第一四六話 偽物でも女の子だから
【Death game 模擬大会ルール】
・体力ゲージの三分の一を削れたら10ポイント、半分まで削れたら40ポイント。倒し切ったら100ポイント。合計150ポイントが付与される。
・戦闘の途中で離脱して、一キロ以上相手から距離を取れたら体力を回復できる。
・ポイントを既に持ってる人と殺り合って勝利した場合、倒した分の150ポイントに加え、その人が保有していたポイントの半分が勝利側に移動する。
・最初の一時間はタッグを組める。二人で倒した場合、獲得したポイントは半分こ。
・他の模擬大会をしているプレイヤーのPKでも同様にポイントが入る。
前回、未来が放った【三ノ矢】が降ってきました。
「うそっ……! 【風壁】!」
辛うじて風の盾を纏い、防御に徹する長谷川。その奥で阿部と未来にも矢の嵐が襲い掛かる。
「【運気の解放】!」
バク転で未来から離れた阿部は、運気上昇の技を展開。矢の軌道が逸らされ砂浜に突き刺さる。
「私だって、守ってばっかりじゃないよ! 【アビリティ】!」
力の底上げをしたのち、【融解】で攻撃するべく阿部は指を鳴らそうとする。しかし対象は、矢に紛れて姿を消していた。
「あ、あれ? 未来ちゃんどこに……!」
「後ろががら空きだよ、加奈子」
体に矢の乱撃を受けながら、いつの間にか阿部の背後に回った未来。
【三ノ矢】は未来自身の技だから体に受けてもダメージにはならず、怪我をしない。
そう、例え頭にぶっ刺さっても。
「ホラーだぞ未来!?」
頭に矢が貫通している状態で【木刀】を振り回す。
回復の隙を与えない怒涛の連撃に阿部が押され、フォローに入ろうとする長谷川を俺は【火柱】で牽制。
矢の嵐が去るタイミングを見計らって、風の盾の僅かな隙間を狙い、【炎の槍】をぶん投げた。
《ヒット:470》
《隆一郎:20ポイント獲得》
《未来:20ポイント獲得》
長谷川の腹の辺りを突き抜けた槍。大ダメージに加え、【炎症】の効果が追加される。
《ヒット:65》
「この……っ! 結局は槍になるのね!?」
「やっぱこっちの方がしっくりくるんだよなぁ。慣れって大事だもんな」
もう一度手に炎を纏った槍を作り出す。円を描くように大きく回し、穂先を真っ直ぐ前へと向けた。
「でもさ、剣じゃないなら【鉄扇】の方が強いと思うよ?」
自身ありげな表情で長谷川がこちらへ急接近。鋭利な鉄を槍の柄に受けた。だが。
「……切れない!?」
「これまた残念でした。今回のはただの【炎の槍】じゃないんだなぁ」
驚く長谷川へ、俺が今使っている武器の説明をしてやる。
通常の炎で覆った槍の更に上。俺の最高峰の防御である【回禄】を纏わせた、攻防一体の武器であることを。
「なぁ未来さんよ。これさ、技名まだ決めてないんだ」
【防御】の効果があっても阿部の体力を残り二桁まで押し込んだ未来へ、お願いをする。
「名前つけてくれるか?」
「んー、そうだなぁ」
少し悩みながら、【木刀】から切れ味のいい【木刀・改】へ変更。無駄を削がれ、日本刀のようになった刀を持って、未来は最後の一振りの前に答えを出した。
「【大賢の槍】……とか?」
一発、切り裂く。強烈な斬撃に阿部が吹き飛んだ。
「へぇ。いいじゃんか」
賢いことを意味する大賢。ありがたく技名を受け取って、表示された《WINNER》の文字を視界に捉えながら【大賢の槍】を振るい、長谷川から距離を取る。
「くそ、加奈がやられちゃったか。ならもう奥の手を使うしかないねっ! 【双子】!」
両手の指を絡め、人差し指だけを立てた長谷川。
『風』の文字とは何の関係もなさそうなその技名を聞いたのち、俺の真横で砂が盛り上がる。
「隆、危ない!」
危険の知らせが間に合うかどうかの瀬戸際。砂が完全に形状を成して俺へ切り掛かってきた。
「いっ!?」
《ヒット:48》
なんとか【大賢の槍】で防御したものの、勢いが強すぎて受け流せない。ダメージが表示された。
――なんだこれ……砂でできた長谷川!?
攻撃に使われたのは紛れもない【鉄扇】で、その持ち主である目の前にいる物体は、まるで分身したかのように長谷川と同じ顔、形をした砂の人形だった。
槍で反撃するもすぐに再生され、体力ゲージに変動は見られない。
なのに攻撃の強さは長谷川と同等だって? チートもいいところじゃないか!
「くそがっ! 未来どうする!? こんなの作戦にはねぇぞ!」
「そんなん言われてもっ、逆にどうしたらええ!?」
本物の長谷川に【鉄扇】を振るわれながら、未来は俺に聞き返してくる。
飛び出た方言は焦りの証拠。パニックになっているのは俺だけじゃないらしい。
「んっ……隆! 凛ちゃんの動き、同じや!」
「あ!? なんだって!?」
「同じ動作、技名やの! そっちの凛ちゃんと連動してる!」
必死に伝えられた内容を理解するまでに少し時間がかかった。
つまり砂の長谷川――ニセガワとでも呼ぼうか。やつは本物とそっくりそのままの動きしかできない。主導権はあくまでも長谷川本人にあると言いたいのだ。
「気付くのが早すぎるよ未来ちー!」
「何から連想したか知らんけど、それなら技名の意味も納得やもん! 【朝顔】!」
長谷川が【風車】を作る動きをした瞬間、俺とニセガワの間に小さな植物の芽が生えた。
「隆、別々で戦った方がええわ! お互い姿が見えへんようにすんで!」
「はっ? それってどういう……」
「だからっ、こう!!」
十分な説明も無しに、未来の作った芽が急成長。朝顔が開花して、伸びた蔓が俺とニセガワを上空へぶん投げた。
「わぁああああ!?」
キラーン。なんて効果音がつけられそうなほど空高く舞い、遠く飛ばされた俺たちは落下。背中を勢いよく強打する。
しかし思ったほど痛くはない。なぜだろうと疑問に思う暇もなく、自分の下でうんうんと唸っている主に目を向けた。
「土屋……お、重い……」
「うお、斎! わるい、大丈夫か」
なんと踏み潰していたのは斎だった。運悪く俺の落下地点にいたらしい。
すぐに立ち上がって重り役を外れるも、《ヒット:62》とダメージが入る。かなりの勢いで落ちてきたせいか、攻撃した扱いになってしまったようだ。
「ああっ、秀!!」
やっと自由になった斎が起き上がりながら叫ぶ。
何事かと斎の見る先に目をやると、ニセガワの下敷きになっている秀がいた。しかも、大量の泡を吹いて。
「重い……痛い……女が……僕の上に跨って……」
状況を一つ一つ認識した秀が、倒れた。
《WINNER:凛子》
「秀ぅうううう!!」
「やだ、精神ダメージ!? そんなのもあるの!?」
本物がいなくても話せるらしい。「なんか傷つく」としょんぼりする砂を押しのけて、秀に近付き頬をぺちぺちと叩いてみる。
もしかしたらただの気絶なのではと期待したが、残念ながら全く動いてくれず、どこかで復活するべくこの場から消えてしまった。
「よくも……よくも秀を! 【ジェット】!」
「いっ!?」
突如、螺旋を圧縮した水が斎から放たれた。
狙いはニセガワへ一直線。予想外の出来事に盾で守ってやることができず、モロに受けたニセガワの右半身が砕け散る。
「回復してんじゃねーよ。【津波】!」
すぐに再生して五体満足になる砂へ、今度は大きな波が激流となって迫る。
「おい、避けなきゃ完全に消されるぞ!?」
「わかってるよ! わかってるけど、本体が未来ちーと戦ってるからアタシには自由がっ、【疾風】!」
俺との会話が途中で終わり、ニセガワは風を体に纏って宙を舞う。
「どこに行く気だよ!?」
「あ、アタシの意思じゃないってば! 未来ちー! ストップ、ストップ! 緊急事態です、止まってくださ……あああああ!!」
斎の攻撃は運良く躱したものの、本体がぶん殴られたか切り伏せられたんだろう。急に落下したニセガワは頭から地面に突っ込んだ。
「なんか……大変そうだな、お前」
「そうよ。だから未来ちーが引き離してきたのよ」
長谷川と同じ動きしかできず、自分の意思で起き上がれないニセガワは割と冷静だった。
そこで理解する。俺と未来、両方の攻撃をどちらも同じ技と動きで防御して、反撃しないといけないのが【双子】。
未来が俺たちを追いやった理由は、俺がどんな技と動きをするかを長谷川から見えないようにして、ニセガワとの連携を上手く取らせないための作戦だったんだろう。
「しゃーねぇ……【花火】!」
足の裏に火を起こし、ニセガワを抱えて打ち上げ花火の要領で飛ぶ。
「ちょっと、いいよアタシは! 本体じゃないから置いていきなよ!」
「うるさい黙って掴まってろ! 置いてったら本物にどやされそうだから連れていくだけだ!」
掴まれと言っても掴めないのだろうが、一応それだけ指示して黙らせる。
とはいえ行くあてがあるわけでもない。
ひとまず逃げる。それしか考えていなかった俺は、無意識にさっきまでいた場所へ戻ってきてしまった。
阿部が復活して二対一になった、未来が劣勢の緊迫した戦場に。
「隆!? なに戻ってきてんよ!」
「緊急事態だ未来! 長谷川も一旦止まれ!」
「「どっちのアタシ!?」」
「本物に決まってんだろアホ!!」
暴言を吐きつつ俺は空を指さした。
「斎が来る!!」
言った瞬間、水の波状攻撃がこちらへ飛んできた。
【大賢の槍】を片手で旋回。間一髪だったがここにいる全員を守ることに成功する。
「土屋君、何がどうなってるの? 説明して〜っ!」
「俺らが着地したとこにちょうど斎と秀がいたんだよ! 長谷川が秀の上に落ちちまって、女に押し倒された状態になった秀が死んだ! キレた斎の報復だ!!」
俺の説明に未来と阿部、本物の長谷川が状況を把握。ニセガワをただの砂に戻していざ逃げようとすると、斎が【バシリスク】で急激に追いついてきた。
俺の槍の上に持ち前のバランスの良さで着地。その後くるりと一回転して砂浜へ降りた斎は、銃を作ってこちらへ向けた。
「秀を殺した罪だ。てめーら全員死んで償え」
「キャラ崩壊してますけど!?」
俺の叫びも虚しくトリガーに指を掛け、斎は躊躇なく打った。
銃口から放たれた幾多の水の弾が俺たちに接近して、もうダメだと覚悟した瞬間。
ぽんと、生まれてしまった。俺たちと斎の間に、ゲームオーバーから復活した秀が。
「あっ……!」
《WINNER:斎》
「秀ーーっ!!」
「ああああああっ」
斎が我に返る。しかしもう遅い。目に赤いバツ印をつけた秀は、先程同様にまた消えてしまった。
「俺が……俺が、秀を……」
「あー、どんまい谷川。そういう時もあるよ」
地面に頭をつけて伏せてしまう斎の肩を、長谷川がぽんぽんと叩く。その横に座った阿部も「よしよし」と斎の頭を撫で始める。
すると、いつもの笑い声が空から降ってきた。
【第一四六回 豆知識の彼女】
大賢の槍。未来は隆一郎の好みに合わせて名前をつけた。
隆の技名は捻りのないものが多いのですが(炎の槍、火柱、炎神、火炎の剣)未来さんもそのイメージで考えてくれました。
ちなみに未来さんは技名+他のワードが好きです。(木刀・改、しなれ・一ノ矢、落ちて・三ノ矢、羽状複葉・ソテツ)
ところで隆君、実は900以上凛子様の体力を削っていました。案外強いぞ主人公。
ツインズの連想元の説明はもう少し後になります!よろしくお願いします。
お読みいただきありがとうございました。
《次回 シークレット》
未来さんの【葉脈】は、『アクセルモード』ともうひとつ。
よろしくお願いいたします。