった。


 槍で反撃するもすぐに再生され、体力ゲージに変動は見られない。

 なのに攻撃の強さは長谷川と同等だって? チートもいいところじゃないか!


「くそがっ! 未来どうする!? こんなの作戦にはねぇぞ!」

「そんなん言われてもっ、逆にどうしたらええ!?」


 本物の長谷川に【鉄扇(てっせん)】を振るわれながら、未来は俺に聞き返してくる。

 飛び出た方言は焦りの証拠。パニックになっているのは俺だけじゃないらしい。


「んっ……隆! 凛ちゃんの動き、同じや!」

「あ!? なんだって!?」

「同じ動作、技名やの! そっちの凛ちゃんと連動してる!」


 必死に伝えられた内容を理解するまでに少し時間がかかった。

 つまり砂の長谷川――ニセガワとでも呼ぼうか。やつは本物とそっくりそのままの動きしかできない。主導権はあくまでも長谷川本人にあると言いたいのだ。


「気付くのが早すぎるよ未来ちー!」

「何から連想したか知らんけど、それなら技名の意味も納得やもん! 【朝顔(あさがお)】!」


 長谷川が【風車(かざぐるま)】を作る動きをした瞬間、俺とニセガワの間に小さな植物の芽が生えた。


「隆、別々で戦った方がええわ! お互い姿が見えへんようにすんで!」

「はっ? それってどういう……」

「だからっ、こう!!」


 十分な説明も無しに、未来の作った芽が急成長。朝顔が開花して、伸びた蔓が俺とニセガワを上空へぶん投げた。


「わぁああああ!?」


 キラーン。なんて効果音がつけられそうなほど空高く舞い、遠く飛ばされた俺たちは落下。背中を勢いよく強打する。

 しかし思ったほど痛くはない。なぜだろうと疑問に思う暇もなく、自分の下でうんうんと唸っている主に目を向けた。


「土屋……お、重い……」

「うお、斎! わるい、大丈夫か」


 なんと踏み潰していたのは斎だった。運悪く俺の落下地点にいたらしい。

 すぐに立ち上がって重り役を外れるも、《ヒット:62》とダメージが入る。かなりの勢いで落ちてきたせいか、攻撃した扱いになってしまったようだ。


「ああっ、秀!!」


 やっと自由になった斎が起き上がりながら叫ぶ。

 何事かと斎の見る先に目をやると、ニセガワの下敷きになっている秀がいた。しかも、大量の泡を吹いて。


「重い……痛い……女が……僕の上に(またが)って……」


 状況を一つ一つ認識した秀が、倒れた。


《WINNER:凛子》


「秀ぅうううう!!」

「やだ、精神ダメージ!? そんなのもあるの!?」


 本物がいなくても話せるらしい。「なんか傷つく」としょんぼりする砂を押しのけて、秀に近付き頬をぺちぺちと叩いてみる。

 もしかしたらただの気絶なのではと期待したが、残念ながら全く動いてくれず、どこかで復活するべくこの場から消えてしまった。


「よくも……よくも秀を! 【ジェット】!」

「いっ!?」


 突如、螺旋を圧縮した水が斎から放たれた。

 狙いはニセガワへ一直線。予想外の出来事に盾で守ってやることができず、モロに受けたニセガワの右半身が砕け散る。


「回復してんじゃねーよ。【津波(つなみ)】!」


 すぐに再生して五体満足になる砂へ、今度は大きな波が激流となって迫る。


「おい、避けなきゃ完全に消されるぞ!?」

「わかってるよ! わかってるけど、本体が未来ちーと戦ってるからアタシには自由がっ、【疾風(しっぷう)】!」


 俺との会話が途中で終わり、ニセガワは風を体に纏って宙を舞う。


「どこに行く気だよ!?」

「あ、アタシの意思じゃないってば! 未来ちー! ストップ、ストップ! 緊急事態です、止まってくださ……あああああ!!」


 斎の攻撃は運良く躱したものの、本体がぶん殴られたか切り伏せられたんだろう。急に落下したニセガワは頭から地面に突っ込んだ。


「なんか……大変そうだな、お前」

「そうよ。だから未来ちーが引き離してきたのよ」


 長谷川と同じ動きしかできず、自分の意思で起き上がれないニセガワは割と冷静だった。

 そこで理解する。俺と未来、両方の攻撃をどちらも同じ技と動きで防御して、反撃しないといけないのが【双子(ツインズ)】。

 未来が俺たちを追いやった理由は、俺がどんな技と動きをするかを長谷川から見えないようにして、ニセガワとの連携を上手く取らせないための作戦だったんだろう。


「しゃーねぇ……【花火(はなび)】!」


 足の裏に火を起こし、ニセガワを抱えて打ち上げ花火の要領で飛ぶ。


「ちょっと、いいよアタシは! 本体じゃないから置いていきなよ!」

「うるさい黙って掴まってろ! 置いてったら本物にどやされそうだから連れていくだけだ!」


 掴まれと言っても掴めないのだろうが、一応それだけ指示して黙らせる。

 とはいえ行くあてがあるわけでもない。

 ひとまず逃げる。それしか考えていなかった俺は、無意識にさっきまでいた場所へ戻ってきてしまった。

 阿部が復活して二対一になった、未来が劣勢の緊迫した戦場に。


「隆!? なに戻ってきてんよ!」

「緊急事態だ未来! 長谷川も一旦止まれ!」

「「どっちのアタシ!?」」

「本物に決まってんだろアホ!!」


 暴言を吐きつつ俺は空を指さした。


「斎が来る!!」


 言った瞬間、水の波状攻撃がこちらへ飛んできた。

大賢(たいけん)(やり)】を片手で旋回。間一髪だったがここにいる全員を守ることに成功する。


「土屋君、何がどうなってるの? 説明して〜っ!」

「俺らが着地したとこにちょうど斎と秀がいたんだよ! 長谷川が秀の上に落ちちまって、女に押し倒された状態になった秀が死んだ! キレた斎の報復だ!!」


 俺の説明に未来と阿部、本物の長谷川が状況を把握。ニセガワをただの砂に戻していざ逃げようとすると、斎が【バシリスク】で急激に追いついてきた。

 俺の槍の上に持ち前のバランスの良さで着地。その後くるりと一回転して砂浜へ降りた斎は、銃を作ってこちらへ向けた。


「秀を殺した罪だ。てめーら全員死んで償え」

「キャラ崩壊してますけど!?」


 俺の叫びも虚しくトリガーに指を掛け、斎は躊躇なく打った。

 銃口から放たれた幾多の水の弾が俺たちに接近して、もうダメだと覚悟した瞬間。

 ぽんと、生まれてしまった。俺たちと斎の間に、ゲームオーバーから復活した秀が。


「あっ……!」


《WINNER:斎》


「秀ーーっ!!」

「ああああああっ」


 斎が我に返る。しかしもう遅い。目に赤いバツ印をつけた秀は、先程同様にまた消えてしまった。


「俺が……俺が、秀を……」

「あー、どんまい谷川。そういう時もあるよ」


 地面に頭をつけて伏せてしまう斎の肩を、長谷川がぽんぽんと叩く。その横に座った阿部も「よしよし」と斎の頭を撫で始める。

 すると、いつもの笑い声が空から降ってきた。

【第一四六回 豆知識の彼女】

大賢の槍。未来は隆一郎の好みに合わせて名前をつけた。


隆の技名は捻りのないものが多いのですが(炎の槍、火柱、炎神、火炎の剣)未来さんもそのイメージで考えてくれました。

ちなみに未来さんは技名+他のワードが好きです。(木刀・改、しなれ・一ノ矢、落ちて・三ノ矢、羽状複葉・ソテツ)


ところで隆君、実は900以上凛子様の体力を削っていました。案外強いぞ主人公。


ツインズの連想元の説明はもう少し後になります!よろしくお願いします。


お読みいただきありがとうございました。


《次回 シークレット》

未来さんの【葉脈】は、『アクセルモード』ともうひとつ。

よろしくお願いいたします。

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