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碧眼の彼女  作者: さんれんぼくろ
第二章 プレイゲーム
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第一四四話 髪飾り

【Death game 模擬大会ルール】


・体力ゲージの三分の一を削れたら10ポイント、半分まで削れたら40ポイント。倒し切ったら100ポイント。合計150ポイントが付与される。


・戦闘の途中で離脱して、一キロ以上相手から距離を取れたら体力を回復できる。


・ポイントを既に持ってる人と殺り合って勝利した場合、倒した分の150ポイントに加え、その人が保有していたポイントの半分が勝利側に移動する。


・最初の一時間はタッグを組める。二人で倒した場合、獲得したポイントは半分こ。


・他の模擬大会をしているプレイヤーのPKでも同様にポイントが入る。


前回、逃げ出した隆一郎でした。

 挿絵(By みてみん)


 逃げ込んだ林の中は、松の木のオンパレードだった。

 風や飛んでくる砂を防ぐ効果がある海岸林。塩害に強いその樹木たちは、海沿いに住む人からしてみればなくてはならないものらしい。

 それがゲーム内でもリスペクトされているのか、いわゆる松林というところに入った俺は、辺りを不審者みたいに見回した。


 隠れるスペースはあまりない。

 誰もいないかどうかをしっかりと確かめてから、適当な木に背を預けて息を吐く。

 どの松も幹は細めで木同士の間隔も空いているせいか、木陰でも酷い暑さだった。


「ったく、連戦であの二人のペアはキツいっての……」


 汗を拭いながら自分の保有ポイントを確認する。

 現在の数字は250。

 どうやら他のやつのポイントも見られるらしく、隣にある《各プレイヤー詳細》の文字をタッチしてみると、今までとは違ってかなり大きめのパネルが現れた。


 見る限り保有ポイント数が多い順に記載されているようで、三ページまである黒地に赤い文字で書かれているせいか、妙に闘争心をあおられる。

 とはいえ最初のページに俺の名前は無い。

 そんなもんだろうし大してショックでもなかったが、トップページの一番上を見た瞬間――震慄。


《1位:相沢未来 2400pt》


 当たり前のようにあいつの名前があった。


「同じ時間でほぼ十倍……か」


 さすがだなぁと思いつつ他のみんなの名前を探していると、じっと、誰かに見られているような感じがした。

 鳥肌が立って周囲をもう一度見回すも、人の姿はない。

 出処(でどころ)を探るべく意識を集中。視線を辿ってわかったのは、近くに六人、少し離れたところに二人いるという現状だった。


 ――体感でわかるようになってからこういう場合ありがたいけど、狙われる恐怖には慣れないとな。


 身震いしながら顔を上げ、空に掲示された時計を確認した。ゲームに入った時間は十時ジャストだったから、残り時間は一時間十七分。

 あと二十分弱だけ持ち堪えられたら『ペアを組んでいいのは最初の一時間だけ』という特別ルールに従って、長谷川と阿部はペアを組めなくなる。


「せっかくだし、待ってる間にちょっと稼がせてもらおうかな。【爆破(ボム)】!」


 見ているだけですぐにバトルを挑まない点から、隙を窺っているのだと判断。ゴリ押しができる自信は相手にはないとみて、敵の数は恐れずこちらから強襲をかけさせてもらうことにした。のだが。


「ほんだらぁああああああ」

「はいやぁあああ」


《WINNER:隆一郎》


「ぶっ!」


 やめろ、笑うな俺。

 あまりにも簡単に終わったからとか、叫び方が球技大会で加藤チームだったやつと重なったとか、色々あるけど笑うなよ。相手さんに失礼だぞ。


「笑っていられるのも今のうちでやんすよ先輩! それっ【雷砲(らいほう)】!」

「そうさ、勝つのは僕らだい! 【蜘蛛糸(くものいと)】!!」

「やっぱお前らかよ!?」


 上手くこちらの爆発に隠れながら襲いかかってきたのは、紛れもなく球技大会一回戦の相手。名前は確か……


 ――反撃じゃ友人A!!

 ――すまんのぉ、B!


「くっそ、加藤のせいでそれしか出てこねぇ!! 【弓火(ゆみのひ)】!」


 マダーだったことに驚く暇もなく、友人Aから放たれた蜘蛛の糸を後方宙返りで躱す。

 空中で炎を纏った弓矢を作り出した俺は、上下逆さになりながら引き絞り、放って雷の攻撃を相殺。

 直後、地面に着いた足に目一杯の力を込め、踏み込んだ。


「げっ!? にっ、逃げるでやんすよ(だん)っ……」

「逃がさねぇよ。【炎拳(えんけん)】!」


 拳に炎を纏い、雷を撃ってきたBを力の限りぶん殴る。


「ぎゃぁあああ」


《WINNER:隆一郎》


「ヒィッ、い、一発!? いったいどんな馬鹿力してるんだい!?」

「悪いな、それが取り柄なもんで!」


 動揺のあまり完全に動きがフリーズしたAに向け、続けて【炎拳(えんけん)】を打ち込んだ。


「ひ、ひでぇよ〜!」


《WINNER:隆一郎》

《ポイント総計:1400獲得》


 情けない最期の言葉とともに地面に倒れたA、B両者の目に赤いバツ印が付けられる。次いでティリンと、トライアングルに似た音がした。


《ドロップ:雷砲》

《ドロップ:蜘蛛糸》


「おっ、ラッキー!」


 倒したのは今のA、Bを含めて八人だったから、ドロップの確率は四分の一ってところだろうか。割と良心的な設定に思考が前向きになる。


「しっかしこうして戦ってみると、長谷川と阿部の強さが際立ってくるなぁ」


 誇らしくなって、ついひとりごとが増える俺。

 倒れたA、Bの体が消えて、残ったドロップアイテムを獲得するべく電気が走った黄色い球体と、かなりリアルな蜘蛛の糸に触れようとした。

 ぴたり。

 急に後頭部へ置かれた銃口の感触に、しゃがんだ俺の動きが止まる。


 ――もう一人、いた?


 全くわからなかった。

 人の気配を一切感じさせなかった。

 見られている感覚も、狙われる時の恐怖も。本当に何も無かった。

 緊張が走る。ゴクリと唾を飲み込んで、今のこの状態を打開する方法を考えた。


 振り向いた瞬間に攻撃するか、もしくは今この場で後ろを向かずに何か技を繰り出すか。

 相手がすぐに撃ってこない理由は?

 何かを狙ってるのか?


 止まらず思考する。想像する。

 だけど頭にある怖い感触が邪魔をして、どうしても判断しきれず、正しい答えが出てこなかった。

 冷静に素早く対応。これもまたクリアしないといけない課題だな。


 諦めたわけではないが、このままでは埒が明かない。

 俺は両手を顔の前まで上げて、降参のポーズを取ってから恐る恐る問いかけた。「撃たないんですか?」と。


「……聞いちゃうんだ? この場合」


 すぐには返答しなかった後ろにいる人物。ふふっと笑ったかと思えば、そんなよく知る声が返ってきた。


「なんだよ、もー」


 力が抜ける。未来だった。

 当てられていたのは前に未来とDeath game(デスゲーム)をやっていた時に見た【木製銃(もくせいじゅう)】。それを外した未来は「おつかれ」と笑って、技で丸太を作り出し、腰掛けた。


「後ろ、簡単に取られちゃダメだよ」

「あのなぁ……お前じゃなきゃ気付くんだよ。未来の気配の消し方が異常なんだっつーの」


 ドロップアイテムを取ってから俺も隣に座らせてもらい、文句を垂れる。

 敬語だったのは仕方ないにしても、微妙に声が震えてしまっていたのが自分としては気に食わない。


「緊張して損した」

「あはは。いいことだと思うよ? 感覚に任せずちゃんと理解してから対処するの。ほら」


 未来は【木製銃(もくせいじゅう)】を縦に向け、一言「(やいば)」と発音した。するとどうだ、銃口の側面と柄の端から刀が現れるじゃないか。


(こえ)ぇ……」

「色々変形できて面白いんだよね、これ」


「だだだだだとか、だんとか」などとよくわからないことを言う未来。説明を聞いていると、どうやらこれ一つで三通りの戦い方ができるんだそう。


『だだだだだ』は相手の能力を奪い取って連射。

『だん』は植物のエネルギーを凝縮した強力な単発。

(やいば)』が今見せてもらった、長さと幅のある刀がライフルの両端に横向きで付いているもの。大鎌二つを片方だけ上下逆さにして持っているようにも見える。


「確かに面白いけどよ。そんなの突きつけた状態で俺が動いてみろ、頭真っ二つだぞ? そんなグロいもんよく当ててくれたな」

「だってせっかくいい所を見つけて隠れてたのにさ。隆が跡形もなく吹っ飛ばしちゃったんだもん。ちょっと意地悪したくなって」


 ちょっと?

 脳を横に分断する刑が、ちょっと……?


「【(はぐく)生命(いのち)よ】」


 俺の頬が引き攣るのもお構い無しに、未来は両手を前に出して周辺の草木を再生させてくれる。

爆破(ボム)】で焼け野原になっていた一帯がまた松の木と芝生で覆われて、相変わらず凄いなと感動した俺は、ハッとして林の外を見た。


「なぁ未来。お前さ、今のそれとか【蒸散(じょうさん)】みたいな技で、あれもどうにかできる?」


 俺が指さした先にあるのは、さっき【蒸発(じょうはつ)】で不格好な形にしてしまった海。

 一部だけ水分を飛ばしたために断面が見えてしまっている、歪な海水の壁だ。


「そのうち元に戻ると思ってたんだけどさ。なんか、全然変わりそうにねぇの」

「ふふ、Death game(デスゲーム)あるあるだね」


 自然の海ならあんな状態で保てるわけがない。

 ここでしか見られない不思議な光景に笑いながら、未来は地面に白い花を咲かせた。


「可愛いなそれ。何の花?」

「ピーマンだよ」

「ピーマン!? マジか」


 二、三センチほどだろうか。下向きに咲く小さな可愛らしい花は、苦みが特徴のあの野菜とはイメージが全く結びつかなかった。


「花言葉が『何とかの恵み』でね。多分『海』だったと思うんだけど」


 曖昧な記憶を引き出しながら、未来はやってみたらわかるとでも言いたげにピーマンの花へ問いかけた。


「ピーマンさん、あの海を元に戻せますか?」


 尋ねられた花は白い星みたいな花弁をるんるんと動かしたのち、蕾状に萎む。

 そして力強く開いた瞬間、ドンッと湧き水が出るような音が鳴り響いて、完全に割れてしまっていた海の水が一瞬で戻ってきた。


「うおっ、すっげぇ」

「あってたみたいだね。良かった」


 役目を終えたピーマンの花をそっと抱え、どこに植えてあげようかと考え出す未来。顔を動かすたび綺麗に結い上げられた髪がさらさらと揺れる。


「……未来。その花ちょっと貸せ」

「ん?」


 不思議そうな顔をする未来からピーマンの花を受け取って、後ろを向かせる。ポニーテールの髪ゴム部分を少し緩めて茎を差し込み、形を整えて固定した。


「似合う?」


 髪飾りにされたのだとわかった未来は、こちらに振り向いてそう聞いた。


「ああ。黒髪との色の対比が、すっげぇ綺麗」


 艶やかな黒に一箇所だけある真っ白な花は、未来の青い瞳ともよくマッチしていて、とても華やかに見えた。


「珍しいね、そういうこと言うの」

「おー。あんな怖い意地悪、もうされたくないからさ」


「今のうちに機嫌を取っておこうと思って」なんて誤魔化してみるも、本音だったと気付いているらしく、少し俯いて照れを隠す未来。その後なぜか、表情に陰りを見せた。

【第一四四回 豆知識の彼女】

ピーマンの花言葉:『海の恵み』『海の利益』


今回の花言葉はTwitterで仲良くして頂いている方から教えていただきました!ありがとうございます!


ところで、なんで海なのかなあと興味本位で調べてみたのですが、緑から赤に変色していく様子が、フランスでは赤い珊瑚のように見えたからという話があるようです。

なんだか素敵なお話っ!


お読みいただきありがとうございました。


《次回 二種の弓》

それぞれの弓の特性を活かして。

よろしくお願いいたします。

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