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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第二章 プレイゲーム
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第一四五話 二種の弓

【Death game 模擬大会ルール】


・体力ゲージの三分の一を削れたら10ポイント、半分まで削れたら40ポイント。倒し切ったら100ポイント。合計150ポイントが付与される。


・戦闘の途中で離脱して、一キロ以上相手から距離を取れたら体力を回復できる。


・ポイントを既に持ってる人と殺り合って勝利した場合、倒した分の150ポイントに加え、その人が保有していたポイントの半分が勝利側に移動する。


・最初の一時間はタッグを組める。二人で倒した場合、獲得したポイントは半分こ。


・他の模擬大会をしているプレイヤーのPKでも同様にポイントが入る。


前回、ピーマンの花で髪飾りを。一度は照れた未来さんでしたが、なぜか暗い顔をしました。

 挿絵(By みてみん)


「未来? どした、冗談だぞ?」


 わかっているとは思うが一応伝えてみる。

 しかし暗い顔つきは変わらないまま。やっと視線を上げてこちらへ向いた未来は、俺の目を真っ直ぐに見た。


「隆。後で……このゲームが終わってから、情報共有したいことがある」


木製銃(もくせいじゅう)】の刃を収納して立ち上がり、未来は「大した内容じゃないけど」と微笑を浮かべて付け加える。

 だけど今の真剣な表情から、ゲーム内での話ではなく、あくまでマダーとして話そうとしていたことは見て取れた。


「後でと言わず、今聞こうか?」

「ううん、平気。どういう意味なのかまではよくわからなかったし、時間ももったいないからさ」


 首を振った未来は空を見上げ、口を閉じる。

 時計の数字は先程よりも進んでいて、残り一時間を切るところだった。


「あと半分か……早いもんだな」

「ね。この後どうする? みんなどんどん稼いでくるよ」


 あっちに行くか、こっちに行くか。俺が攻める方と反対へ斬り込もうとしているらしく、未来の人差し指が忙しなく左右に振られる。


 ――今は踏み込まない方がいいのかもしれねぇな。


 話を一旦終わらせたがっているようにも見えて、それ以上は聞かないと決め、未来の指の先を見比べる。


「んー、なるべく隠れられる方がいいかな。今はポイントよりも、時間の方が稼ぎてぇんだ」


 ひとまず立ち上がり、腰のストレッチをしながらここに逃げ込んだ経緯を説明した。

 長谷川と阿部に追い回されていて、ペアが組めなくなる時間まで待つつもりなのだと。


「待つのは隆の自由だけど……でも凛ちゃん、一時間経っても加奈子とペア組んだままだと思うよ?」

「えっ?」


 未来の助言を聞いた俺は、S字にひねった体勢のまま顔を引き攣らせた。


「ペアというか、お互いに攻撃し合わない暗黙の了解みたいなイメージかな。ポイントが半分こになるっていう制度がなくなるだけで、凛ちゃんのことだから、多分加奈子と一緒にいると思うよ」

「マジかよ……時間うんぬんの話じゃねぇな」


 当てが外れてしまってどうしたものかと頭を抱える。すると、未来の顔が楽しげに笑った。


「ねぇ隆。どうせ追い回されるならさ、()()()やってみない?」


 内緒話をするべく少し屈むよう促され、未来の口元に耳を近づける。

 話を聞き終えた今の俺はきっと、見たら引かれそうなほどのニヤケ顔。


「いいっすねぇ」

「ふふ。じゃあもう少し作戦を練ろう」


 未来とヒソヒソ話を続けながら、この先に起こる楽しい展開に俺は胸を躍らせた。


     ◇


「凛ちゃん凛ちゃん、いいこと教えてあげる! あのね? 土屋君は猫ちゃんが好きみたいだよ?」

「へぇ、猫?」

「うん! さっきね、【減力解放(げんりょくかいほう)素体(そたい)】を使ったの。そしたらね、子どもの姿になるだけだと思ってたら、猫の耳と尻尾まで生えたの。だから間違いないよ!」


 ふふんと胸を張る阿部。

 そういえば、その人が持つ一番弱い部分を引き出すって言ってたな。それが表面化されていたわけか。


「隆、猫派だったんだ?」


 空を浮遊しながら未来が微笑んだ。

 プレイヤーを倒した際に得たというドロップアイテム《盗聴》。ペアを組むと相方にもアイテムの効果を使用できるらしく、強襲のタイミングを計るべく未来から会話を聞かせてもらっている。


「可愛いだろ? ちょっと気ままな感じとか、時たまに甘えてくるのとかさ」


 なるべく自然に答えた。

 言えない。未来を動物に例えると猫っぽいから猫が好きだなんて、絶対に言ってはいけない。


「じゃあ未来さんよ。作戦通りに」

「いえっさー」


 お互いの拳をコツンと突いたのち、未来は少し降下。

 手を重ね、何かを引っ張り出すようにゆっくりと離した。マジックの如く手のひらから生み出されたのは、中程度の硬さを持つヒノキでできた弓矢。


「【()ちて、三ノ矢(さんのや)】」


 慣れた手つきで上向きに矢を放つ。見えなくなるまで空高く飛ばした未来は、弓を消して真っ直ぐ阿部に向かい、急降下していった。


「速いなぁ。【弓火(ゆみのひ)】」


 まだ未来の接近に気付かず談話を続けている二人へ狙いを定め、俺は炎を纏った弓を引き絞る。

 更に付け加えたのは、数を増やす際に使う付属の言葉。


(れん)


 弓を射った瞬間。炎を纏った矢が分裂、増加する。

 幾多の矢が未来の横を通り過ぎ、長谷川たちへ向かって飛んだ。


「加奈!!」


 直撃する少し前。矢の攻撃を認識した長谷川が阿部を抱き込むようにして転がった。

 間一髪のところで矢は避けられ、砂に刺さって小さな爆発を起こす。


「つっちーだね! どこ!!」


 すぐに立ち上がった長谷川は【鉄扇(てっせん)】を作り出した。

 体に風を纏い、飛んで俺を探そうとした真横。彼女のものとは違う風が唸る。


「ひっ、未来ちゃん!?」

「ごめんね加奈子」


 にこり。自然な笑顔を見せた未来は着地の勢いを利用して砂を巻き上げ、阿部の視界を奪う。

 こちらから見える未来は拳の側面を突き合わせ、鞘から刀を抜くような仕草で【木刀(ぼくとう)】を作り上げた。


「加奈、(たて)!!」


『自身を守れ』の命令に、阿部はすぐさま立ち上がろうとした。しかし動作を許さない未来の猛攻。縦横、左右斜め。目にも留まらぬ速さで木の刀が振るわれる。


「やばい、【風神(ふうじん)(まい)】!」

「させねぇよ? 【炎神(えんじん)】!!」


 未来と阿部の間に割って入ろうとする赤い強風。

 龍を模した炎で打ち消して、長谷川の正面に降り立った。


「お前の相手は俺っす」

「ちっ、タッグ組んできたってわけ! 最悪なコンビじゃん!!」


 文句を言いながら長谷川はターゲットを俺へ変える。

 未来と阿部の戦いは一方的で、連続して《ヒット》が表示された。


「あっ、わわわ! 【防御(プロテクション)】! 【痛み無し(ノーペイン)】!」


 遅れながら後退、素早く防御した阿部。与えるダメージがこれまでの半分以下になる。

 削った体力も全て回復された。


「未来! 一発で()れるような攻撃じゃなきゃ倒せねぇぞ!」


 長谷川からの【鉄扇(てっせん)】による斬撃を【火炎(かえん)(つるぎ)】で受け止め、払いながら未来に叫ぶ。


「わかってる。だからこそだよ!」


 未来は変わらず【木刀(ぼくとう)】で阿部の体力を減らしていく。しかし削り切る前に回復されて倒せない。

 10ポイント、40ポイント。削られたゲージに合わせてポイントが入り、俺と分けられて5や20に変わる。


「せっかくだもん。ポイント稼がせてもらわなきゃ。ねぇ、凛ちゃん?」

「わぁ!!」


 刀を大きく薙ぎ払い、阿部を吹き飛ばした。


「ねぇって……まさかっ、アタシが大会の時に使ってる戦い方を真似してんの!?」

「効率いいよね。勉強になるよ」


 意識が未来に向いた長谷川へ、俺は炎を纏った剣を振るう。


《ヒット:310》

《隆一郎:5ポイント獲得》

《未来:5ポイント獲得》


「ちっ……! 片腕が飛ぶかと思ったよ!」

「よそ見してっからだろ? 集中しろよ」


 余裕から口角を上げ、長谷川に反撃の隙を与えず剣を振り回す。


「くっそ……なんなのつっちー!? さっきまではアタシの攻撃、受けてばっかだったくせに!!」

「おーよ、さっきはな? けどお前のペースに持っていかれさえしなけりゃいいんじゃねぇかと思ってさ」


 長谷川の得意な小回りがきく戦い方。それはこちらを攻める場合には大いに役立つが、一度防御に回ってしまえばあまり怖くはない。

 いくら鋭利にしてあるとはいえ、剣や刀には及ばず、威力を存分に引き出すには大きく引いて押し出すような勢いが必要。

 そのタイミングを見つけられなければ、攻守を交代することは難しいだろう。


「悪いけど、こっちの特性は活かさせてもらうぜ」


 剣に纏う炎を燃え上がらせ、長谷川の手を火傷させる。


「追加だ。【炎症(えんしょう)】!」


 小さな痛みが走っただろう傷を悪化させ、追い打ちを行なった。


《ヒット:45》

《ヒット:23》


鬱陶(うっとう)しい! おらっ!」


炎症(えんしょう)】により体力が継続して減少する中、長谷川は火を恐れることなく【鉄扇(てっせん)】を薙ぎ、俺の【火炎(かえん)(つるぎ)】を遠くへ弾き飛ばした。


「よしっ」

「残念。【難燃の紐(ストリング)】!」


 手のひらに燃えない紐を生やし、瞬時に【火炎(かえん)(つるぎ)】へ伸ばしてキャッチ。紐を引っ張った。


「げっ!?」

「おーらい!!」


 ハンマー投げのように振るった剣の反撃。

 逃れようと長谷川は素早く後ろへ退()いた。今まで彼女がいた場所に剣が横薙ぎされる。

 避けられてホッとしただろうその直後、最初に未来が放った【三ノ矢(さんのや)】が降り注ぐ。

【第一四五回 豆知識の彼女】

隆一郎は、野良猫を見つけるとその場にしゃがんで話しかけるくらい猫ちゃんが好き。


環境が環境なのであまり見かけませんが、ペットショップやたまに公園、道路で確認されたり。特に黒猫が好きみたいですよ。


お読みいただきありがとうございました。


《次回 偽物でも女の子だから》

凛子様、奥義を見せる!です。またよろしくお願いします。

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